第155話 全てに決着を付ける
最終決戦を翌日に控え、アレク達が合流した。
いつでも連絡を取れ、いつでも合流できる。それがスルト軍の強みの1つだ。
「人の思惑が絡む以上、完全に想定通りとはいかないね。とはいえ、これは僕らの想定より上手くいっていると言ってもいいんじゃないかな?」
2日前に複合魔法で作ったばかりの城塞都市。
その城壁の上から、都市の中と外の様子を見つつ、アレクは言った。
都市の中には、以前に捕まえたウトガルドの者達、今回の戦争での最初の衝突で捕虜になったウトガルド兵達、それに投降したウトガルド兵達が加わっていた。
スルトの者も含めるととてつもない人数がこの都市に入っている。
そして、それらの人々がスルト人もウトガルド人もなく、宴会をしていた。
まぁ、宴会をさせている、とも言えるんだけど。
スルトの余裕を見せつけ、1人でも多く投降させる。
金はアホみたいに使ったけどな。
そのおかげもあってか、今も城門前には投降したウトガルド兵達が長蛇の列を作っている。
都市に入る手続き待ちの列だ。全員が充魔石を持たされていた。
無力化された者から簡易契約をして都市に入ることが許される。
「投降したウトガルド兵達には、安全の約束と引き換えに、充魔石での魔力的な無力化を約束させる。その充魔石は今後の戦闘に投入できるというわけじゃ。まったく、エグいのぉ」
学園長は口角を上げて、からかうような口調で言う。
「想定以上にうまくいっていることは否定しません。ですが、ウトガルド王が何を考えているかは未だ不明。最後まで油断なきようお願いします」
ジョアンさんがここにいる全員に向けて言う。
何となく、オレにはそれが、ウトガルド王が何を考えているかは憶測で話すつもりはないと言っているようにも聞こえた。
憶測で話したことが間違ってて、そのせいで窮地に立たされるなんてこともないとは言い切れないか。
本人に聞く。もうそれでいいかな。
「ああ。ウトガルド王が何を考えているかに関わらず、確実に勝てるようにしておくよ」
オレはそう言いつつ、念のためアカシャに確認をとる。
『大丈夫だよな?』
『はい。ウトガルド王の企みが何であれ、現状の情報では100%勝てます。後天的に神に愛さた能力を得るなどということがあれば分かりませんが、それは歴史上1度もないことです』
歴史上ただの1度もないような奇跡でも起きない限り、勝てると。
そんな確率上ゼロに等しいような奇跡が起きることにビビってたら何もできない。
そういうのは、もし起きてしまった時に考えよう。
「いよいよね。これが、この大陸での最後の戦争になることを願ってるわ…」
ネリーがおもむろに、右拳を前に突き出した。
「ワシが現役なうちに、こんな時代が来るとは思わなんだ。最後に暴れてくれようぞ」
『大賢者』の爺さんがネリーの隣で、同じように右拳を前に突き出す。
なるほど。円陣を組もうってわけね。
オレとアレクと学園長、それからミカエルも爺さんの言葉に苦笑いしながら、同じように右拳を突き出して円陣に加わった。
「燃やすじいさん、そんなことだから陽動作戦に使われるの…」
ベイラは爺さんをからかいながら、オレの右肩の上に立って右肩拳を突き出した。
意外なことに、アカシャもオレの左肩の上に座ったまま、無表情で右拳を前に出す。
オレはちょっと驚きながら、ニヤリと笑った。
「この都市は儂に任せよ。流れ弾くらいは防ぎ切ってみせよう」
スルティアが円陣に加わり、右拳を前に出して皆と付き合わせた。
彼女は、戦闘が始まったら一時的に城塞都市をまるごとダンジョン化してくれる予定だ。
オレ達は安心して戦闘に集中できる。
円陣を組み終わったらジョアンさんがオレに目配せをするので周りを見ると、皆して頷いた。
掛け声をしろってことね。
「軍はダビド将軍が仕切ってくれるから、オレ達は自由にやれる。絶対に勝って、この大陸の戦乱の歴史を終わらせよう」
「「「「「おう!!」」」」」
円陣を組んだ仲間達に掛け声をして、気合を入れる。
メンタル的にも仕上がったという感じがするな。
今も面倒くさいことを押し付けてしまっているダビド将軍には、後で差し入れを持っていこう。
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同日夜。
国境砦内、ウトガルド軍。
「私が考えていたより、ずいぶん残ったな」
ウトガルド王は、苦笑気味に言った。
ウトガルド軍には1万弱の兵が残った。
10万をゆうに超え、かついつでも増援を呼べるスルト軍に比べれば圧倒的寡兵ではある。
しかし、もはや勝ち目がなさそうな中で、王自ら投降を罪に問うことはないと言ったにも関わらず、これだけ多く残ったとも言える気がする。
「それだけ、王をお慕いする者が多かったということでございます」
ウトガルドの将軍は、やや嬉しそうに王に返事をした。
「くく。しかし傑作だな。よもやお前が残るとは思わなかったぞ、ファビオよ」
ウトガルド王は、珍しく楽しそうに笑いながらファビオをイジった。
そのイジりに、ファビオは少し不愉快そうな顔をする。
「うるさい。私も残るつもりなどなかった。ラスロよ、今からでも降伏しろ。目的があるなら、私がそれが叶うよう交渉してやる」
ファビオはヤケクソ気味だ。
「ファビオ、王に対して気安いぞ。斬られたいのか?」
将軍が額に青筋を浮かべ、剣に手をかけた。
ウトガルド王がいるこの部屋は、ウトガルドがマジックバッグに入れて持ってきた魔封石
で、完璧にではないけれど魔法が使えない空間になっていた。
この中でウトガルドの将軍と戦えば、ファビオはなすすべもなくバラバラにされるだろう。
「将軍、良いのだ。余はファビオとの時間を、楽しく思っている。だがファビオよ、お前には無理だ。娘のために余を動かそうとするのは諦めろ」
ウトガルド王がそう言うと、将軍は剣から手を離し、ファビオは舌打ちをした。
「ラスロ様、父は…、『拳聖』はラスロ様の目的を知っていたのですか?」
ロマンさんが、ウトガルド王に問いかけた。
「いや。知らぬ。ここにいる将軍も含め、誰もな。偶然ではあるが、誰かたった1人にでも話していれば、セイ・ワトスンに知られていたのだろう? それは僥倖であったな」
ウトガルド王は感慨深い、といった様子で言う。
オレとしては災難だったけどな…。
「そうそう。ここまで来ても俺の能力は、嫌な『予感』を感知していない。俺は、王様のおかげで勝てると思ってるぜ」
ウトガルド軍に残った『十聖』のうち、この『見聖』は何で残ったのかと思ったら、こんな理由だったのか。
「バカバカしい。おそらく貴様は、あまり愛国心がないのだろう?」
機嫌の悪いファビオが『見聖』に食ってかかる。
「は、はぁ? なーに言ってんだオッサン、この愛国心の塊みてぇな俺っちによぉ」
少し心当たりが有りそうな反応を誤魔化すように、『見聖』は軽薄な態度で答えた。
「私の予想を言ってやる。貴様は、スルトの誰かに痛みすら感じることなく無力化される。そうして生き残った貴様は戦後、スルトで今より良い待遇で暮らすことになる」
「へ?」
ファビオの予想を聞いた『見聖』が、間抜け顔になる。
「どうだ? 自慢の『予感』とやらはそれを嫌な予感と判定するか?」
これは、ファビオの間接的なオレ達へのアシストかもしれないな。
『見聖』はファビオの予想通り、オレ達から見れば負ける要素がない。
にも関わらず、彼に嫌な予感がないのは不自然だ。
これでもし本当に『見聖』が愛国心の塊みたいな男なら、ウトガルド王が隠し玉を持っている可能性が増すことになる。
「え? うっそぉ、マジ? そういうこと? いやいや、まさかぁ…」
愛国心は、たぶん、あまり無さそうかな。
周りも彼を白けた目で見てるし。
「ふ。まぁ、何でも良い。それより、ペトラ嬢は本当に良いのか? 次こそ、本当に連れて行ってしまうぞ?」
ウトガルド王は、『見聖』についてはどうでも良さそうな感じでペトラに話を振る。
誰もあまり頼りにしてないみたいだけど、『見聖』の能力ってかなり便利そうだけどな。
たぶん『危険察知』の上位互換的な能力だろ。
戦後はオレが引き取ろうかな。
「ようやく気付いたけれど、連れて行くって、道連れって意味で言ってるわよね? だとしても、私も今度こそ覚悟出来てるわ」
ペトラが決然とした顔でそう言うと、ファビオは辛そうに歯を食いしばり、ウトガルド王は少し残念そうに「そうか」と呟いた。
「いよいよ明日、最終決戦だ。正面からスルト軍に突っ込む。目標は『常勝将軍』ダビド・ズベレフと『全知』セイ・ワトスンの首のみ。邪魔する者は薙ぎ払え。この大陸を、呪いから解き放つ!」
「「「「「はっ」」」」」
ウトガルド王の檄に、ファビオやペトラも含めてこの場の全員が返事をする。
呪いから解き放つ、か。
…比喩か?
ついさっき目的は最後まで隠し通すって意味合いのことを言ってたし、少なくても直接的な目的の話ではないことは確か。
…そこそこ、身になる情報はあったかな。
明日、全てに決着を付けてやる。




