第146話 別働隊
「学園長。セイから連絡が来ました。ウトガルド軍は国境砦まで撤退。予定どおりですね」
僕はセイから念話で聞いた内容を学園長に伝えた。
今、僕達はセイ達とは別行動を取っている。
戦争の早期集結に向けた作戦行動中だった。
「うむ。こちらも万事上手くいっておる。ウトガルドは砦に撤退して地理的優位を確保しつつ、全軍の集結を待っている状態じゃろう。が、そうはいかぬ」
学園長は、氷漬けになったウトガルド『十強』の1人と肩を組みながら機嫌良さそうに話す。
きっと、久しぶりに楽しい戦いができたからだろう。
まぁ、ウトガルドでは『拳聖』がぶっちぎりで最強だったから、他の九強はそんなに大したことはない。
せいぜいヘニルの『二天』と同じくらいだろう。
最近僕らと一緒に訓練することもあり、効率的なレベル上げにより"収束"すら使えるようになった今の学園長の敵では無かった。
僕達の作戦目標は、ウトガルドの補給線の破壊と全軍集結の阻止。
ウトガルドは国内での補給路をきっちり確保していた。
いつでも僕達スルトに狙われる可能性があると分かっていながらも、確保せずにはどうしようもないことも理解していたからだ。
だから、それを守備する戦力もそれなりに確保していた。
国境砦で決戦をするならば、この戦力を集結させる予定だったはずだ。
それを先に叩いて回るのが、僕らの役目。
個人的には、この程度の戦力で守るならいっそのこと補給路はやられる前提で、最低限の補給を行う人員以外は最初から前線に配置しても良かったのではないかと思うけれど…。
常識とはかけ離れるし、結局補給路が断たれてはいずれ戦えなくなるから仕方ないのかな。
僕は、補給物資以外は氷漬けになった辺り一帯を眺めつつ、補給物資が詰まったマジックバッグの束を掴んだ。
「補給物資も確保。次に行きましょうか」
「うむ」
僕が話を振ると、楽しそうに頷く学園長。
最近、僕と学園長は氷魔法が得意な者同士ということで仲良くしてもらっている。
「待て! 待て待て待て!!」
僕達が次に転移しようとすると、向こうの方で解凍作業などを行っていた『大賢者』様が泡を食って飛んできた。
その後ろから、ミカエルもへろへろと飛んで来ている。
「どうかしましたか?」
「どうしたもこうしたもない! お主達はぶっ放して終いじゃが、ワシらは1人1人慎重に解凍して充魔石で無力化させてと大変なんじゃぞ!」
僕が首を傾けて問うと、『大賢者』様がそう主張してきた。
「最初はミカエルの『無塵』の訓練に最適じゃ、とか言っていたではないですか」
それに、充魔石で無力化させて制圧しているのは『大賢者』様達ではない。
ちゃんと人員を王都から転移させてきている。
「それはそうじゃが…、負担に差がありすぎるじゃろう。お主らばかり楽しそうにやりおってからに…」
『大賢者』様が口を尖らせて言う。
後半が本音なんだろうな。
「じゃあ、僕らも手伝いますか。学園長、放った氷を少しずつお湯に変える魔法の訓練をしましょう」
「おお、なるほど。それは良いのぉ」
学園長が手のひらに拳をポンと置く。
乗り気なようだ。
「はぁ…。最初からそれをやれ…。それから、補給線が断たれたという伝令役を1人行かせるのじゃろう?」
『大賢者』様は疲れた様子でため息をついた後、僕に確認をしてきた。
もちろん、『完全記憶』を持つ僕がそれを忘れることはない。
「それはもう行かせました。1人だけ凍らせなかったので」
セイというかアカシャから聞いて、伝令役が誰かは知っていたので、その男は見逃したのだ。
前線の方へ必死に走っていったので、ちゃんと報告してくれることだろう。
狙い通りにいけば、数日以内に最終決戦となる短期決戦となるはずだ。




