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第172話 平和な国の原型

 ウトガルドとの戦争が終わってから1か月が経った。


 予想はしていたとはいえ、この1か月は戦争前と変わらないかそれ以上の忙しさだった。


 対外的にウトガルド王、ファビオ、ペトラの公開処刑が行われ、断頭台で3人の首が落とされた。

 魔法で作った超精巧な映像は、れない限り決してバレることがないものに仕上げた。


 極まった映像情報は、視覚だけでは本物と偽物を区別できないのだ。

 なぜなら、そもそも視覚というものが光の情報を取得することによって得られているものだから。

 本当にそれが起こった時と全く同じ光の情報を得たとき、目から得た情報を脳は違和感として認識することはできない。


 よって今のところ、眉唾ものの噂以外で3人の生存を知る者は、元々それを知っている者だけだ。


 スルトはウトガルドとの戦争における勝利と、今後大陸を統べる覇者となることを大陸中の国へ宣言。

 そして、その結果がスルトに都合良く作用するように情報操作を行った。

 大陸中に散らばっているワトスン商会やアレクが統率する暗部によって、9割以上真実の噂をばらまいたのだ。


 ちなみに、噂をばらまいた本人達には、噂自体を真実だと思い込んでもらうように工夫した。

 これによって、噂の源泉が真偽判定に引っかからないようにした。

 数少ない本当の真実を知る者達は、真偽判定持ちの前で決して嘘の噂を話さないように管理している。


 宣言後、光の速さで恭順を申し出た元フリズスの豚王のおかげで、大陸の趨勢すうせいが完全に決まった。

 恭順が遅れるほど不利という流れが出来上がり、残る2つの大国ノアトゥンとミーミルも恭順することとなって、流れはさらに加速した。

 今ではまだスルトに恭順の意思を示ししていない国は、残り数か国というところまで来ている。


 スルトはその残り数か国を武力をもって支配するつもりはない。

 そのうち間違いなく、スルトに恭順した方が得であると分からせることができると確信しているからだ。


 分かっていてなお恭順しないという国もあるかもしれないけれど、それならそれでいいとオレ達は結論を出した。

 オレ達の目標の本質は、大陸に戦争のない平和な状態をもたらすこと。

 小国が恭順せず残ったとしても、スルトに対して戦争を仕掛けてくることはないはず。戦争を仕掛けた瞬間に併合されることは目に見えているのだから。


 それにしても、フリズスの豚王は上手くやったもんだ。

 いち早く国を捨てスルトとなることで、フリズスからフルゼスへとこっそり改名したことによる問題をうやむやにした上で、大陸全体でのスルトへの恭順を加速させたことでスルトに恩を売った。

 豚王としては大満足の条件を得たと言えるだろう。

 それでも、ミロシュ様とジョアンさんと宰相の手のひらの上で転がされた感はあったけれど。


 このような出来事があったこの1か月のオレ達の仕事は、主に平和維持活動。

 どれだけ苦心して仕組みを考えても、どうしても争いの芽を完全に潰すことは難しい。

 だから、アカシャの力で情報を掴んで、争いを未然に防いでまわった。

 おかげで戦争、紛争、またはそれにつながるような重大事件は全部防げた。


 ちょっとした小競り合いとかは、さすがに無理。仲良くしてくれよと祈る。


 完璧なものは厳しいけれど、平和な国の原型くらいは出来たと言えるんじゃなかろうか。



「目が回るような忙しさだったけれど、ようやくある程度落ち着いたわね」


「そうだな。変化が大きかったから混乱も大きかったけど、新しい環境に慣れてきたんだろう」



 イザヴェリアの領主屋敷の談話室でオレは、ぐったりとソファーの背もたれに身を預けながら、ネリーの言葉に相槌を打った。



「皆様、お疲れさまでした。私の生きている間には達成できないかもしれないと思っていた野望が、まさかこんなに早く達成されることになるとは、主殿達に出会うまでは思ってもみませんでした」



 ジョアンさんが感慨深げに語った。



「オレも、ジョアンさんに会うまでは大陸を統一することなんて考えてなかったよ」


「ふふっ。そうだったね」



 オレは普通にジョアンさんの言葉に答えただけだったのに、なぜかアレクはそれが可笑おかしかったらしい。



「私の父と母は、戦争で亡くなりました。これからの将来では、私のような思いをする人間は間違いなく減ることでしょう。生まれてきた我が子にもそのような未来を与えてやれること、本当に感謝いたします」



 やべぇ、ジョアンさんが涙ぐんでしてる真面目な話、ソファーにぐったりしながら聞いてたぜ…。


 オレはジョアンさんの話の途中から、真面目な話の匂いを嗅ぎ取って居住いずまいを正した。

 ちょっと遅すぎた気もするが、まぁギリギリセーフだろう。



「お礼なんて言わなくていいわ。平和な国を作ることは皆の目標だったじゃない。ねぇ、セイ?」


「そうそう。それを言ったら、オレ達だってきっかけをくれたジョアンさんに感謝だよ」



 ネリーに話を振られたので、オレは笑ってジョアンさんに答えた。



「そうですか。フッフッフ。では、これだけ言わせてください。これからも、この大陸のたみのために、共に邁進まいしんしてまいりましょう」



 ジョアンさんは、たぶんあえて、スルトのためにではなく大陸の民のためにって言った。


 今ここにいるのは、オレとネリーとアレクとジョアンさん、あとベイラだけだ。


 もちろん裏切るつもりは毛頭もうとうないだろう。きっとこのメンバーだから、本当に大切なのはスルト自体じゃなく人だと言いたかったんだろうな。



「ああ。そうだな。この大陸の民のために…」



 オレは立ち上がり、ジョアンさんの前まで歩いて右拳を突き出した。

 ネリーとアレクも同じように歩いていて、同じタイミングで右拳を突き出す。

 ジョアンさんも察して、一緒のタイミングで右拳を突き出した。

 ベイラは拳の上辺りに飛んで来る。


 オレ達は笑顔でコツンと拳を合わせ、志を同じくしていることを確かめた。


 ベイラが合わさった拳の上に、ちょこんと座る。



「ま、それも悪くないけど。あたちはまず、あたちのために頑張るの」


「駄妖精、空気を読みなさい」



 ベイラらしい宣言に、オレの肩の上のアカシャが無表情でツッコむ。


 空気が読めるようになるなんて、アカシャは成長したなぁ。


 オレ達は笑った。


 でも、ベイラの言うとおりだ。

 まずは自分。それでいいじゃないか。


 ネリーと目が合って、何となく、似たようなことを考えたのかなと思った。






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