第175話 昨日はとても穏やかな1日だった
昨日はとても穏やかな1日だった。
実家のゴードン村に帰って、ミロシュ様とジョアンさんに家族を紹介し、家族にネリーと正式に婚約したことを伝えた。
父ちゃんは最初ミロシュ様を王様と同じ名前の別人と認識していたらしく、途中で真実を知って酒を吹き出したりして、皆でメチャクチャ笑った。
ミロシュ様はむしろ、ここでは王ではなくミロシュとして接して欲しいなんて言って、気にしてないどころか積極的に父ちゃんに気安さを求めていた。
家族の温かさなんて知らずに育ってきた人だからな。
今も王としての重責と戦っている。
心が休まる場所を求めていたのかもしれない。
それは、一晩泊った今日の朝、帰り際のミロシュ様の言葉にも表れていたように思う。
「セイ。私をここに連れてきてくれたこと、感謝する。お前の家族は素晴らしいな。昨日、結婚について考えがあると言ったこと、覚えているか? 私は間違えていないのだと確信したよ。近いうちに行動に移そうと考えている」
そう言ったミロシュ様の顔は、とても晴れ晴れとしていた。
オレも、ミロシュ様に家族を紹介して良かったと思った。
次の言葉を聞いて、ちょっと複雑な気持ちになったけれど。
「どうせお前にはすぐに知られることだから、先に言っておこう。私はティアを正妻として娶りたい」
昨日はとても穏やかな1日だった。
今日はそうではない。
王であるミロシュ様が、不死者で子供ができないスルティアを正妻として娶る。
どう考えても問題アリだ…。
応援する。スルティアにも幸せになってほしいし、応援はする。
が、大いに問題はある。
今現在、王城でさっそくミロシュ様の相談を受けている宰相は頭を抱えている。
アカシャがそう教えてくれた。
「相談があるって、何? 難しい顔しちゃって。昨日はあんなにはしゃいでたのに」
「場所とメンバーにも意図を感じます。仲間内で何かあったのですか?」
ネリーとジョアンさんが、椅子に座るなり質問をしてくる。
ミロシュ様のことを相談しようと思って、オレの屋敷の自室にネリーとアレクとジョアンさんを呼んだのだ。
ベイラは呼んでないけどいる。
ジョアンさんはさすがに鋭いが、オレはひとまず何も言わずに王城のミロシュ様と宰相の様子を壁に映した。
「あ、ああ…」
「そういうこと…」
「なるほど。それで、ダンジョン化されていない主殿の屋敷ですか」
事態を把握したアレクとネリーとジョアンさんが、それぞれ反応をする。
「何か問題があるの? 誰と誰がくっつこうが、別にいいと思うの」
事態を把握できていないベイラが、疑問を口にする。
「まぁ、そうなんだけどな。人間の世界は複雑なんだよ…」
1番強いヤツが後継ぎになればいんじゃね、ってノリだからね妖精は。
動物の群れとかもそうだし、それはそれで理に適ってると思うけどさ。
「まずはスルティアの気持ち次第よね!」
ネリーは少し楽し気にそう言った。
ポジティブなのは素晴らしい。
オレも気持ちが楽になった。
そう、上手くいきさえすれば、いいことしかない。
ポジティブに考えよう。
オレ達は、2人が結婚したいって言うなら、それを現実的な手段で実現させてやる方法を考えればいい。
「スルティアの気持ちが問題ないとしたら、次の問題は後継ぎだよね?」
アレクが問題点をあげる。
オレが考えた1番の問題点もそこだ。
「世論の問題もあります。スルティア殿を今の立場のまま王妃とするならば、多くの貴族が黙ってはいないでしょう」
ジョアンさんが、オレがあまり重視していなかった問題点をあげてくれた。
確かに。ごり押せば通るからって、やっていい理由にはならないな。
世論の納得は必要だ。
「ってことは、スルティアが国母であり『学園の支配者』と周知すればいい?」
「難しいところですね。それはそれで、スルティア殿が人間ではないことが問題になるでしょう。しかし、今の立場よりは良いでしょうか…」
オレが聞くと、ジョアンさんがどちらにせよ問題が出ると答えてくれた。
「僕たちはミロシュ様を応援するってことでいいよね? それで、スルティアが了承する前提だけど、側室の選定と世論を納得させる方法を考えるのを手伝えばいいかな?」
アレクが分かりやすくまとめてくれて、皆で頷く。
「アカシャ。ミロシュ様の側室候補となり得る家格の未婚女性をリストアップしてくれ」
「かしこまりました」
アカシャが秒でリストアップを終える。
さすがアカシャさん、いつも最高に仕事が早い。
「宰相とは早めに合流して共有しておきましょう。彼も1人では辛いでしょうし」
ジョアンさんの提案に、オレ達は深く頷いた。
オレも1人では抱えきれなかったから、ソッコーで皆に相談したからね。
今の宰相の気持ちは、察するに余りあるわ。
しかし、スルトの王族は愛情に極端な人が多いよな。
遺伝か?




