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第135話 自重なき情報戦無双

 ウトガルドのある農村。


 数人の農夫達が寄り集まって噂話をしている。



「おい。春に戦争になるって話、知ってるだろ?」


「ああ。スルトと戦うんだろう? そのうち召集しょうしゅう命令が来るって噂だぜ」


「それがよ、出入りの行商人の話だと、ウチに勝ち目はないらしいぜ…」



 農夫の1人が急に小声で話し始める。



「マジかよ…。でもよ、何でそんなことが分かるんだ?」


「その行商人の話だと、大国フリズスがスルトのために大軍を用意することを決めたらしい。それで、元々スルトに付くことを決めていた国々が、手柄を争うように派兵を決めてるんだとか」



 スルトは旧フリズスの豚王が露骨にすり寄ってきたことを利用して、大きく兵を増員することに成功していた。

 そして、その噂を意図的に流しまくっていた。


 ウトガルドの火消しなど無意味だ。

 SNSありの世界となしの世界くらい噂の広まり方が違うはずだからな。



「オレが聞いた話だと、スルト軍は総勢30万近いとか。ウチはどう頑張っても10万ってとこらしいぞ」


「やべぇじゃねぇか。でもよ、だからってオレらにゃ何もできねぇだろ。兵役拒否なんてすれば良くて投獄、悪けりゃその場で殺されるぞ」


「そんなん分かってるって。だがよー、死にたくねぇよー。どうにかなんねぇのかよー」



 農夫達の会話がスルトにとって都合のいい流れになり始めた時点で、アカシャがオレに報告を入れてくれた。


 オレは今までの農夫達の会話のログを見ながら転移する。



「やぁやぁ、そんな君達に朗報だ。戦争が終わるまで、一時的に避難してみないかい? もちろん避難中の衣食住は保証するし、戦後ここに戻ってくるのも移住するのも完璧にサポートしよう。家族・友人・知人? まとめて面倒みようじゃないか」



 オレは農夫達の会話の流れに合わせながら、都合が良すぎて怪しすぎる言葉を並べ立てた。


 全部本当のことなんだけど、『真偽判定』が介在しない会話は面倒だ。



「な、なんだお前…? どこから出てきたんだ?」



 農夫達は明らかに警戒している顔つきでオレを見ている。



「オレの名前はセイ・ワトスン。スルトの貴族さ。どう見ても怪しい者だけど、これから信頼を勝ち取りたいと思ってるよ」



 自己紹介をしつつ、空間収納から妖精郷アールヴヘイムの土が入った袋と、世界樹の腐葉土が入った袋を取り出した。


 オレも農家の子供だ。農業談議は得意だぜ。






 ウトガルド。併合前にワウリンカの命令によって虐殺が行われた地域。


 この辺りで最も大きな屋敷で、この地に住まう代表者達の集会が行われていた。



「ウトガルドはもう終わりだ! 今こそ! オレ達の恨みを晴らす時が来た! 反乱の時だ!」


「「「「おおおお!」」」」



 中心人物が声を上げると、この場にいた全員が怒号どごうを上げる。


 この集会が開かれることを事前に知っていたオレは、スルトの屋敷でネリーとこの様子を見ていた。


 アカシャのサポートを受けたネリーが、集会が行われている直中ただなかへ転移して行った。


 オレは頼もしい気持ちでそれを見送る。


 こういう時はネリーだ。



「待ちなさい!」


「っ! 中央の手先がいたか!」



 転移したネリーが集会場で声を上げると、ウトガルド本国の手の者がまぎれ込んでいたと勘違いした様子の反乱の中心人物が焦った声を上げた。



「違うわ。私はスルトのネリー・トンプソン。今反乱を起こしても、多くの人が死ぬだけよ。どうか、私の話を聞いて。あなた達の気持ちは、痛いほど分かるわ。でも、私はあなた達に幸せになってほしい…」



 ネリーが反乱を止めるために話し始める。


 ウトガルド国内での反乱は絶対に止めたいことだ。

 確実に多くの死者が出る。


 スルトとウトガルドとの戦争とは違い、始まってしまえばコントロールは難しい。


 オレ達の手で鎮圧ちんあつしてでも止める。


 ネリーに任せておけば、ほとんどの所は大丈夫だと思うけどな。








 ウトガルド王城、広間。


 そこではロマンさんが中心となって、兵士たちにげきを飛ばしていた。



「父上は…、『拳聖』は、スルトの汚い罠で殺された! ワウリンカもだ! スルトは自分達にとっての邪魔者を消すのに手段は選ばない、そういう国だ! そんな国が大陸を統一すればどうなるか! 地獄の始まりだ!!」


「そうだ!! スルトの横暴を決して許すな!!」


「「「おお!!」」」



 ウトガルドの王城付きの兵士達は、そのほとんどが『拳聖』クリストファー・ガルフィアを強くしたっていた者達だ。

 スルトへの恨みは強く、士気は高い。


 そして王城内は魔封石に囲まれているので、オレ達も非常に手が出しづらい。




「王城内は魔封石の影響でセイ・ワトスンすら簡単には手を出せない。可能な限り戦力は王城から出すな。その上で、最大限の警戒をおこたるな」



 兵士達を遠巻きに見ていた前スルト国王ファビオが、共にいる将軍に注意喚起を行っている。


 ファビオにはあえて、オレに関する情報はかなり緩めに"契約"してある。

 怖がってもらった方が都合がいいからだ。

 ビビるヤツが多ければ多いほどやりやすい。


 ウトガルドもオレの情報だけ不自然に多く手に入ることには気付いたようだけど、それでも手に入る情報は手に入れることに決めたらしい。


 それにしても、ファビオは本気でスルトを倒そうとしているようだな。

 まぁ、そうしないと『真偽判定』に引っかかって殺されるかもって言ったのはオレだけど。



「そこまでする必要があるのか? さすがに王城内は安全だろう」



 ウトガルドの将軍は、王城内での警戒はやりすぎだと思ったようだ。

 ファビオに疑問を投げかけた。


 しかし、ファビオは厳しい顔で首を振る。



「前例がある。その油断で、『大賢者』がすべもなく王城からさらわれた前例がな…」


「な、なんと……」



 ファビオの言葉に将軍は驚き、絶句した。


 その様子を横目で見ていたウトガルド王の元に、伝令役が早足で寄ってきてかたわらにひざまずく。



「王。ご報告が…」


「なんだ?」



 チラリとこの場にいたファビオとペトラを見た伝令に対し、ウトガルド王はそのまま言って良いという意味で返事をした。



「一部の地域で徴兵が上手くいっていないようです…。村単位での脱走が確認された地域もあるということで…。一方で現状、恐れていた反乱は全く起きておりません」


「ふっ。そうか。良い、予想の範囲内だ。下がれ」


「はっ」



 伝令の言葉を聞いたウトガルド王は、特に気にした様子もなく、むしろ機嫌が良さそうなくらいの態度で伝令を下がらせた。



「どうしたペトラ殿、何か言いたげだな。許す、言ってみよ」



 そんなウトガルド王の様子がペトラは気に入らなかったようだ。

 だが、その表情でウトガルド王にバレたらしい。



「貴方…、スルトに勝つ気はあるの? 私には、勝てないと分かっていて戦うつもりのように見えるわ…」


「貴様、不敬であるぞ…」



 ウトガルド王に発言を許されたペトラが素直に思ったでことを話すと、そのあまりに不敬な態度に将軍が怒って腰の剣に手をかけた。



「くっくっく。将軍、良いのだ、面白いではないか。ではペトラ殿、質問を質問で返そう。君は、"スルトに勝てる"と思って我がウトガルドに来たのかね?」


「それは…」



 ウトガルド王は実に愉快だと言わんばかりに将軍をなだめ、ペトラに質問をし返した。


 ペトラは、それに言いよどむ。



「くくっ。無理に答えずとも良い。先程の君の問いへの答えは、今君が心の中で思ったことだと言っておこうか。大いに、共感できたであろう」


「「「……」」」



 ウトガルド王の言葉に対しペトラは悔しそうな表情をしたが、それ以上言葉を発することはなかった。

 将軍とファビオも、複雑な表情で押し黙っていた。


 ウトガルド王だけが、愉快そうに笑い続けていた。







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