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第145話 最重要人物

「この戦争の意味とはなんだ…か。君にそれを教えるには、少し早いな。それに、この会話もスルトには聞かれているのだろう? 今はまだ、知られるわけにはいかないのだよ」



 ウトガルド王は、焦りなど一欠片も感じさせない様子で淡々と言った。


 だが、この会話で1つ分かったことがある。

 やはりウトガルド王には、隠している目的があるのだ。

 スルトによる理不尽な大陸支配を許さないというのは、建前にすぎないのだ。


 スルトによる理不尽な大陸支配を許さないということが本心であったのならば、最後まで抵抗することに意味があると言えば良かったのだから。


 気になるのは、それはウトガルド王も分かっていたはずなのに、どうして隠している目的があるように匂わせたかだ。


 ウトガルド王が何を考えているか自体はどうでも良いが、それがペトラの命を脅かすようなものであるかどうかだけは確かめておく必要がある。



「知られなければ、まだ勝てる可能性はあると?」



 勝ちにいくなら、どこかで攻める必要がある。

 おそらくミロシュはこの戦場に来てすらいないだろうが、ダビド・ズベレフを討つか、スルト軍に撤退を選ばせるほどの傷を負わせなければ勝利とはならないはずだ。

 つまり勝つならば、あのスルト軍に突っ込まねばならない。


 ペトラにそんなことはさせられぬ。



「さぁね。でも、私は常に勝つつもりでやっているよ。さて、ようやく着いたのだ。あとは砦の中で話そう」



 ウトガルド王は呑気に手をひらひらさせながら、砦の中に入っていった。


 分からぬ。彼が何を考えているか。

 私の勘では、彼は最初から負けると分かっていて戦っているように感じるが…。


 私が砦の前で立ち尽くしていると、ペトラが私の袖を遠慮がちに引っ張った。



「お父様…、先ほどのスルトの攻撃…。全て氷魔法でした。もし、炎であれば…。追撃も緩かった気がします」



 先ほど戦場でもそうだったが、ペトラは私を()()()と呼んだ。

 最近はずっと()()と呼ばれていたが、昔のように。

 不安で感情が揺れているのだろうか…。



「うむ。ヴィーグとの戦争のように、被害を少なくしようとしているのだろう。スルトには、それだけの余裕があるのだ。砦にも、誘い込まれた可能性が高い」



 私はペトラにだけ聞こえるよう、顔を近づけ小さな声で話した。



「え? ではどうして…」


「指揮官は私ではない。命令には従う。それに、戦力差を考えると砦に入って戦うことを選ぶのは決して間違いではない。それがスルトの想定どおりであったとしてもだ」



 理由はもう1つある。

 平地で乱戦になるよりも、生き残る確率が高いと判断した。

 セイ・ワトスンは敵味方とも被害を最小にしようと考えていると思われるが、奴でもスルトの攻撃は制御できてもウトガルドの攻撃まで制御はできまい。

 乱戦になれば、むしろ(スルト)の攻撃より味方(ウトガルド)の攻撃に巻き込まれることの方が危険だ。



「わ、私は…、あれだけ大きなことを言っておきながら、いざ戦争が始まったら、死ぬことを恐れてしまいました…。私のプライドは、その程度の、ものだったのです……」



 ペトラは泣いていた。


 そうか。

 そう、思ってくれたか。


 私は心の底から安心した。


 どんなに私がペトラを助けたいと思っても、ペトラが死ぬつもりならどうにもならぬからだ。


 私はペトラの肩を抱いて、ぐっと引き寄せた。



「良いのだ。それで良いのだ、ペトラ。ビクトリアも間違いなく、君の命の方が大事だと言う。大丈夫だ。私が必ず、君を守るから」



 目が、体が熱くなる。


 王であったとき、私の力は無意味なものだった。

 代わりに戦う者がいくらでもいたからだ。


 力を磨いてきたのは、無駄ではなかった。

 私の力は、今日、このときのためにあったのだ。



 少しの間、無言でペトラを抱きしめていると、私達に声をかけてくる者がいた。



「ファビオ殿、ペトラ殿。良かった、ご無事でしたか」


「ロマン殿…。君も無事だったか」



 ロマン・ガルフィア。

 言ってはみたものの、彼が無事であることは分かっていた。


 セイ・ワトスンが絶対に守ると決めている人物。

 先ほどの攻撃で氷漬けになっていたとしても、真っ先に保護されていたであろう。

 彼は私やペトラよりも、よほど安全だ。



「ファビオ殿。スルトは、氷漬けにした我が軍の兵達を回収しておりました。あれは、なんなのですか…? スルトにいた貴方に、お聞きしたいと思って…」



 ロマン・ガルフィアは困惑していた。


 そしてその困惑の理由に、私は心当たりがあった。


 これはセイ・ワトスンに恩を売っておく、またとない機会だ。

 失敗は許されない。



「何でも聞いてくれ。まずは砦に入ろう。中に王もいらっしゃる」



 ロマン・ガルフィアとウトガルド王。


 ペトラを守るにあたって、この2人がウトガルドの最重要人物だ。






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「セイ・ワトスン。この映像を観せていただいたこと、感謝いたします」


「私からも礼を言う。ワトスン…、本当にすまなかった…」



 飛空艇旗艦、客室。


 ペトラ達の一連の映像を観終わったビクトリアとノバクが、()()()()()()()()()()()


 もう、王族ではなく、母と弟の顔だ。

 完全に吹っ切れた顔をしている。



「気にしないで下さい。状況にもよりますが、あの2人のことは貴方あなたがたに任せますので、よろしくお願いしますね」



 戦争前、家族のために全てをなげうってオレに謝罪してきたこの2人には共感するところもあるし、期待している。


 もしこの2人がオレの期待通り、もしくは期待以上の働きをしてくれれば、全てが丸く収まるかもしれない。







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