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第127話 あんたのせい

 オレはペトラの凶行を止めた後、まずは仲間達のもとへ説明に戻り、それからファビオに会いに行った。


 仲間達は打ち合わせ中に突然消えたオレに驚いたものの、状況は何となく察していたらしい。

 軽い説明で全て理解してくれた。


 ジョアンさんやアレクは計画のためには放っておくべきというスタンスかと思っていたけれど、意外にもそうではなかった。



「セイがそういうのを放っておける人間なら、僕達は今ここに集まっていないよ」


「このような悲劇をなくすために、私達は動いているのです。主殿は何も間違っていません。むしろ私こそ、効率を重視しすぎたと反省しています」



 2人とも穏やかに笑って、オレの謝罪を受け入れてくれた。

 どちらも、まさかペトラが家族を殺そうとするなんて想像していなかったらしい。


 オレが計画にない行動をすることでスルトを危険にさらすならともかく、今回はペトラが亡命しようがしまいが大勢に影響はない。

 これ以上悲劇を増やさなくても良いだろうと、皆も思ったようだった。



 ファビオは闘技大会の裏方として、何も知らずに家族のために必死に働いていた。


 もちろん、前王が目立つ形で下働きをしていると周りがやりにくいだろうから、あまり人とは接触しない仕事を割り振られている。


 オレが会いに行って概要を話すと、彼は前王だったとは思えない、それはもう見事な土下座をかましてきた。



「なんのつもりです?」



 オレはファビオに冷たい声をかけた。


 元々は、コイツがやらかしたせいでビクトリアが狂い、その子供達がねじ曲がったんだ。


 1番まともだが、1番罪深いのはこの男だということを、オレはよく知っている。



「ペトラがとんでもないことをしてしまい、本当に申し訳なく思っている…。だが、処刑するならば、どうか私だけにしてくれまいか」



 オレはファビオの言葉に対して、失望のため息を吐いた。



「貴方は、大きな勘違いをしている。ずっと昔から…。貴方のその言い方だと、ペトラ様が勝手にやったことの責任を貴方が取ると言っていますよね?」



 オレがそう言うと、ファビオは驚いたように顔を上げた。



「違うのか…? まさか、ペトラをそそのかした者がいるのか?」



 やっぱり、()()()()()()()()()()と思っているらしいな。


 その勘違いが、今の状況を作っているとも知らずに。



「はぁ…。いませんよ、そんな人物は。今回のペトラ様の行動は、彼女が自分で考えてやったことです」


「で、では何を、私は勘違いしているというのだ…?」



 オレが再びため息を付きながら言うと、ファビオが説明を求めてくる。


 オレは土下座の態勢から頭を上げているファビオの前にしゃがみ込み、胸ぐらを掴んで眼の前に顔を引き寄せた。



「子供のやったことの責任を、親が取るのは当然なんだよ。子供の性格や思想は、教育の結果だからだ。あんたがどこかの時点で、無理矢理にでもあの2人の教育方針を変えてればこうはなってなかった。()()()()()()なんだよっ!」



 一息に、感情をぶちまける。

 自分で思っていた以上に、オレはコイツにムカついていたらしい。


 勝手にやった? ふざけんな。

 そうだろうけど、そうじゃないだろうがよ。



「わ、私は…。ただビクトリアを、その子供達を、愛していただけなんだ……」



 ファビオが大粒の涙を流し始める。



「分かってますよ。でも、貴方は間違えた。愛してるからひたすら甘やかすってのは違う。今も家族のために必死に働いてるのは知ってるけど、結果的には家族のメンタルケアを優先すべきだった」



 結果が分かってるから言えることで、実際には難しかったかもしれない。

 でも、どちらにせよ責任はこの人にある。

 気づくチャンスだって、ちゃんとあった。



「あ、ああ、あああああぁ……」



 ファビオが泣きながら、両手で頭をかきむしる。


 そっと胸ぐらから手を離すと、彼は床に頭をこすりつけるようにして慟哭どうこくした。



『深い後悔…でしょうか?』


『そうだろうな』



 アカシャが感情を読み取れるくらいのなげき。

 同情の余地もなくはないけれど…。



「非情なほど厳しく育てたミロシュ様は、立派に育たれましたよ。もっと早く気づくべきでしたね」



 オレはノバクやペトラなんかより、よっぽどミロシュ様に情がある。

 性格が悪いとは思いつつも、皮肉くらいは言いたくもなる。



「ああ。ああ、そうだとも。全て私が悪い。だから、処刑するなら、どうか私だけにしてくれ。頼む」



 ファビオは何もかも投げ捨てて地面に額をこすりつけている。

 結局ここに戻ってくるのか。

 ビクトリアと、その子供達に対する愛だけはすごいんだよな、この人。

 王にしちゃダメだろう。


 オレはため息を吐きながら、話した。



「少なくとも今は、誰も処刑しません。まずは家族でよく話し合ってください。ペトラ様の根底にあるのは、親に振り向いて欲しいということだと思いますよ」



 どうなるかは、分からない。

 そもそもペトラが目覚めた後、話し合えるような心理状態かも分からない。


 でも、家族を殺そうとするなんて、そんな悲しいことにはもうならないと信じたい。


 ゆがんでいるとしても、ファビオとビクトリアの愛情だけは、ペトラに伝わって欲しいと願っている。









お読みいただきありがとうございます。


いつもアクセスやブックマーク、評価、感想、レビュー、いいねなど様々な応援ありがとうございます。

読まれているという実感は、とても力になります。

これからもぜひ、完結までお付き合いいただけると幸いです。



次回更新は4/17(水)予定です。

よろしくお願いいたします。



※本日4/17(水)に予定しておりました更新ですが、延期させていただきます。

申し訳ありません。


ちょっと体調が悪かったので休み休み書いていたら間に合わなくなってしまいました。

ほぼ完全に休み無しで書いていそうな方々は鉄人ですね。尊敬します。


改めての次回更新は4/20(土)予定です。

よろしくお願いいたします。

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