第173話 シャレになってない
今日はウトガルドとの戦争後初めて、ゴードン村の実家に帰る日だ。
目的は主に3つ。
単純にゆっくり休むため。
新しく仲間を紹介するため。
そして、ネリーと正式に婚約したことを伝えるためだ。
ちなみに、戦争での無事の報告はすでにしてある。
戦争後の忙しさが一段落したオレ達は学園に戻る前に正式に婚約し、それを発表した。
成人まであと1年と少しとなった今、将来有望な貴族で婚約をしていない者は学園でメチャクチャにモテる。
いや、モテるなんて生易しいものじゃない。狙われる。襲われる。集中攻撃を受ける。あれはそんな感じだった。
これはアカシャに見せてもらった過去の話ではない。実際に見たのだ。
アレクは元々モテる奴だった。
でも、戦争から帰った後は次元が違った。何て言うか、もう、群がられていた。
英雄だのなんだの、とにかく理由を付けて女子が寄ってきていた。
婚約を発表したオレは、難を逃れた。
これは妬みや嫉みではない。
アレはマジでヤバかった…。
婚約を発表したオレにも多少空気を読めない女子が寄ってきたけれど、ネリーが威嚇して追い返していた。
ありがてぇ。
平成生まれの日本人としては、側室も妾も抵抗あるんだよね。
オレにはネリーだけで充分だ。
「僕もそろそろ婚約者を決めるべきらしい。たとえ形だけでも、婚約者は作っておくべきだったようだ。僕の家格だと、特に」
「そういえば、公爵家の跡取りなのに婚約者がいないのよね。アレクって。幼少期に親が決めておくのが普通じゃないの?」
学園に戻ってまだ数日にも関わらず、戦争よりはるかに疲れた様子のアレク。
ネリーが当然の疑問を口にした。
ミカエルも婚約者はいるし、ノバクやペトラは他国の王族と婚約していた。
オレ達は王都に作ったオレの屋敷の談話室で、ゴードン村に転移する全員が集まるのを待ちながら雑談していた。
別に屋敷とかいらなかったんだけど、オレじゃなく周りが必要だという話なので作った。
一般市民に金を回すため、あえて自分で作らず大金をかけて作った屋敷だ。
たまには使わなきゃね。今のところ、ほぼ使用人しか使ってないから。
「そうなんだけどね。僕、幼少期は生きるか死ぬかの毎日だったから…」
「アレクは普通じゃなかったから、仕方ないよな」
オレは困ったね、という雰囲気を出して頷いた。
つまり、アレクと家格が見合っていて婚約者がいない女性も普通ではなく、数が少ないということになる。
アカシャがいるから、リストアップ自体は簡単だけど。難しい問題だ。
今のオレ達くらいの年齢になってくると、婚約は形だけってわけにはいかないことが多い。
幼少期の婚約なら、親が決めたことだからねと、解消のハードルも低めなわけだ。
「そしてここにも、幼少期どころか青年期も普通ではなかった男がいるわけだ」
ミロシュ様が、ニヤリと笑いながら談話室に入ってきた。
結構前から話を聞いていたらしい。
それはあまり笑えない冗談なんだよなぁ…。
ミロシュ様の結婚相手探しは、アレクの婚約者探しとは比べ物にならないほど最優先事項だった。
でも、親が外圧に負けてやらかしてるだけに、とてもナイーブな問題として慎重に扱われている問題だ。
ミロシュ様を結婚させないようにしていたのも含め、とにかく全部ファビオが悪い。
早くも自給自足の生活に相当困っているようだけど、そう簡単には助けてやらん。
「ミロシュ様、それはシャレになってませんって…」
オレは苦笑いでツッコみ、皆も共感したように頷いた。
「ふふ、大丈夫だ。私にも考えがあるのだよ。それに、たとえ私に子ができなくてもスルトは続く。エレーナもキャメロンもいることだし、何よりお前達がいるからな。それより、今日は面白いところに連れて行ってくれるのだろう?」
ミロシュ様は少し困っていたオレ達を見て、分かりやすく話題を変えてくれた。
でも、これはアレか。暗に結婚相手については干渉不要って言ってるのかもしれないな。
念のため、手伝ってくれと言われなければ手を出さないでおこう。
「ええ。今日は、ここにいる義父ジョージ・ワトスンさんとは別の、オレの家族を紹介します」
ゴードン村への招待と、家族の紹介。
ミロシュ様やジョアンさんにはまだ紹介してなかったからね。
オレにとって、何よりの信頼の証。
特にミロシュ様にとって、ほとんど誰も知らないオレの秘密を知っていることは大きな安心材料になるはずだ。




