表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
335/365

第169話 歴史は密室で決まる

 スルト王城。


 数年前、ボズが消えたことに対する会議が行われていた円卓に、オレは座っていた。


 あのころとはずいぶん、立場が変わったものだ。


 オレを含め、座っているメンバーもかなり変わっている。

 変わっているというより、増えていると言うべきか。


 当時のメンバーは部屋の中には全員いる。

 立場が変わって、座っていない人もいるけれど。


 新たに座っているのは、オレ、アレク、ネリー、ジョアンさん、スルティア、ダビド将軍。

 変わっていないのは、ミロシュ様、大賢者、学園長、宰相、ギルド長。

 立場が変わり座っていないのは、ファビオ、第一騎士団長、第一魔法士団長だ。


 騎士団長と魔法師団長は今の体制で相対的に立場が下がっただけなので、警備としてミロシュ様の後ろに控えているが、ファビオは裁かれる立場としてウトガルド王と一緒に立っているので、悲惨な変わりようだ。


 戦争を終えたオレ達は、スルト王都に帰還した。

 ウトガルド軍からは、ウトガルド王とロマンさんだけ捕虜として連れてきた。

 将軍も来たがったが、彼をスルト王城に招き入れることはできない。今更暴れるとは思わないけれど、念のためだ。彼には軍をまとめてウトガルドに戻ってもらった。


 王都は完全勝利して凱旋がいせんしたスルト軍を熱狂を持って迎え、お祭り騒ぎは数日経った今も続いている。


 オレ達は少しだけ休み、各所に根回しをして、今日この会議に参加していた。



「ふむ。では、今回の戦争自体の発端ほったんは、ウトガルドがスルトに戦争を仕掛けるために進軍を始めた。そして、進軍ルートにあった小国がスルトに助けを求め、スルトは快く応じた。で良いですね?」



 宰相が、今回の戦争における公式設定の確認を行う。



「戦争自体の発端はそれで良いでしょう。前段階として、スルトは事前にウトガルドが戦争を仕掛けてくることを予想して、準備を整えていた。大国連合を調略により瓦解がかいさせ、ウトガルドを圧倒する戦力を確保していた。というのも記載して良いでしょう」



 ジョアンさんは宰相の言葉にうなずいた後、付け加える。


 オレ達は、2人のやり取りを聞くだけだ。


 今、ここでは歴史がつくられている。


 あったことを完全にそのまま記録に残すと、スルトにとって都合の悪いこともかなりある。

 これまでの歴史でもそうだったように、勝者がある程度都合よく歴史を残すのだ。


 やりすぎると矛盾が発生するので、できる限り真実を残しつつ、バレない程度にやる予定である。


 アカシャがいるので、証拠が残っていて矛盾してしまうことについてはオレから指摘できる。


 つまり、今日ここで創られた歴史は、少なくとも後世において明確に否定される根拠はでない。

 過去を知る能力者が現れない限りは。


 歴史家泣かせだが、アカシャに聞いた真実の歴史と、実際に伝わっている歴史の乖離かいりを考えると、歴史なんてそんなものだということが良く分かる。


 過去の勝者達の都合の良い歴史に比べれば、オレ達が今創っている歴史はほぼ真実と言えるくらいだ。



「私のことはできる限り悪辣あくらつに書くと良い。そうだな、『悪辣王』ラスロと呼ばれていたなど、どうだろうか」



 ウトガルド王、ラスロはむしろ嬉々として協力している。

 敗者が勝者の都合の良い歴史を創るのに協力するってどうよ…。



『ご主人様、そんな記録は現状残っておりません。スルトの歴史書にだけそのような記述があるのは、創作を疑われる可能性が高いと思われます』



 アカシャが、『悪辣王』という呼び名はよろしくないことを教えてくれる。



「そんな呼び方はされていません。でも、貴方が虐殺を行った地域で『残虐王』という記述が残っています。どうしてもというなら、それで…」



 オレは、あまり乗り気ではなかったけれど『悪辣王』を否定して代案を出した。



「ぜひに、頼む」



 ラスロは真剣な笑顔で言った。


 オレはため息をついたが、ジョアンさんと宰相は任されたと頷いた。


 歴史はすらすらと決まっていく。


 ほぼ事実で固めていいのだし、客観的には最初からスルトにとって都合良く見えるようになっているから、あまり頭を悩ませる必要がないのは当然と言えば当然だ。


 ただ、確実に、頭を悩ませなければならない部分もあった。

 それは他のことを決めた後、最後に話された。



「戦争裁判について、ここで話しておかねばなりません。正式な裁判は無論、後日予定されておりますが、結論はここで先に決めます。そして、建前と事実をどうするか、決めなければなりません」



 ジョアンさんが発言し、宰相が大きく頷く。

 オレも含め他の面々も頷いたが、ファビオのみ、ビクリとして姿勢を正した。



「まず、建前。つまり戦争裁判での結果についてだが。ラスロ、ファビオ、ペトラの3名については処刑とする」



 ミロシュ様が、王として結論を述べた。


 まぁ、これは仕方ない。

 というか、そうしないとスルトがめられるからやらざるを得ない。

 オレがそう思ったのとほぼ同時。


 ファビオが土下座して叫んだ。



「ペトラだけは! ペトラだけは、許してくれ!! 全て私が、無理やりやらせたことなのだ!」



 まだ建前しか言っていないのに、ファビオは全力で泣きながらうったえた。


 少し早いような気もしたが、ファビオは必死に考えてこのタイミングだと思ったのだろう。


 なぜかウトガルド王がやたら優しい目でファビオを見ていたのが、オレには印象的だった。




お読みいただきありがとうございます。


いいねの形が複数から選択になったのは面白いと思いました。

評価も前より配置が上の方になった気がするので、うっかり忘れてしまうことが少なくなる気がしています。今までは面白いものほど夢中になりすぎて忘れてしまいそうな印象でした。

個人的には感想にいいね機能つけるのとかも面白いんじゃないかと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ