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第152話 根深い問題

「な、何を言っておるのだ? セイ・ワトスンよ…。町を作る? 3日後に最終決戦が始まるというこの時に?」



 フルゼス王の豚王が、説明をして欲しそうにしている…。


 オレは仲間達に聞いたんだけどな。どうしよう…。


 困っていると、話を振られたオレの代わりにジョアンさんが答えてくれた。



「フルゼス王。我々の邪魔をしない。そういう条件で貴方はここにいるはずですが…」



 ジョアンさんが目を細めてそういうと、豚王はとたんに慌て始めた。



「い、いや。貴殿らの邪魔をするつもりはなかったのだっ! ちんのことは気にせず、続けるがよい!」



 フリズス王の肉がついた丸い顔には、大量の汗が浮かんでいる。

 ジョアンさんは豚王を徹底的にビビらせる方針のようだ。



「私は、予定どおり作ってしまって良いと考えます。この国の王とも約束したことですので、遅かれ早かれ作るのですから」


「うむ。わしもそう思う」



 ジョアンさんとダビド将軍は作ってしまって良いと考えているようだ。

 ちなみに、オレも作ってしまっていいと考えている。


 元々は、兵糧攻めの拠点(けん)、捕虜の収容先として作る予定だった。


 兵糧攻めとはいえ目標は短期決戦とするつもりだったけれど、いくらでも戦えるという姿勢を見せることがウトガルドへの大きなプレッシャーになると考えたからだ。


 今の状況でも捕虜の収容先は欲しいし、ウトガルドにプレッシャーがかかることには変わりないだろう。

 それによって投降する人数が増えたとすれば、大成功だ。


 それに、ジョアンさんが言うように、この小国の王との約束もある。


 国際大会中にはスルトにもウトガルドにも付くことを断固として拒否していたこの国を説得するために、ウトガルドが出兵するタイミングでオレ達は3つの条件を提示した。


 スルトに恭順し、国内に軍が入ることを受け入れてもらう代わりに、ウトガルド軍から守ること、領地の安堵あんどをすること、町を1つ提供すること。


 この時、この国の王は既存の町を1つ提供してもらえると勘違いしていたようだけど、あえて否定も肯定もしていない。


 戦争中に拠点を作る許可は得ているので勝手に作るわけではないし、町には変わりないから許してもらう予定だった。


 というか、拠点という名目で作るなら戦争中じゃないとダメなのか。

 やっぱり今作っちゃって良さそうだな。



「私はパス。よく分からないし、任せるわ」


「あたちも」



 ネリーとベイラは、我関せずといった感じでお菓子タイムを続けている。


 テキトーな答えに聞こえるけれど、ベイラはともかく、ネリーが任せるっていうのは安心感がある。



「じゃあ作るってことで、ちょっと行ってくるわ。ないと思うけど、もし邪魔が入ったら数分だけ足止めよろしく」



 オレはネリー達にそう言って転移した。






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 ウトガルド王の言葉が伝達され、国境砦の中が騒然そうぜんとなる中、私は確かな満足感を得ていた。


 ロマン・ガルフィアは極めて良い働きをしてくれた。


 私とペトラはウトガルド王直々(じきじき)に投降することを許された。


 スルトからウトガルドへ寝返っておいて決着が付く前に投降など、残るウトガルド兵達に殺されても文句が言えぬような行為だが、王に許されたのならば話は別だ。


 今ならば比較的安全にスルトに戻れる。


 無論、スルトに戻った後には処罰が待っているが、全て私のせいにすれば良い。

 言質げんちを得たわけではないが、セイ・ワトスンはそれでペトラの助命嘆願だけは受け入れるだろう。


 私が奴と"契約"を交わした時の流れからして、少なくとも奴だけはペトラを殺したいとは思っていない。


 厚顔無恥こうがんむちとはまさにこのことだが、今となっては、頼れるのは奴のみだ。


 ビクトリアもきっと分かってくれる。



「ファビオ殿。私はやはり残ります。降伏すべきであるという考えは変わりませんが、父同様、私はラスロ様に忠誠を捧げているのです」



 国境砦に入ってからずっと行動を共にしていたロマン・ガルフィアが、私に、ウトガルド王と共に残る決意を伝えてきた。



「うむ。それが貴殿の決意であるならば、尊重しよう。短い間であったが、世話になった」


「いえ。こちらこそ。貴方がいなければ、私はスルトへの復讐心だけで戦い、果てていたことでしょう。感謝いたします」



 ロマン・ガルフィアと握手を交わす。



「最後に。これはラファエル・ナドルから聞いたことだが…。貴殿の父君ちちぎみは、セイ・ワトスンに"ロマンを頼む"と残して亡くなったそうだ」


「そう、ですか…」



 私の言葉に、ロマンは少し戸惑ったような反応を示した。

 その反応に、私は自分の予感が正しかったことを確信した。



「死ぬなよ…。たとえ、ウトガルド王が貴殿を置いていなくなったとしてもだ。忘れるな。親は常に、子の幸せを願っている…」



 言葉に、自分の思いが重なる。

 今の私は、『拳聖』の気持ちが痛いほどよく分かる。


 子の幸せを願わない親がいるものか…。



「はい…と、すぐには答えられませんが…。覚えておきます。それでは。ペトラ殿も、お元気で」



 ロマンはそう言って頭を下げると、きびすを返して去っていった。

 ウトガルド王のもとに向かったのだろう。



「ペトラ。我々も行こう。スルトに投降すれば厳しい処罰が待っているかもしれないが、命を取られることはない。ビクトリアとノバクが、君を待っているよ」



 私はペトラの頭に手を置いて、優しく言った。


 すると、ペトラはポロポロと大粒の涙を流して、声を殺して泣き始めた。



「お父様…。私は…、投降できません…! あれだけのことをして、ここまでしておいて、どうして今更…。 命惜しさに投降などできましょう…? うっ、うう…。ううううっ…」



 ペトラが私の胸に手を置いて、泣き崩れる。


 私は絶句して、ただペトラの言葉を聞いていることしかできなかった。


 まさか、ここまで来て、ペトラ自身に拒絶されるような事態になろうとは…。



「私は…、ペトラ・ティエム・()()()であるプライドを胸に、これまで生きてまいりました。そして最近、気付いたのです。()()()()()()と…。それだけが、私の人生の全てなのです…」



 ペトラはそう言って、嗚咽おえつした。


 そんな…。

 ここまでとは…。


 この問題が、ここまで根深かったとは…。


 "あんたのせいなんだよっ!"


 セイ・ワトスンに突き付けれれた言葉が、思い出される。


 "子供の性格や思想は、教育の結果"。あの時言われて、分かった気になっていた…。


 私も、ビクトリアも、なんと罪深いことを。

 自分の最愛の子どもに……。



「スルト軍後方に突然、城塞都市が出現したらしいぞ!!」


「スルトが降伏勧告を行うらしい。投降するならその時だろうか」


「俺は投降するぞ!」



 周りの喧騒けんそうの中、私はただ呆然ぼうぜんと、絶望的な現実を受け入れていた。



 諦めるという選択肢はない。


 だが、どうすれば良いのだ……?









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