第183話 生ける伝説
スルティアの御披露目は大成功に終わった。
正直、大成功という言葉ですら過小評価なほどで、まさに現在進行系で伝説になっているというのが最も近い表現な気がする。
何しろあの日を境に、スルティアの"祝福の守り"を受けた者は突然の不幸な事故で死んだり怪我をすることが無くなった。
最初の1人は、道に飛び出して馬車に轢かれてしまった子供だった。
馬車に轢かれたその瞬間、子供が真っ白な光に包まれて、跳ね飛ばされた後に何事も無かったかのように無傷で起き上がったのだ。
これには必死の形相で子供を追いかけていた親をはじめ、多くの目撃者がいた。
親のスルティアへの感謝の深さは凄まじく、スルティアを神格化する勢いで崇拝し、周囲にもその素晴らしさを語り続けている。
大きな怪我以上の事故なんてそうそう起こることではないけれど、似たような事例が時が過ぎ去るに連れて増えている。
スルティアの祝福の守りによる奇跡の噂は広がり続け、広がるほどスルティアの人気が高まっている。
噂が噂を呼んで、ついに王都外から同様のことができないのかと問い合わせが来たほどだ。
まさに生ける伝説と言っていいだろう。
「王都でまだ"守り"を持ってない人達からの要望も凄い。ティア、予定より早く2度目3度目の儀式を行うことは可能か?」
今日は結婚についての打ち合わせに来ていたミロシュ様だが、その最中にスルティアに祝福の守りの儀式について尋ねてきた。
そう。あまりにスルティアの祝福の守りの評判が良すぎて、御披露目に参加できなかった人達から要望が来ているほどなのだ。
儀式は元々定期的に行う予定だったけれど、確かに今の状況であれば、王都の希望者に行き渡るまでは短い間隔で行うべきかもしれない。
「うむ。わしの体感では全く問題ないぞ。セイ、そもそも、わしの祝福の守りの対象人数に限界はあるのか?」
スルティア、こいつ、自分の能力について聞いてきやがった…。
まぁ、いいけど。
オレもアカシャに聞いてるから、似たようなもんだ。
『どうなんだ? 確か、なかったよな?』
『はい。正確にはダンジョン内に入り切れる人数までですが、実質ないと言って良いでしょう』
肩に乗るアカシャと頭の中で一瞬で会話し、スルティアの問いに直ぐに答える。
「いや、対象がダンジョン内にいる限りはいくらでも大丈夫らしいぞ。祝福の守りに使われてる魔力は、あくまで対象者本人のものだからな」
「ほう。わし、凄いではないか!」
スルティアはオレの説明に対し感心して、自画自賛をした。
でも、これは間違いなく自画自賛をするだけある能力だ。
正直、あまりにも素晴らしい。
効果は絶大。そして現状では唯一無二。
「実際すげーよ、マジで」
オレは感想をそのまま、素直に言った。
「うん。スルティアにしかできないことだよね」
「私もそう思うわ!」
アレクとネリーもスルティアを賞賛した。
「本当に、ティアは凄いな。でも、無理をしてはいけないよ。何かあったら、すぐに言うんだ」
ミロシュ様だけは、賞賛しつつもスルティアに負担がかからないかと心配していた。
「過保護じゃのぉ、ミロシュは。その辺、フィリプそっくりじゃ。ファビオもそうじゃった」
「む、むぅ…。建国王様はともかく、親父殿の過保護さと似るのは…マズいか?」
スルティアの指摘に、助けを求めるように突然オレ達に聞いてきたミロシュ様にオレ達は笑った。
そしてその後、割と真面目に、アレと似るのはマズいっす! という内容をお伝えした。
ミロシュ様もどうやらすでに気付かれておられるようで良かったけど、お互いにマイナスしかないような過保護はダメ、絶対。




