第150話 アシスト
飛空艇旗艦、艦橋にて。
オレ達は座席にゆったりと座りながら、映像を観ていた。
戦闘はもう小康状態。少し前までの緊迫した空気はすでにない。
「あっ、ネリー、それはあたちが狙ってたお菓子なの!」
「ふふん。こういうのは早いもの勝ちよ。誰のお菓子かなんて決まってないんだから」
ベイラやネリーもすでに帰投していて、テーブルに置かれたお菓子をつまみながら一緒に映像を観ている。
「まぁ、正確にはオレのお菓子なんだけどね。ほらベイラ、同じお菓子を出してやるから機嫌直せ」
「そういうことなら話は別なの。セイが作らせたお菓子は普通に売ってるお菓子とは別格だから、ちょっと譲るわけにはいかないの」
ベイラがにんまりしながら、お菓子を受け取る。
地球の知識を取り入れたお菓子だからね。
オレ自身は詳しいレシピなんて知らなかったから、けっこう再現は大変だったんだぜ。
素材と分量を予想して作って、味見してのトライアンドエラー。
オレが1度でもテレビ番組とかでレシピを見てたものに関しては、アカシャが知識として持ってるから即時再現ができたんだけど。
レシピは知らないけど味だけ知ってる美味しいもの、地球にはいくらでもあったからなー。
「はぁ。お前達、緊張感が無すぎるぞ。フルゼス王も目を丸くされていらっしゃる」
ダビド爺さんが、やれやれといった感じでオレ達に注意しつつ、自分もお菓子を頬張る。
言ってることとやってることが違いすぎるんだよなぁ。
「1番懸念していた場面を超えましたからね。油断しているわけではないので、大丈夫ですよ」
そんなことは一緒に作戦を練ったダビド将軍も分かっているので、フルゼスの豚王に対して言う。
オレ達にとって最悪のシナリオは、会敵の時にウトガルドが負けを承知で特攻してくることだった。
その場合、最も短期間で勝てる代わりに、双方の死者が最も多くなるという試算が出ていた。
「朕が思うに、今攻めれば勝てるのではないか?」
豚王は、国境砦の中で行われているウトガルドの軍議の様子を観ながら言った。
「でしょうね。でも、スルトはただ勝つこと以上を求めています。スルトとウトガルド、お互いのために」
オレは後ろの壁際に直立している者達をチラ見しながら言った。
充魔石付きの手錠をかけられた彼らは、捕まえて捕虜にしていたウトガルドのスパイ達だ。
オレの下で働いていたヤツらもいるけれど、さすがに念の為今回の戦争中は拘束している。
"契約"も絶対ではないからね。
ちょうど、映像ではファビオの情報がひととおり嘘ではないことが真偽判定官によって保証され、1人の女性将校が質問を行っているところだった。
彼女は、ウトガルドがスルトに送った諜報員達や他国に送った連絡員達が全員生存しているというのが、間違いなく本当であることの確認をしていた。
ファビオは、自分が知る限りの間においては間違いなく生存していたことを保証し、また、今更になって交渉も行わずに処刑している可能性も極めて低いだろうという予想を話した。
女性将校は、それを聞いて泣き崩れた。
そして、それを見た後ろにいるウトガルドのスパイの1人も泣き崩れた。
「戦争が終われば、無事に再会できます。互いに生き残ることができれば、スルトが勝っても負けても、それは保証しますよ。他の者達についても同様です」
ジョアンさんが、泣き崩れたスパイに対して言った。
似たような境遇にある、他の者達にも共感を覚えさせるような形で。
オレはそれを、ファビオよくやったと思いながら聞いていた。
これは、この戦争中も、戦後にも影響することだぞ。
明確に、オレ達へのアシストだ。
ファビオの意図は、オレ達からすれば予測しやすい。
オレ達の、特にオレの人となりを知るファビオは、スルトに絶対に勝てないと確信した今、間接的にオレ達の役に立つことで功績を稼ごうとしているのだろう。
そして、その功績をもって助命嘆願をするつもりだと思われる。
ファビオは分かっている。
ただでさえ見逃されていたあの状況から、ウトガルドに寝返ったことが何を意味するか。
この戦争で生き残ったところで、極刑は免れないだろうことを。
オレ達が許しても、世論が許さないということを。
特に、ファビオ一家がいずれ王位を取り戻すために反旗を翻すと声高に叫んでいた者達は、現時点でもそれ見たことかと得意顔だ。
たぶんファビオは、できる限りオレ達の心象を良くした上で、自分だけを処刑させることで手打ちにしたいという考えだ。
ウトガルドに行く前、余計なことを喋れないように"契約"した時に、それを匂わせるような発言もしていた。
覚悟は受け取った。
現状での成果も、個人的には十分だ。
あとは結果を見て、ミロシュ様と皆で相談するしかないな。
これについては、その他の意見も無視するわけにもいかないし。
映像では、ファビオの話が嘘では無かったことを受けて、ロマンさんが話を始めていた。




