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第180話 これからの仕事

「なるほど…。ミロシュ様は正室せいしつに生ける伝説のような存在であるスルティア様を選んだ。でも、そのスルティア様は子が産めない体質なので、側室そくしつがどうしても必要ということか」



 オレ達の説明を聞き終わったソラナさんは、腕を組みあごに手をやって考えながらジョアンさんに確認を取った。



「左様でございます」


「どうして私に話を持ってきたんだ? ミロシュ様の側室なら、いくらでも候補がいるだろう? 売り込んでくる家すらあるのではないか?」



 それはそうだ。

 例えば、フリズスの豚…王ではなくなったのか。アイツなんかは、たくさんいる娘を誰でもいいからミロシュ様にとつがせようと必死だ。

 本人の意思を無視しているし、良からぬことを考えているから却下きゃっかしているけど。



「貴方に声をかけたのは、貴方が適格だからですよ。とはいえ、打診をしているのは貴方だけではありませんが」



 売り込んでくる家のことには触れずに、ジョアンさんはソラナさんの問いに答えた。

 理由があって言わなかったのか、ただ言わなかっただけか分からないので、念のためオレも売り込んでくる家のことは言わないようにしておこうかな。



「重要なのは、子供が産める健康な女性であること。不要な野心を持っていないこと。そして、相応ふさわしい人間性です。僕達は、貴方のような方をミロシュ様の側室として迎えたい」



 オレはミロシュ様の側室候補の条件をソラナさんに話す。

 ソラナさんは全部完璧に当てはまっていると思っている。


 できることなら、ソラナさんにはミロシュ様の側室になって欲しい。


 彼女なら、スルティアとも上手くやっていけるだろう。



「あくまで、ソラナ様さえ良ければという話です。私達は本人が望まない結婚をすすめるつもりはありません」


「ですが、私達はソラナ様の望みを知っています。きっとこの話は、お互いの利になるでしょう」



 ネリーがオレの話を補足し、それをさらにジョアンさんが補足する。


 同じ政略結婚でも、力を背景に国を乗っ取る目的でおどしとしてせまったフリズスと、オレ達は違う。

 嫌だったら断って欲しい。

 お互いに利があればという、ビジネス的な政略結婚を望んでいる。



「…少し、散歩に付き合ってくれるか?」



 ソラナさんは思いつめた感じの顔で立ち上がり、その後に軽く笑顔を作りながらオレ達に問いかけた。



「ええ。喜んで」



 ジョアンさんはすぐにやわらかい笑顔でそう言って、立ち上がる。


 オレとネリーもそれに続いて立ち上がった。



「父上。この話、私の一存で決めても良いだろうか?」



 オレ達の反応を見たソラナさんは、まだテーブルについている父親に、ミロシュ様の側室になるかどうかの判断を自分の独断で決めていいかどうかを確認した。


 おいおい。大丈夫か? リバキナにとってかなり重要な決断なはずだけど…。


 女王だったソラナさんの先代の王であった彼は、わずかなため息をつきながら目をつむり、少しだけ考えた後に目を開け、口を開いた。



「…許す。お前は十分すぎるほど、この国に尽くしてくれた。どちらを選ぶにしろ、全力で応援しよう」



 仕方あるまいといった、少し渋い顔で許可を出した父親に対して、ソラナさんはフッと口角こうかくを上げて笑う。



じいも、良いか?」


「爺と呼ばれるのは久しぶりですな。ええ、姫様のご決断を支持いたしましょう」



 元宰相である領主補佐官に対してもソラナさんが同様の確認を取ると、彼は爺と呼ばれたのが嬉しかったのか、孫に向けるような笑みを浮かべて快諾かいだくした。







 ソラナさんの散歩に付き合って城を出ると、ソラナさんに気付いた城下の民達がこぞって彼女に挨拶をしたり手を振ったりしてくる。

 客であるオレ達がいるので、決して彼女の邪魔にならない程度にしながらだ。



『ご主人様。後ろから騎士団が付いてきております。会話が聞こえないよう配慮はしているようですが…』


『害意はないっぽいから、ほっとこうぜ。問題ないよ』



 距離を空けて騎士団が付いてきてるらしい。

 魔法を使っても会話が聞こえない距離なんて護衛の意味はないと思うけれど、心配なんだろうな。


 少し散歩するだけでも、彼女がいかにリバキナの民にしたわれているか分かる。




 ほんの10分ほど歩いただけで城壁にたどり着く。

 どうやら、ソラナさんは城壁の上に登りたいようだ。


 ソラナさんに続いて城壁を登ると、そこからは城壁を囲むように広がる畑が見えた。



長閑のどかな風景だろう? 田舎いなかではあるが、私はこの風景が好きなんだ」


「分かります」



 農家出身であるオレは、ソラナさんに共感した。


 このゆっくり時間が流れているような景色、いいよね。



「今年の大豊作で、たみの笑顔が増えたんだ」



 ソラナさんが嬉しそうに言う。


 視線の先を見てみると、笑顔の農民が畑をたがやしていた。



「私達は、この笑顔のために戦ってきたと思ってるわ!」



 ネリーが誇らしそうに言う。



「ああ、君達のおかげだ。…ワトスン君。以前君が言っていた、民が戦争や食の心配をすることなく、どうやって人生を楽しむかを考えられる世界。少しずつ近づいていると感じるよ」



 ソラナさんが、フリズスと戦争になりかかった時に話したことを持ち出した。


 近づいてるかな? この大陸での大規模な戦争はもうしばらくは起こらないはずだし、少しは近づいたかな。

 でも、日本にいたオレとしては、この程度ではまだまだだと感じる。



「まだまだですけどね。やっと、おおよそ戦争が起こる心配がなくなったんです。これから、もっとずっと豊かにしていきますから」



 オレが笑ってそう言うと、ソラナさんは真剣な顔でうなずいた。



「そうか。はっきり言うが、私は野心を持っている。このリバキナを、スルトでも有数の豊かな地域とすることだ。それでも、私はミロシュ様に適格か?」



 ソラナさんの問いへの答えは、もう決まっている。

 なぜなら、この情報は知っていたからだ。


 だから、ジョアンさんはほどんど間髪入れずに答えた。



「ええ。その野心は問題ありません。行き過ぎなければですが。具体的には、正室の座を奪おうとしたり、自らの子を利用して実質的にスルトの支配を目論むような野心は許しません」



 淡々と語ったジョアンさんに対し、ソラナさんは苦笑いを浮かべる。



「なんだそれは。スルト全体をゆがませては本末転倒だろう。私は、リバキナの民の笑顔を増やしたいのだ」


「貴方がそういう人だから、ミロシュ様の側室に適格なんですよ」



 意味が分からないといった様子のソラナさんを見て、オレは笑って言った。


 この人がミロシュ様の側室になるなら嬉しいな。



「そうか? ところで、頻繁ひんぱんな里帰りは可能だろうか? リバキナの様子はこの目で見たいのだが…」



 どうやらソラナさんはミロシュ様に嫁ぐことに前向きらしい。

 さっきから、質問が側室になる前提だ。


 オレは転移があるから余裕ですよという話をしつつ、考える。



 ソラナさんのような、側室に置いても問題が起こりにくい人を何人か選定できたとして。

 結局、それでも問題は出るだろう。


 ミロシュ様とオレ達がやろうとしていることは常識から外れたことで、人の心が絡むのだから。


 それでも、情報を使って、できる限り皆が、もちろん自分も、幸せな状況を作る。


 それがオレの、オレ達のこれからの仕事だ。








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