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第156話 開幕

 決戦の日の朝が来た。


 一応先ほど拡声魔法で最後の投降を呼びかけたが、これ以上の投降者は出ないようだった。


 ウトガルド軍はあえて国境砦から出て、決死の突撃を仕掛けるつもりらしい。

 国境砦の前に布陣ふじんしている。


 ウトガルド軍は1点突破にかけて、二等辺三角形のような形の陣形の頂点を、飛空艇の旗艦が浮かぶ方向に向けて突っ込んでくる作戦だ。



「地球で言うところの魚鱗の陣形ですね。本陣が底辺中央ではなく重心辺りにあるのは、転移による背後からの奇襲を防ぐためとのことです」



 あれが魚鱗の陣形ってヤツか。アカシャが知ってるってことはテレビかなんかで観たことがあったんだな。

 完全に忘れてたけど。



「なるほど。ちなみに、スルトの陣形は?」



 数と魔道具の性能で圧倒的にまさるスルト軍は、Vの字に布陣している。

 ウトガルド軍の突撃を止め、両翼から押し潰すような運用をする予定となっている。


 今オレ達がいるのは最後方。両翼が交わる部分の後ろにある本陣だ。

 飛空艇の旗艦もこの上空に浮かび、他の艦はその前方に横一列に並んでいる。


 現状の情報では、ウトガルド軍に奇策はない。

 スルト軍は万全の構えでウトガルド軍が突撃してくるのを待っている状態だ。



「飛空艇の配置を無視するならば、鶴翼かくよくの陣形ですね」


「言われてみれば、聞いたことがあるような気もする…。お、ウトガルド王が号令をかけるみたいだ。始まるぞ」






 ウトガルド王はウトガルド軍の中央に置かれた台座に自ら立ち、拡声魔法を使った。

 兵達に号令をかけるつもりなのだろう。



「スルトのに異を唱える、勇敢なる戦士らよ。これだけの者達が残ったことに、余はふるえておる」



 ウトガルド王の言葉に、ウトガルド軍の兵達が大きな声で答える。


 アカシャの力でのぞき見ずとも、地響きと共にここまで聞こえてくるほどの声量。


 凄まじい士気だ。

 全員が死を覚悟して残った者達…。

 士気が低い者など、ファビオを除いて、いるはずもないか。



「この大陸を1つにまとめ平和をもたらすのは、スルトではない! ウトガルドである! 今日、これからの諸君らの武勇は、後世まで語り継がれることになるのだ!!」



 ウトガルドが拳を天に掲げて兵たちをあおる。


 ウトガルド兵の声量が、さらに上がる。

 泣きながら叫んでいる者さえいる。


 スルトの陣ですら地震が起こっているかと思うほどの凄まじい声。


 ここから、勝てるって言うのかよ。

 嘘だろ?



『ウトガルド兵の士気にひるんでいるスルト兵がかなり出ているようです』



 アカシャから報告があがってくる。

 オレだって困惑してるくらいだ。

 一般兵どころか、魔法兵ですら怯んでるヤツらがいてもおかしくない。



『問題ない。最初の激突の結果で安心させる。作戦どおりにな』



 オレの想像以上ではあるけれど、ジョアンさんはこれも織り込み済みだった。

 問題ない。


 自信は、ある。



「目標、敵飛空艇旗艦。敵総大将、ダビド・ズベレフを討ち取る!! 邪魔する者はそのことごとくをぎ払え!! 突撃!!!」



 ウトガルド王が号令をかけると、ウトガルド兵達がとてつもない雄叫びをあげながら突撃を始めた。






 ウトガルド兵が突撃を始めたのと同時に念話機に通信が入る。

 ダビド将軍が一斉通信をしたのだ。


 オレも通信を開きっぱなしにしている胸ポケットの中の念話機を取り出して、耳に当てた。


 胸ポケットの中からでも聞こえると思っていたけれど、ここは今までのどの戦場よりも騒がしい。


 アカシャの力を使えばこんなことをしなくても聞き取れるけれど、他の人と同じ条件で聞いておきたかった。



「スルト全軍に通信。合図に合わせて『盾の魔道具』を起動せよ。目標地点はスルト軍とウトガルド軍の中間地点。出力・枚数最大。魔力残量は気にするな。繰り返す…」



 ダビド将軍の通信が聞こえる。

 少なくてもこの位置なら問題なく聞こえるな。



「アカシャ、各指揮官達は大丈夫か?」


「問題ありません。すぐに兵達に指示を出しております。ウトガルドの射程に入るまで十分に間に合うでしょう」



 万が一トラブルがあれば直接行って伝えるつもりだったけど、杞憂きゆうだったな。


 あとは、ウトガルド軍の中で最初にスルト軍を射程に入れるヤツが出る少し前に合図を出すだけだ。


 アカシャなら、それが分かる。

 そして、それを伝達する手段もある。


 開幕から、情報が戦場を制するところを見せてやる。


 オレはあらかじめダビド将軍に合図までの予想時間を報告しつつ、その瞬間を待った。






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