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第182話 御披露目

 今日はスルティアの御披露目おひろめの日。


 朝からスルトの城を囲むように民達が何万人も集まっている。


 全員がスルティアの挨拶を一目見たいと集まった人達だ。

 そうなるように誘導したオレ達が言うのもなんだけど、すげえ人気だね。


 すでに何度かスルティアを連れて王都を散歩した時に分かってはいたけれど、十分に国民に受け入れられている。



「ううー…緊張するのぉ…」



 でも、そのスルティアは本番を前に緊張しまくっていた。


 これから出ていくバルコニーの手前にある部屋のソファーで両手を組み、ずっとそわそわしている。


 そのスルティアにソファーの背後から近づき、優しく両手で包み込んだ人物がいた。

 ミロシュ様である。



「大丈夫だよ、ティア。私は君がとても強い女性だということを知っている」



 ミロシュ様は、スルティアに優しくそう言った。

 甘々である。


 とはいえ、言っていることは間違っていない。

 オレも、スルティアならできると思っている。



「そうね。失敗しても死ぬわけじゃないわ!」


「なの!」



 たぶん、ミロシュ様が言った()()の方向性を間違っていそうなネリーとベイラが、ミロシュ様の言葉を強く後押しした。



「うむ。そうじゃな! 何かあっても、セイが音声魔法とかで何とかしてくれるじゃろ! その時は台詞せりふをジョアンが考えれば良い! わしは口パクすれば良い! いける!!」


「それのどこがいけるんだよ、スルティア…」



 オレは秒でツッコミを入れた。



「まぁ、そうですね…」



 !? …嘘だろジョアンさん、納得するのかよ! 



『念のため、準備いたします』



 アカシャさんまで!?



「ふふ。とにかく、どうとでもなるということさ。では、そろそろ行こうか、ティア」


「うむ」



 ミロシュ様はソファーの前に移動して、楽しそうにスルティアに手を差し出した。

 スルティアはその手を取り、2人でバルコニーに向かって歩き出す。


 さっきのが冗談かどうかはさておき、それを見たオレはなんとなく、いけると思った。





 ミロシュ様とスルティアがバルコニーに出ていくと、外に集まっている国民達の信じられないほどの大きな歓声が聞こえてくる。


 2人とも凄い人気だ。

 オレたち裏方は、皆で顔を見合わせて静かに笑い合う。

 ここしばらく、こうなるように動いてきたのだから。

 成果が出たということだ。


 もちろん、あの2人の実績あってのことなのだが。



「すでに知っている者も多いとは思うが、このたびとてつもないおかたが、正式にスルトの一員として参画さんかくしてくださることとなった。今日はその御披露目おひろめとなる。紹介しよう、スルティア殿だ」



 ミロシュ様がスルティアを国民に紹介する。


 スルティアとも、スルティア様ともせず、スルティア殿としたのは今後の布石ふせきだ。

 ミロシュ様とスルティアは対等の関係。

 そう世間に知らしめておきたかった。

 呼び方については、そういう政治的配慮だった。



「スルティアじゃ。『建国王』フィリプの友人であり、フィリプらと共にこのスルトを創り、守ってきた『不死者』じゃ」



 スルティアが一歩前に出て、ゆっくりと話始める。


 緊張しまくっていた先ほどまでが嘘のようだ。

 スルティアはとても堂々と、眼下の国民達を見ながら話している。



『この分ですと、念のための準備は無駄になりそうですね』


『そうだな』



 オレとアカシャはバルコニーに出てすぐの国民達から見えない位置で拡声魔法を使い、スルティア達の声を国民達に聞こえやすいようにしていた。

 スルティアが口パクする時のための音声魔法の準備は、やっぱりいらなかったらしい。



ながいこと、わしは学園で陰ながらスルトを支えておった。しかし時代は変わり、これからは表で直接スルトを支えてゆくこととなった。皆のもの、よろしく頼む」



 スルティアがそう言うと、国民達の歓声がき上がる。


 スルティアはその声や指笛などがおさまるのをたっぷり待って、国民達の聞く態勢が整ってから続けた。



「スルトに住まう全ての者達は、わしの子供のようなもんじゃ。親としてのわしの願いはただ1つ」



 続けたスルティアの言葉は、打ち合わせとは違った。



『音声魔法、消音魔法、発動いたしますか?』


『いや、大丈夫だろ。スルティアを信じよう』



 打ち合わせと違うことに対してアカシャから確認があったけれど、オレは問題ないと判断した。


 スルティアが緊張して訳が分からなくなっているというよりは、アドリブで言いたいことが浮かんできたという顔つきをしていたからだ。



「”幸せになれ”」



 さらに続けられたスルティアの言葉に、オレはニヤリと笑う。

 ほらな。やっぱり問題なかった。


 スルティアの言葉に、本などを読んでこれまでのスルティアの生きざまを知っている国民達の一部は涙を流していた。

 これがスルティアの心からの言葉だというのが、彼らには分かったのだろう。



「わしはスルトの子らが幸せになれるよう、これから100年、1000年、スルトを支え続けよう」



 打ち合わせどおりの言葉に合流した。

 もう安心して聞いていられるな。


 アカシャを通じて見れる国民達の反応も良好だ。

 狙撃しようとする不届き者も見当たらない。

 そういう計画をしたやからを事前に排除したのも一役買っているだろうな。


 ここからは極めて順調に、とどこおりなく進んでいった。



「では、最後に祝福を授ける。学園にいたものは知っておるじゃろう、『祝福の守り』じゃ。まだ王都に限られるが、1度だけお主らを危険から守ってやれる。祝福を受けるものは手をかかげよ」



 ついに最後の、そしてこの御披露目の目玉とも言える瞬間がやってきた。


 最後の最後に行われる奇跡。

 これまでのスルティアの伝説の証明であり、これからの伝説の幕開けだ。


 スルティアの足元があわい緑色に光始め、やがてスルティアを中心に光の柱が立った。


 国民達はこぞって手を天に掲げている。


 そして、手を掲げた者の元にそれぞれ、空からスルティアと同じ光の柱が降りてくる。


 奇跡を目の当たりにしている国民達の熱狂は最高潮だ。


 かつてスルティア学園でのみ起こっていた謎の奇跡は、今日を境にスルトでスルティアによって引き起こされる奇跡に変わる。


 やがて、スルティアと手を掲げた者達に降り注いでいた光の柱は一際強く輝いた後、徐々に細くなり消えていった。


 付与完了だ。


 国民達は消えていった奇跡の光を惜しむように、自分の手や体を確かめている。

 残念ながら、いざという時が来るまでは、その効果の実感を得ることはできないが。


 今回、スルティアのダンジョンを王都全域まで広げた。

 現在のスルティアの限界は王都全域より少し広いくらいだが、いずれはスルトの人が住まう場所全てに行き渡らせたいというのがスルティアの希望だ。


 スルティアのダンジョン領域内にいて『祝福の守り』を持つ者は、これから突然の事故などで怪我をすることは無くなると言ってもいい。


 今よりも数年後や数十年後、スルティアの伝説はより盤石なものとなるだろう。



「以上じゃ。みな息災そくさいを祈っておる」



 スルティアがバルコニーから下がり、ミロシュ様やオレ達もそれに続いて下がる。



 スルティア! スルティア! スルティア!

 国民達が去っていくスルティアに対して贈ったコールは、その後しばらくの間、城の中まで響き続けた。






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女神様スルティア様でした♪
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