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第166話 歴史的敗者

 ウトガルド王は『平和』という『悲願』のために、あえて『歴史的敗者』になるべく動いていた?


 勝てないと分かってて、全力で、負けるために戦ってたっていうのかよ…。



「そんな…。それなら最初から降伏してくれれば…。ウトガルドほどの大国がスルトに付けば、戦争自体起こらなかったかもしれないのに…」



 ネリーはジョアンさんの話を聞いて、驚愕きょうがくを隠さずにそう言った。


 ネリーの言う通りだ。

 本当にウトガルド王が『平和』を目指していたんだとしたら、なんでそうしてくれなかったんだ。



「おそらく、彼は内乱の芽ごと潰したかったのです。スルト以上の大国が全て戦争なしでくだった場合、納得できない者達が出てくる可能性は極めて高い。この戦争の結果で、全ての国の全ての者に、スルトには絶対に勝てないと知らしめたかったのでしょう」



 ジョアンさんはネリーの感想に対して、そう推測を返した。



『なるほど。不自然と考えていた点にも、説明が付くかもしれません。虐殺などは、ウトガルドを悪と()()()()ため。後世の歴史にスルトの都合のいいように残しやすくなりますね』



 アカシャは納得した様子で淡々と言葉をげる。



「本当に、本当にそんな勝手な都合で、数え切れない人を殺してきたのか…?」



 オレは震える声で、ウトガルド王にジョアンさんの推測が本当に正しかったのかを聞いた。



「そうだ。許せと言うつもりはない。全ての呪いを引き連れて、私は地獄へ旅立とう。…くく。さすがは『叡智えいち』ジョアン・チリッチ。満点解答だ。()()()についても抜かり無く頼むぞ」


「無論です。あらゆる情報操作をして結果を広め、戦争の抑止力とすることを約束しましょう」



 ウトガルド王は、あっさりとオレの質問を肯定した。


 ジョアンさんに後を託して、どう見ても死ぬつもりだ。


 ふざけんなよ。


 そう思ったけれど、それを言葉にしたのは、オレじゃなかった。



「ふざけるな!!」


「ロマン…。お前には、いや、お前にも、余を責める理由がある。命が欲しくば、くれてやろう。スルトに余の真意が伝わった今、誰が余を殺そうとスルトが処刑したことにすれば良いのだからな」



 ウトガルド王に対して怒りをぶちまけたのは、ロマンさんだった。


『拳聖』の息子である彼が真相を知って怒るのは、当然だ。



「貴方を、信じていた…。どんな理由があろうとも、ウトガルドのためを思えばこそだと、信じて…。きっと、父上だって。なのに貴方は、()()()()()()に、動いていたというのですか…」



 ロマンさんは大粒の涙を流しながら言った。


 国益という点で考えればそのとおりだし、ウトガルド王が目的を伝えていれば、『拳聖』はあんな無茶をして死ななくても良かった。



「言い訳はせぬ。余は目的のために、全てを犠牲にした。さあ、ロマン。余を終わらせてくれ」



 ウトガルド王はロマンさんに歩み寄り、手を広げてそう言った。


 ウトガルド王は死ぬつもりだ。

 彼はもう、死にたいんだろう。


 一瞬迷った。


 ウトガルド王が死にたいだけなら、絶対に止めた。

 彼が楽になりたいだけなら、生かしてできる限りのつぐないをさせる。


 でも、ロマンさんがウトガルド王が生きることを許さないと言うなら?

 それはもう仕方ないのではないかと、考えてしまった。


 その迷いが、一瞬の判断の遅れにつながった。



「できません…」


「そうか…。将軍、やれ」



 ロマンさんが苦渋に満ちた表情で『できない』と言った後の、ウトガルド王の言葉が理解できなかった。


 理解できなかったから、身構えた。


 将軍の足の筋肉の動きが、地面を踏み込む力が、オレを狙っていたということも身構えた理由だった。


 でもそれはウトガルドの将軍の渾身こんしんのフェイントで、彼の本当の狙いはウトガルド王だった。


 近すぎる…!

 今考えると将軍は、常に王を間合いの中に入れて動いていた。


 一瞬遅れて"雷動"を発動しようとして、()()()()()()ということが分かってしまった。


 それがまた、良くなかった。

 間に合わないと分かって、オレは諦めてゆるめてしまった。


 間に合わないと知らない者が、飛び込んだことに気付かず。



『ネリー!!!!』



 アカシャが生まれて初めての大声で叫び、やっと気付いた時には完全に出遅れていた。


 両方、斬られる…!!

 クソが!!!


 オレがようやく"雷動"を発動した時点で、それは確定した情報だった。







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