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第134話 決戦に向けて

「結局、戦争を止めることはできなかった。でも、できる限りのことはした。ウトガルドとの戦争に勝利すれば、大陸統一だ」



 王城で行われているウトガルドとの戦争に向けた会議で、オレは最初に力強くそう話した。


 会議に出ている面々がうなずく。


 国際大会を行ったおかげで、四大国対スルトとなる可能性が高かった戦争が、ウトガルド対スルトとすることができた。


 ベストではないが、ベターな状況を作ることができたと言えるだろう。



「勝つのはもちろんだけど、後のことも考えて被害はできるだけ抑えたい。でも、ヴィーグの時のように両軍ほぼ無傷で終わるってことは極めて難しい。規模が違いすぎるからだ」



 続けて言った言葉にも皆が頷く。


『拳聖』やワウリンカがいなくなったとはいえ、相手は大国。

 まだアレクやネリー級の強さのヤツが何人もいるし、何よりウトガルドは限界近くまで動員すれば10万近い兵を出せる。


 ヴィーグと戦争をした時のように、精鋭がありったけの魔力で一気に決めるには魔力が足りない。



「それでも、何でもありならスルトの兵に死者を出さないことは十分に可能だと思っている。ただ、当たり前かもしれないけれど、スルトの安全性を高めるほどウトガルドの被害は増える。個人的にはギリギリを狙いたいと思っているが、皆の意見を聞かせて欲しい」



 オレは全体を見回しながらしゃべった。


 これは勝つためにどうするかの会議じゃない。

 どう勝つかの会議だ。


 スルトの安全性を100%にして100人殺すか、スルトの安全性を120%にして1000人殺すか。

 そんな会議。


 まずはスルトの安全性を確実に確保する。


 その上で、ウトガルドの被害を極力少なくしてみせる。



「あたち、ウトガルド王を消せば戦争が止まると思うの。それが1番被害が少なくならない?」



 ベイラがずっと疑問に思っていた、といった感じで聞いてくる。



「私が答えましょう。まず何より、戦争が止まる可能性が低いのです。誰が王を暗殺するような相手に恭順するでしょうか? 恭順したとしても、大きな禍根を残すことになります。反乱や内戦の火種になる可能性が高い」



 ジョアンさんがよどみなく答える。



「ふーん。でも、戦争が止まる可能性があるならやってみても良いと思うの」



 ベイラはジョアンの話を聞いた上でも、少しでも可能性があるなら試してみたいと考えたようだ。

 試せる話ではないけども。



「こちらも可能性の話になり申し訳ないのですが、仮に戦争が止まったとしても、ウトガルドが受ける被害が戦争で負けた以上に大きくなる可能性が高いのです。例えば、後継者争いで内戦が起こるとか、今までウトガルドに侵略され併合された地域で反乱が起こるなどですね」



 ジョアンさんはあくまで想定の話になると前置いてベイラに説明をした。


 過去の歴史と人間の心理から予測してるんだろうな。



「とはいえ、もしウトガルド内部で王の暗殺があった場合、自然にベイラが言ったプランになるんだけどね」



 アレクが補足をする。


 そのパターンは有り得なくはないんだよな。

 ウトガルド王城内で暗殺が企てられて、ウトガルド王城内で犯行に及ばれれば止めようがないし。



「分かった気がするの…。でもどうちて、戦争で勝ってウトガルドを併合ちたら、内戦や反乱は起きないの?」



 ベイラが言う。

 あー…。確かに。


 アカシャに過去の歴史を聞こうと思ったけれど、ジョアンさんがすぐに答える姿勢になったので後にすることにした。



「戦争に勝った直後に小規模なものは起こるかもしれません。が、不思議と戦争ではっきり決着がつくと、大きな内戦や反乱がしばらくは起きない傾向けいこうにあります。無論、絶対ではないですが。おそらくは、ある種の納得が生まれるのでしょう……」



 なるほどね。

 オレはジョアンさんの説明にうなずいた。


 と同時に、ジョアンさんの表情が気になった。



「どうした? 何か気になることでも?」



 突然何かに気づいたような表情をして、顎髭あごひげでながら考えている様子のジョアンさんに聞いてみる。



「いえ…。少し…、思いついたのですが、気のせいでしょう」



 ジョアンさんは気を取り直したように普段通りの表情に戻る。



『何かに気づき、気のせいだと思った、関係ないと思った、もしくは意味がないと思った。そのような心理状態かと。問い詰めれば真意を聞けるのでは?』



 アカシャがジョアンさんの心理状態を伝えてくる。



『いや、いい。ジョアンさんを信じよう』



 ジョアンさんが話さないということは、話さない方が良いって考えたんだろう。

 であれば、聞かない方が良い。



「うむ…。ともかく、こちらから積極的にウトガルド王を暗殺する必要はないだろう。そして、改めて双方の被害が最も少なくなる方法を考えようではないか。先日も話した通り、私達はあくまで、平和のために戦っているのだから」



 ミロシュ様が話をまとめ、会議の続きをうながす。


 全員が、もちろんオレも、力強く頷いた。



 先日の、ミロシュ様の言葉を思い出す。






 実家に泊まった翌日、オレ達スルトの王都に戻った。


 ネリーとオレが戦争が終わった後に正式に婚約することをミロシュ様達に報告すると、メチャクチャ喜ばれた。


 アレクが言っていた通りにパーティーが開かれ、盛大に祝われた。


 ミロシュ様とジョアンさんはどうやらすみやかにこの噂が広まるようにしたいらしい。

 アレクと、ネリーとアカシャまでそれに協力する態度だったので、瞬く間に噂は広まるだろう。


 実は貴族達からミロシュ様へ、オレに対しての縁談の話が大量に来ていたらしく、その対応とのことだった。



『知らなかったんだが、アカシャさん?』



 アカシャさん、()()()()よね。


 皆が知っててオレが知らない情報があったということは、そういうことだ。



『ええ。聞かれませんでしたので、わたくしの判断でにぎつぶしました』


『そ、そうか。まぁ縁談に応じるつもりもなかったから、いいんだけどね…』


『そうおっしゃると思っておりました。ご主人様のことは私が1番存じておりますので』



 アカシャに尋ねると、しれっとそう答えていた。


 アカシャの声を聞ける人間は限られてるはずなのに、どうやったんだ…。



「オレへの縁談がいっぱい来てたってことは、アレクにも来てるんだろ? アレクはどうするんだ?」


「僕は検討中。家格が見合う相手なら、縁談が来ている中から選ぶのもいいかもしれないとは思ってる」



 アレクに気になったことを聞くと、いかにも貴族らしい答えが返ってきた。



「アレク殿も重要ですが、まずはミロシュ様です。すぐにでもお相手の2人や3人見つけていただかなければ」



 オレ達のやり取りを聞いていたジョアンさんが首を突っ込んできて、ミロシュ様のきさき探しをしなければと力強く語っていた。


 ミロシュ様は前王ファビオが失脚するまで結婚を禁じられていたから、未だに未婚だった。


 王となった今その制約はもはやないけれど、それでもまだ結婚していない理由についてはオレも知っていた。



「分かっているよ。それは方方(ほうぼう)から耳にタコができるほど聞かされている。しかし、今少し待って欲しい。私は四大国の姫をめとるつもりなのだよ」



 ミロシュ様はその理由をジョアンさんにも説明した。


 ただ、それはオレだけじゃなくジョアンさんだって知ってるはずなんだけどな。



「それは存じておりますが、ミロシュ様の年齢を考えますと一刻も早い方が良いでしょう。後から娶った者をより高位の后として迎え入れれば良いのです」



 不妊に苦労して、最近ようやく待望の第一子を授かったジョアンさんの言葉は切実だった。


 ミロシュ様は今23歳。

 この世界の貴族は学校の卒業後すぐに結婚するのが1番一般的なパターンで、20歳までに結婚できないと婚期を逃したと言われがちだ。

 王であるミロシュ様が未だ結婚していないのを危惧きぐする周囲の考えも分からんでもない。


 個人的には、まだまだ焦るような歳じゃないと思うけれど。

 それこそジョアンさんにしたように、妊娠補助をすることだってできる。



「ジョアン、私もそれは考えた。だが、スルトが大陸を統一するということは、私がこの大陸唯一の王になることを意味する。その后の序列は、極めて重要な政治的問題だ。極力、後顧こうこうれいがないようにしたい」



 ミロシュ様ははっきりとそう言い切る。



「はっ。出過ぎたことを申し上げました。お許し下さい。ミロシュ様はそこまで戦後のことを考えておられたのですね」



 ジョアンさんは恥じ入るように目をつむり、ミロシュ様に深く頭を下げて非礼をびた。



「良い。常々(つねづね)自分に言い聞かせているだけだ。私達はあくまで平和のために戦っている、とな…」



 ミロシュ様のこの言葉は、とても深く印象に残った。


 矛盾と戦い続けているのは、やはり自分だけではないのだ。







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