第32話 虹色の剣
「ここか」
「はい。その宝箱を開けると罠が作動します」
いやー。この罠は、かかっちゃうでしょ。
宝箱見つけたら絶対に。
その宝箱は、28層へと進む階段のほど近くにある通路の行き止まりに置かれていた。
時間を優先してたから道中ほとんどスルーしたけれど、ダンジョンには多くの宝箱が存在する。
普通ダンジョン攻略の目的は、踏破、鉱石・宝石部屋の発見、一部のモンスターの素材確保、そして宝箱の回収であることがほとんどらしい。
ダンジョンは神の建造物であり資源であると言われる所以として、鉱石や宝石、宝箱、モンスターなどはある程度の期間を置くと、どこからともなく再び補充されるというのがある。
つまり、普通発見した宝箱を放置するという選択肢はない。
もちろん、宝箱に罠が設置されていることはあるので、罠の有無は調べるだろう。
でも、この宝箱自体に罠は設置されてないのだ。
これ自体は普通の宝箱。それがこの罠のエグいところだ。
「ほぼ回避不能の罠が最難関とはね。勇者は運がなかったな」
宝箱を開けると、中には回復薬が入っていた。
ま、アカシャに聞いて知ってたけどね。
超級回復薬。部位欠損すら治る非常に効果の高い回復薬だ。
回復薬は低級、中級、上級、超級、神級と区分されていて、一般的に流通しているのは上級まで。
上級でもかなり貴重で、高値で取引されているとか。
どんなに神がかった腕でも、人が作れるのは超級までらしい。
超級も生涯一度も見ることがない人が大半のようなので、この一本だけでも凄まじい価値があるそうだ。
「急ぎ回収してください。来ますよ」
アカシャに言われて急いで宝箱の中身を回収するのと同時に、背後の通路が崩れ、埋まった。
宝箱が開いたことを感知して崩れる罠が仕掛けられた通路。
罠を回避するなら、宝箱ではなく後ろの通路をよく調べるしかなかった。
予定どおり、わざと罠にかかったので行き止まりの通路に閉じ込められた格好だ。
次に起こることはアカシャから聞いているので、水纏で周りに浮かせている水球の数を出来るだけ増やしおく。
そして、向かって右側の壁へと構えた。
直後、先程の崩落以上の音と振動を響かせながら、右側の壁の一部がせり上がり始める。
せり上がっていく分厚い壁の向こう側で待っているお客さん達の姿が少しずつ見えてきた。
我慢できずに、まだ1メートルもない隙間から這い出て向かってくるヤツらもいる。
わざわざ少数で出てきてくれるなんて優しいじゃねぇか。
「なんの準備も覚悟もなく、いきなりこの光景見た勇者パーティーの気持ちは察するに余りあるな!」
一足先に向かってきた犬や虫のようなモンスターを、浮いている水球を移動しどんどん撃ち抜いていく。
せり上がっていくこの壁の先にあるのは、いわゆるモンスターハウス。
閉じ込められ逃げる選択肢のない状況で、何千というモンスターがひしめいている部屋への地獄の口が開く。
「まずはモンスターハウスに入ります」
「じゃあ、入れるくらいまで減らさないとな!」
壁の向こうの部屋はすし詰め状態で、入っていく余地なんてない。
東京の満員電車かってほど詰まってる。
ましてやその全員が自分に殺意を持った集団だ。
いきなり割り入っていくのは、さすがに無理がある。
水球の1つを手元に呼び寄せ、剣の形に変えて握る。
「挨拶がわりに大技かましてやるぜ」
「最初の集団に当てるのですね。タイミングはお任せください」
アカシャが最も敵に被害が出るタイミングを教えてくれるので、安心して魔法に集中できる。
単体で少しずつ先行してくるモンスターは飛び回る水球で始末しつつ、水の剣で居合い切りの構えをとる。
居合い切りなんてしたことないけどね。
魔法はイメージが重要だから。
天翔る龍が閃いちゃうイメージなら前世からできてる。
横一文字のイメージだってバッチリだ。斬撃飛ばしちゃうぜ。
息を整え、水魔法を使う準備をする。
居合い切りの構えはイメージの補強だけではなく、実はただの"限定"でもある。
せり上がった壁の隙間が拡がり、モンスターの集団がこちらに向かい始めた。
熊、人形、ゾンビみたいなのと色んなヤツがいる。
モンスター達は、壁の境界を越えた当たりで一気に膨れ上がった。
「今です」
「"一閃"!!」
水の剣で居合い切りを放つ。
"限定"と"宣誓"で威力が高まり、さらに水魔法を"水纏"の剣で増幅することで超強化されたウォーターカッター。
横一文字に飛ぶ斬撃というイメージの通りに前方のモンスター全てを真っ二つに薙ぎ払う。
もはや隙間ではなく入り口と言えるほどせり上がった壁。
その入り口から溢れかえったモンスター達と、入り口の延長線上にいたモンスター達はほぼ全滅だ。
切断こそできなかったが、壁にも横一文字に亀裂が走った。
振り切った腕に水の剣はない。
水の剣もウォーターカッターに変わり、飛んでったからな。
「50体くらいはやったか。さすがの威力だな」
"纏"を使った状態で同一属性の魔法を上手く使えば、威力を大きく増幅できる。
"水纏"と水魔法、どちらでもウォーターカッターは使えるけど、同時に使って増幅すれば、それぞれ単体で使ったときの数倍の威力が出る。
「正確には62体倒しました。地を這うタイプのモンスターには当たっておりませんので、お気をつけください」
真っ二つになったモンスター達がごそごそ動いたと思えば、死体の下から地を這う虫型のモンスターが何匹か出てきた。
斬撃の下をくぐって無事だったらしい。
アカシャからの指摘がなければもっと油断してたかもしれないな。
飛び回っている水球でそれらを処理している間に、すぐに再び入り口にモンスターが殺到し始めた。
「はっ。どちらにせよレベル上げはやるつもりだったんだ。どんどん来いよ」
「サポートいたします。半径1メートル以内にさえ入られなければ、ご主人様の脅威とはなり得ません」
あのモンスターハウスの中で、伝説の剣が待っている。
オレとアカシャは入り口から溢れ出てくるモンスターの掃討を続けた。
「今なら安全に入り口を抜けられます。水球をあまり離さず、一定以上にモンスターを近づけないで下さい」
「分かった! 行こう!」
延々とモンスターを吐き出し続けていた入り口も、ようやっと切れ目が出てきたと思ったところだった。
アカシャから突入のゴーサインが出たことで、入り口に向かって走りつつ周りに飛ばしていた水球を自身の近くに呼び寄せる。
近付くモンスターを水球で処理しながらモンスターハウスに入ったオレは、アカシャに教えられるまでもなく伝説の剣の位置をすぐに見つけた。
まだまだウジャウジャとモンスターが蔓延る、だだっ広い数十メートル四方の部屋の中で、そこだけが異質だったからだ。
「勇者ってのは、立派な人だったんだな」
モンスターハウスの入り口から見て、部屋の左手前の角に走る。
「ご主人様!」
アカシャからここに剣があるのは聞いていた。
でも、こんなふうに剣があるとは知らなかった。
感動して、勇者に思いを馳せて、そのせいで近付いてくるモンスターに反応するのが遅れた。
アカシャがいなければ一発もらってたかもしれない。
「邪魔すんな!!」
近付いてきていた数体のモンスター達に向かって右手を薙ぎ払うように振る。
オレの意思に従って、右側に浮いていた水球達が一斉射撃を行い、モンスターを穴だらけにした。
完全にオーバーキルだったけど、今はそういう気分だ。
こんな雑魚共に、どうして。
身体強化を使ったオレにとって数十メートルなんて一瞬だ。
すぐにそこに着いた。
勇者だって、似たような動きができただろうに、どうして。
「これが伝説の剣。当時の通称、『虹色の剣』です」
この安全地帯に入ったことで一息つけるからか、アカシャが解説してくれた。
『虹色の剣』は、その名称とは違って、美しい銀色の神秘的な装飾が施された直剣だった。
この角の約2メートル四方を守るように刺さっていて、そして実際に、明らかにここは安全地帯として機能してる。
数百年たった今でもずっと。
狂乱令嬢ニア・リストンがすごく面白かったです。
読んでない方はぜひ。
かの作品が面白さに比べてブックマーク少なすぎるのが不思議でしょうがない。
合う合わないがあるにしろ少なすぎる気がする。




