表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/350

第184話 答え合わせ

 スルティアの御披露目から数か月、ついにミロシュ様とスルティアが結婚することが発表された。


 スルティアが特に”祝福の守り”によって名声を不動のものにする期間、少しずつミロシュ様とスルティアの仲睦なかむつまじい様子をスルト国内に情報発信した。


 オレとアカシャとワトスングループの総力をあげて、超速で国内に新聞販売所を作ったかいがあったぜ。


 ワトスンさんが情報を重視してグループ内に情報専門の機関を設けていたことが、今回とても役立った。

 ワトスンさんの許可を得て、その機関の一部を報道部門として流用させてもらったからだ。


 まぁ、それによってワトスングループはさらに絶大な力を得ることになるとワトスンさんは気づいてたっぽい。



「もうボディガードなしじゃ外に出られない気がするよ」



 なんて、少し引きつり気味の笑顔で言っていた。

 アカシャがいないなら、その通りだね。


 ワトスンさんを襲撃しようとしたり誘拐しようとする計画は、全部アカシャが報告してくるから事前に潰れていたりする。


 でも、衝動的に襲ってくるヤツもいないとは限らないから、やっぱりボディガードはいた方がいいかもな。

 今のワトスンさんは正直、各領主となった元国王達よりもスルトでの影響力は大きいだろうから。

 万が一にも倒れられる訳にはいかない。


 というか、ワトスンさんがいなくなっちゃったら、オレが泣く。

 害するヤツは許さん。


 そういうわけで、ジョージ・ワトスンというスルト経済界の怪物(ひき)いるワトスン新聞社が一斉いっせいに朝刊で報道したことによって、スルト王都で発表されたミロシュ様とスルティアの婚約は、翌日にはスルト全土に広まった。


 貴族、平民、関係なく。


 今まであった情報格差がなくなったことで、最も大きな影響があったのは権力者たちだった。

 発表したのは、正室だけでなく側室も同時だったからだ。


 今まで都合の良い情報だけ平民におろしていた権力者ほど、勝手が違って焦っているようだね。



「なぜだ!? 正室はまだいい! だが側室は許されん!! 大領地を全て外すならまだしも、これではミーミルの1人勝ちではないかっ!! ミロシュ王に抗議のふみを出す! 今すぐ用意しろ!」



 元ノアトゥン王であるノアトゥン領主は、額に青筋を立てながら家来けらいにまくし立てていた。



「ふははははは! ミロシュ様は分かっておられる! ノアトゥンとフリズスの悔しがる顔が目に浮かぶわ!」



 ミーミル領主は小躍りして喜んでいた。



「…ふぅぅぅぅー。ジョアン・チリッチがいて、このバランスの悪さに気付かないということはあるまい。つまり、そもそも選考の基準が領地のバランスを考えたものではないということだ。何が悪かったかまでは分からぬが、すでに民にまで広まっている以上、今更どうにもならぬ。決定に口を出すことは許さぬということであろうよ」



 怒りをこらえるように長く息を吐いた豚王、いや、フリズス領主のアレハンドロさんは、冷静にこちらの思惑を分析していた。


 そして、発表をしたスルトの中枢ちゅうすうに深く関わるオレ達もまた、各国の反応を分析していた。



「ふーん。なるほどね…。答え合わせが必要なわけか」



 スルティア学園の会議室に映した映像を観ながら、オレはつぶいた。



()()()()私の予想と一致しましたね」



 ジョアンさんが言う。

 こんな感じになるであろうことはジョアンさんが事前に予想していた。


 側室候補、つまり中央の政治に深く関わることに、領主達が強く口出ししてくることは許さないということを、この際周知してしまおうというのがジョアンさんの作戦だ。


 大領地の顔色をうかがいながら政治を行わなければならないほどスルトは弱くない。立場を分からせるべきだというジョアンさんの意見にオレ達は賛成した。


 確かに今の状況なら、その方が国内がまとまりやすいと思う。



「まさか、アレハンドロさんが1番(わきま)えてるとはね。誰よりも欲望が強い人だと思ってたけど…、いや、だからこそなのかな?」


「そうでしょうね。しかし、彼がここまで自らを律することができる人物とは思いませんでした。評価を改めねばなりません」



 オレとジョアンさんは、フリズスのアレハンドロさんの評価を改めることで意見が一致した。



「表面的な情報と内面に大きな違いがあれば、それはアカシャすらあざむける可能性があるということだ。注意が必要だね」



 オレはアレハンドロさんをあなどっていた。

 アカシャを欺けるとすれば、恐ろしい人だ。もう決して油断はしないようにしよう。

 念のためワウリンカ級の警戒をしておくか。



「ええ。しかし、それと同時に、わきまえて行動できるということは、使えるということでもあります」



 ジョアンさんが指を1本立てて言う。


 なるほどね。言われてみれば、今回の婚約発表でもアレハンドロさんはこちらの意図を読んで余計なことはしないように心掛けているようだった。



「ふむ。なるほどな…。よし、ではアレハンドロ・バン・フリズスに関しては、わきまえ続ける限り優遇すると約束してやろう。きっと良い仕事をしてくれるはずだ」



 ジョアンさんの言葉を受けて、ミロシュ様が決定を下す。



「かしこまりました。では、他の2大領地には警告を、フリズスには約束をして参ります」



 オレはミロシュ様に、元々予定していたものから少し修正した行動予定を話した。

 元々は3大領地に警告をする予定だったからね。



「うむ。頼んだぞ」


「やりすぎない程度にお願いしますよ」



 ミロシュ様と宰相がそれぞれオレに返事をする。


 宰相の言葉に対する返事は1つだ。



「それは皆にも言った方がいいと思いますよ」



 オレはこの部屋で、早く会議終われという顔で待機しているメンバーに目を向ける。



「多少のやりすぎはワトスンが調整するじゃろ。大丈夫じゃ」


「それはあんまり大丈夫じゃないんですが。『大賢者』様」



 オレはふざけたことを言う大賢者の爺さんにツッコミを入れる。



「セイよ、せっかく王城ではなく学園でやっとるんじゃ。はよう行こう」



 戦闘狂の顔を見せる学園長が、待ちきれないとオレをかす。


 あんたら、会議で意見出すべき立場だろうよ…。



「はぁー。まぁ、いいか。行きましょう。他の皆も準備はいいな?」



 オレは席から立ち上がって、会議室の後方に歩き出す。

 今の位置だとミロシュ様と宰相を巻き込むからな。



「もちろん」


「待ちわびたの」


「アンタも大変ね」


「ガッ!」


「おじい様、ワトスンに頼りすぎです…」


「ドキドキするっス!」


「だ、大丈夫です…」



 アレク、ベイラ、ネリー、ミニドラ、ミカエル、シェルビー、セレナが返事をしつつ会議室の後方に集まる。

 ミニドラは小さくなってネリーの肩に乗った状態だ。


 念のため、やろうと思えば国をほろぼせるメンバーを集めた。



「じゃあ、行くぞ。”集団転移”」



 床に光魔法で、転移するメンバーが全員入るサイズの魔法陣を描き、集団転移の魔法を発動させる。


 次の瞬間、オレ達はノアトゥン城の上空に浮かんでいた。



「誰1人傷付けることも傷付けられることもなく、説明を行う。いいですね?」



 アレクがすぐに確認をとった。


 その時には、すでにオレ達のすぐ下には無数の火の玉が浮かんでいた。



『大丈夫です。防御魔法を破壊する程度に留められています』



 アカシャが報告してくる。



「分かっとるわい」



 大賢者の爺さんの"無塵"がノアトゥン城を包む防御魔法に降り注ぎ、破壊する。


 防御魔法が消えた瞬間に、キンッという甲高い音が聞こえた。



「白の攻略、1度参加してみたかったんじゃよなぁ」



 学園長が、アイスカッターとでも言えばいいのだろうか…。氷の刃で城の天辺を断ち切った。


 前にオレがウォーターカッターでスルト城の外壁を切った時と同じ理屈だ。

 魔封石を物理的な氷を出す魔法で切ったんだな。



「あーっ! ラファじいとロジャ爺が速すぎて乗り遅れたのっ!」



 ベイラがそう言いながら、学園長が切ってズレていく屋根を、風魔法でさらにバラバラに切る。



「あっ、ベイラのバカ!」



 ネリーがベイラの失敗に気付いて、大きくなったミニドラに乗って急降下する。


 このままバラバラになった屋根が落ちれば、下にいる人達が危ない。



「想定内だ」


「うん。そうだね」



 オレとアレクは、ネリーより少し早くベイラのやらかしに気付いていたので、もう屋根にれられる位置まで来ていた。


 2人で"空間収納"を使ってバラバラになった屋根を回収する。


 ノアトゥン城には大きな欠陥がある。

 魔封石や魔法の特性を考えると、王の間は城の中心部に作るべきなのだが、ノアトゥン城のそれは城の天辺にあるのだ。


 つまり、屋根が無くなったことで、下には王の間が丸見えになっていた。



「しゅ、襲撃か!」



 そんな声と共に下から様々な攻撃魔法が飛んで来たが、全員余裕を持って防いだ。

 シェルビーなんて、片手で炎を握りつぶしていた。

 成長したなぁ。



「ノアトゥン領主様、お久しぶりです。セイ・ワトスンです。抗議の手紙を書く必要はありません。直接お話を聞きましょう」



 オレが上から声をかけると、攻撃がピタリとんだ。


 何に対しても一切の文句を言うなとは言わん。

 文句の内容が正当であれば聞くだろう。


 でも、娘を使って裏から少しずつスルトを崩したり乗っ取ろうとするようなやからには、警告が必要だよなぁ。






お読みいただきありがとうございます。


間が空いてしまって申し訳ありません。

色々環境が変わって、時間が取りにくい状況でした。


いつも様々な形での応援ありがとうございます。

これからもマイペースではありますが、決してエタることなく更新していきますので、どうかよろしくお願いいたします。



次回更新は5/27(火)予定です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ