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第159話 闇への突入

 集団転移をしたオレ達ワトスン遊撃隊は、ウトガルド軍の後方に出現していた。


 数百メートルくらい先に、ウトガルド軍の最後方が見える。


 ズベレフ遊撃隊も同じようにウトガルド軍の後方に転移しているけれど、出現場所がオレ達とは違っている。


 三角形のような陣形になっているウトガルド軍は、三角形の底辺部分が最後方である。


 ワトスン・ズベレフ遊撃隊はそれぞれ、その底辺部分を半分ずつ受け持つ形で転移した。



「ご主人様。敵は我々の転移に気付いております」



 転移した直後、アカシャはそう報告しながら、これから使う魔法のための魔力量と範囲の計算結果を伝えてきた。


 魔力索敵系の能力で常に見張られてたからな。

 魔力量が極端に多い集団が消えたら、そりゃすぐに気づかれる。


 最後方にも後ろを警戒しているヤツがいた。

 目視でももう気付かれてるだろうな。


 だから、それでも対処しづらいであろう作戦を立てた。


 オレはアカシャから受け取ったデータを元に、ちょうど詠唱が完了した魔法を使う。



「"晦冥かいめい"」



 前に突き出した右手から闇が吹き出し、ウトガルド軍に向かって広がっていく。


 後方のウトガルド軍の中には、後ろから突然闇が襲ってきたことに気付いた者もいた。

 しかし、手足をバタつかせたり、武器を振るったところで意味はなかった。


 闇は闇なのだ。

 物理的な干渉は良くも悪くも全くできない。


 あっという間に闇はウトガルド軍を飲み込んでいった。


 目の前に、ウトガルド全軍を飲み込む巨大な三角柱形の闇が出来上がる。


 この闇の中では、一定魔力量以下の魔法が使えなくなる。


 具体的には、()()()()()()()盾の魔道具が使用できなくなるよう調整した。



「よし、次だ。氷系の魔法を使えるヤツは全員前へ。練習どおりにやるぞ」


「もう待機してるわ。向こうはもう始めたみたい」



 オレが指示を出すと、すぐにネリーが反応した。


 振り向くと、すでに整列が完了していて、オレが入る場所だけ空いている。


 ズベレフ遊撃隊は、"晦冥"が完成するかしないかくらいで先んじて撃ったようだ。

 ちゃんとウトガルド軍が全て"晦冥"の範囲に入った後であれば、早ければ早いほどいいからな。


 オレも急いで詠唱を開始しながら整列し、号令をかけた。



「よし。撃て!」


「「「「「"大寒波だいかんぱ"」」」」」



 号令に合わせて、ワトスン遊撃隊も氷の範囲攻撃魔法を放つ。


 魔力を先に届かせてから凍らせる"瞬間氷結"と違い、放射状に冷気の波を送り、悪く言えば雑に広範囲の生物を凍らせる魔法。


 今回はこちらの方が適していると判断した。


 アカシャが闇の中の情報を教えてくれる。


 分かりやすく後方から襲ってくる冷気を防御しようと盾の魔道具を構えたウトガルドの一般兵達は、防御魔法が発動しないことに慌てふためいていた。



「防御してくださいって言ってるような魔法だからこそ、防御したくなるよなぁ?」



 一般兵達は盾の魔道具で防御しようとする者が大半だろう。

 そして、盾の魔道具が使用できないことに気づく。


 魔法兵達もそれを見て気付くはずだ。

 一般兵達がこの闇の中ではほぼ何もできないことに。


 そうなった時に、貴重な魔力を割いて一般兵を助ける魔法兵達がどれほどいるだろうか。



「ウトガルドの一般兵、ほぼ全て氷漬けになりました」



 アカシャの報告を聞いて、大体予想どおりになったことを確認する。



「エゲツねぇなぁ。でも、オレ達の時もスルトがここまで強かった方が幸せだったのかもな」



 アカシャの声は聞こえてないはずだけど、氷魔法を撃ち終わったヘニルの『弐天』ヤニク・イスナーがそうつぶやいた。


 ヘニルとの戦争では、かなりの死者が出たからな…。



「戦争なんて、ないのが幸せなんだよ」



 オレはヤニクの呟きに対して、そう呟く。



「ヤニク。余計なこと言わないの!」



 ヤニクと同郷の『肆天してん』カロリナ・アザレンカが無駄口を注意している。


 この2人とスタンには、今回ヘニルからスルトの一員として、ワトスン遊撃隊として参加してもらっていたのだ。



「15分で片を付けるのだろう、ワトスン。スタン・バウティスタ、先に出るぞ。ヤニク、カロリナ、付いて来い」


「ああ。頼むよ、スタン」



 オレが右手を差し出すと、スタンは右手でパシンと叩いて闇の中へ走っていった。


 握手のつもりだったんだけどな。



「へいへい。ヘニル『弐天にてん』ヤニク・イスナー、行くぜ」


「『肆天してん』カロリナ・アザレンカ。同じく」



 ヤニクとカロリナの2人も、オレの手をパシンと叩いて走っていく。


 四天将はもう補充するつもりはないらしい。


 あいつらはずっと『弐』と『肆』を名乗り続け、今後も『壱』と『参』は永久欠番とのことだ。


 自分でやっておいて言えることじゃないけど。

 本当に、戦争はクソだな。



「『狂化60%』、"身体強化"全開。シェルビー・コリンズ、行くっス!」


「"氷纏こおりまとい"。セレナ・ハレプ、行きますわ」



 今では『双璧』とまで呼ばれるようになった後輩2人組も、流れなのかオレの手を叩いて闇の中に走って言った。



「私も行くわ。準備はいいわね、ミニドラちゃん」


「ガッ!」



 ネリーだけじゃなく、ミニドラもオレの手を叩く。

 爪が当たらないように。デカいのに器用なヤツだ。



「気を付けろよ」


「アンタこそね」



 ちょっと心配してネリーに声をかけると、ネリーは振り返りもせずに手をひらひらさせて闇の中に走っていった。



「私は制圧された場所を進んで行きますので、少しだけ待ちます」



 ジョアンさんは余裕の表情だ。

 腕輪形にあつらえた新型の盾の魔道具をオレに見せて、単独でも大丈夫だとアピールしている。


 まぁ、この人なら大丈夫か。


 あと、残ってるのは…。



「母上、行きましょう。ワトスン、この方向で良いな?」



 ノバクが闇に突入する前に、オレに確認してくる。



「ええ。その方角に真っ直ぐです。今の貴方なら、"晦冥"の中でも自由に魔法が使えます。上手くいくことを祈ってますよ」



 オレがそう言うと、ノバクは自分の方から右手を出してきた。


 オレも右手を差し出すと、やっぱり握手ではなくパシンと叩かれた。



「感謝する」



 そう言って、ノバクは闇に入っていった。



「感謝します」



 ビクトリアはもちろんオレの手には触れなかったが、短く感謝の言葉を告げてノバクのすぐ後ろを追っていった。


 さて、ジョアンさんを除けば、あとはオレだけか。



「アカシャ、戦場の情報を確認。()()が起こりそうなところを潰す」


「かしこまりました」



 アカシャに指示を出し、報告が来る前に準備を始める。


 事前にエレーナ様に聞いておいた。


 今回の戦闘での、オレの『最適解』。










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