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第176話 最も親愛なる存在

 ずっと。ずっと、もう1度会いたいと思っていた。


 今でもあの頃のことは夢に見る。


 学園に入学して間もなくノバクが生まれ、王位継承権を剥奪されたことで、私は同クラスのみならず学園中の多くの者達からいじめを受け始めた。


 当時、私に辛く当たることによって、王の考えに賛同しノバクを次代として支持するという風潮が間違いなくあった。

 今考えると、かなりの子供達は親からの指示で私をいじめていたのかもしれない。

 そうすることで、誰に付くか、貴族として旗幟きしを鮮明にしているつもりだったのだろう。


 私は食堂でまともに食事をとることすらかなわず、薄暗いトイレの個室にこっそりと食料を持ち込んで涙をこらえながら食事をとっていた。


 そんなことがしばらく続いたある日、私がいつものようにトイレの個室に持ち込んだパンをかじっていた時、いつの間にかドアの前に小さなゴーレムがいた。


 最初は、私をいじめるために誰かが潜り込ませたものだと思って、排除しようとした。

 だが、その小さなゴーレムは慌てたように身振り手振りで、害意がないことを伝えてきた。


 私が受け入れる様子を見せると、そのゴーレムは小さな手の上に突然料理の乗った皿を出現させた。

 皿の上には、出来立てに見える美味うまそうな肉料理が乗っていた。


 小さなゴーレムは、私に食べろと言うように皿を差し出した。

 私は一瞬迷ったが、美味そうなにおいにあらがえずに、食器も使わず手づかみでそれを食べた。


 その肉料理は、涙が出るほど美味かった。


 大陸をべる王となった今でも、人生で1番美味かった料理を聞かれれば迷わずそれを思い浮かべるだろう。


 それからも、小さなゴーレムは私が人目に付かない場所で1人きりになると度々(たびたび)現れた。


 言葉は話さないが、彼は私の学園時代の唯一の親友だった。


 私がいじめられているときに、ふいに相手の頭の上に何か落ちてきたり、屋外ならば相手の足に草が絡まったり、何かに守られている確信はあった。


 それが私の支えで、きっと彼だと思っていた。

 おそらく、彼が噂の『学園の支配者』なのだろうと、何となく感じていた。



 "彼"ではなく"彼女"だったのだ。





 初めて見た時から、美しく、なぜかとても気になる女性だと思っていた。


 今思うと、一目惚ひとめぼれだったのかもしれない。


 だが、明確に彼女を愛するようになったのは、()()彼女が気になっていたのか、その答えが分かった時からだ。


 最初ティアと名乗っていた彼女の正体は、『学園の支配者』スルティア。

 私の祖先である『建国王』フィリプ様と共にこのスルトを創った、文字通り国母と言える存在。


 それを知った時は衝撃だった。

 ティアが気になるのは当然だったのだ。

 私の本能が、彼女との運命的な再会に気づいていたに違いない。


 ティアは、あのゴーレムを通して私の人生で最もつらかった時期を支えてくれた、この世で最も親愛なる存在だ。


 願わくば、生涯彼女と共にありたい。

 人間でなくとも、子が産めずとも、最も親愛なる存在は彼女なのだ。


 ティア本人の気持ちと、周りの者達次第ではあるが。

 どんないばらの道であっても、実現したいと思っている。



「セイ。宰相との話は聞いていたか? もしティアが私のプロポーズを受けてくれたら、君達は協力してくれるだろうか?」



 私は宰相との話を終えた後、虚空こくうに向かって語りかける。


 ここは王城だからすぐに念話が返ってくることはないが、こう言っておけばセイは仲間達と話し合ってくれるだろう。



「ティアは千年を孤独に生きてきたと聞いている。かつて私がティアに支えられたように、私が生きている間だけでも、ティアを支えてやりたいのだ。私が、すぐそばで…」



 私よりずっとさみしい思いをしていただろうに、私の寂しさをいやしてくれたティア。


 君は私の想いに、どう答えるだろうか…?







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