第142話 驚くのはこれから
「素晴らしい! 信じられないような魔道具の性能であるな! まさか平民達が、あの規模の魔法を簡単に防いでしまうとは!」
艦橋にやってきた『豚王』アレハンドロ・バン・フリズス。
彼は、艦長席付近に設けられたダビド将軍が座るための司令官席まで足を運び、さきほどの防御を過剰なくらいに褒めちぎった。
「ふふ。フリズス王、いえ、今はフルゼス王でしたか。我が国の魔道具の真価は、まだまだ発揮されておりませんよ。驚くのはこれからです」
忙しいダビド将軍に代わり、ジョアンさんが豚王の相手をする。
予定通りだ。
「あの魔道具には、まだ仕掛けがあると?」
豚王が抜け目なく情報を聞き出そうとしてくる。
今回、どこまで情報を出すかの加減はジョアンさんに任せてある。
オレは安心して状況を見守っていた。
「充魔石の話はお耳に入っていると思いますが、あの魔道具にもそれを搭載しております。換装用の魔石も潤沢に持たせてあります。1人辺り、並の魔法使い10人分くらいでしょうか」
ジョアンさんは、顎髭を撫でながら黒い笑顔で言う。
「は…? …朕の考え違いでなければ、防御に専念した並の魔法使い10人分の働きを、アレを持った平民がするというのか…?」
連れてきた真偽判定官の引きつった顔を見て、恐る恐るといった様子でジョアンさんに確認を行う豚王。
まぁ、そういうことだ。
これまでとは魔力管理の概念が全く変わってくるんだよね。
「ご明察のとおり。そして、平民が使える魔道具は無論、魔力が切れた魔法使いも使えるのです」
ジョアンさんの黒い笑みが深くなる。
それを見てたじろいだ豚王が、オレの顔も見てきたので、同様に黒い笑みを浮かべておく。
様子を横目で見ているダビド将軍は、やれやれという顔をしつつも指示を出し続けていた。
ダビド将軍は今、圧倒的有利な自軍の状況で、特に他国の軍が勇み足で勝手な行動を起こさないように細かく指示を出していた。
これは信用と実績が他国からも広く認められているダビド将軍だからこそできることだ。
アカシャの報告では、今のところ想像以上に他国の軍も言うことをちゃんと聞いているようだ。
「…ダビド将軍。朕からも自国の軍に一言だけ改めて指示を出させてもらって良いか? 絶対にスルトの指示に逆らうなと言うだけだ」
何を考えたかは分からないが、豚王はダビド将軍にそう申し出た。
あえて王としての威厳を落としているというか、とてもダビド将軍を尊重したような喋り方だったのが印象的だった。
「良いでしょう。貴国の軍が完璧にこちらの指示通りに動くのは、スルトとしても願ってもないことだ。なぁ、ジョアン?」
「ええ。わざわざ緩い追撃を行っているのです。足並みを乱されてはたまりませんからね」
ダビド将軍がすぐに許可を出し、念のためジョアンさんに確認をすると、ジョアンさんもすぐに同意した。
ダビド将軍が豚王に念話機を1つ渡す。
「5番を押すとフルゼスの将軍だけに繋がりますよ」
オレは念話機を受け取った豚王に、簡単に使い方を説明した。
「念話機か…。これも恐ろしき魔道具よ」
自国の将軍に念話機を使って強く強く言い含めた豚王は、ダビド将軍に念話機を返しながら呟いた。
「ふふ。まだまだですよ…。まだまだ、驚くのはこれからです」
ジョアンさんはそんな豚王に、追い打ちをかけるように言う。
その時、ちょうどアカシャから報告が入った。
『ご主人様、ウトガルドからの攻撃が小康状態となりました。次の段階に移って良いでしょう』
ウトガルド軍がスルト軍の足止めのために行っていた攻撃が一旦おさまったようだ。
圧倒的優位なはずのスルトが防御に専念して、ほとんど追撃をしてこないことから、一時的に魔力の温存に切り替えたらしいな。
オレは右腕を上げて、ダビド将軍に合図をする。
「次の段階に移る。飛空艇艦隊、飛竜隊、妖精隊、前へ。地上部隊はウトガルド軍との距離を保ったまま進め」
ダビド将軍が念話機で全軍に指示を出した。
「こちらネリー・トンプソン、飛竜隊、出るわ」
「こちらベイラ。妖精隊、出るの!」
ネリーが率いる飛竜隊と、武闘派の妖精が集まってできた、ベイラ率いる妖精隊からそれぞれ返事があり、飛空艇の艦長達からも続々と返事がくる。
「な、何をするつもりだ…?」
豚王がダビド将軍とジョアンさんとオレを見比べながら聞いてくる。
「まずは一当て。空からの攻撃。空襲です」
苦労したんだよ、この戦争までの魔道具開発。
そう、驚くのはまだまだこれからだ。




