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第28話 眠れない

今回は一部に残酷な描写があります。


ご了承の上、お読みください。




『ボズが寝たとき以外に、盗賊団の誰かが集団を離れて1人になったときも教えてくれ。1人ずつ間引いていく』



 目的のナイフを手に入れて鍛冶屋を後にしたオレは、さっそくアカシャに新たな指示を出した。



『かしこまりました。しかし、団員を排除するのでしたら、ボズを襲撃するときにまとめて全員範囲に入れればいいのでは?』


『全員殺すつもりはないんだ。少しずつ減らして恐怖をあおる』



 ボズ以外の団員を全滅させることは簡単だ。


 でも、最終的な目標を考えると、ある程度の数は生かしておいた方が上手くいくと思う。



『もしボズだけになったとしたら、到着予想とかも変わってくるんじゃないのか?』


『そうですね。明日からの推定残り4日が、推定残り2日になります』


『それだけでも団員を生かしとく意味はある』



 準備期間は長い方がいい。


 "まとい"の成功率を上げるだけでも、大幅に生存率が上がるのだから。


 空間魔法の習得、メイン武器などの収集、レベル上げ、避難先の確保など、他にもやりたいことは山のようにある。


 それに…。



『ご主人様、盗賊団が休憩に入るようです。用を足すために、何人かが集団から離れ1人になると予測されます』


『早っ! もうかよ。その中で、最も他の盗賊団から見つかりにくい位置に行ったヤツの真後ろに転移する。決まり次第、転移先の映像を送ってくれ』


『かしこまりました』



 思考をしている最中に、早くも盗賊団を間引くチャンスが来たので、手早く指示を出す。


 今回は明るい中での行動だ。

 一瞬で戻るつもりとはいえ、さらなる保険をかけておく。



「"透明化"、"消音"、"身体強化"」



 右の手のひらを胸に当て、言葉をつむぐ。


 "限定"と"宣誓"を使った、それぞれの魔法の行使だ。


 転移を合わせて4つ同時の魔法の行使。


 これが今のオレの限界だ。


 すごく努力したつもりだけど、魔法の同時使用の個数はそう簡単には増やせない。


 とはいえ、透明化して音を消した状態ならまず見付かることはないだろう。


 少しすると、アカシャから頭の中に転移先の映像が送られてきた。

 テレビの分割画面のような形で転移先が見える。


 本来、転移魔法では自分が行ったことのある場所にしか移動できないが、その理由は転移先の十分な情報が必要だからだ。


 だがオレの場合、アカシャがいるおかげで特殊な場合を除きどこにでも転移できる。


 ボズに魔法を撃ちに行ったときも感じたけど、ちょっとズルいくらい便利だよな。これ。



『よし、行くぞアカシャ。観測は頼んだ』


『お任せください』



 先ほど買ったばかりのナイフを、さやから抜き放つ。


 一度大きく深呼吸をして、決意を固めた。


 魔法以外で生物を殺すのは初めてだ。しかも、盗賊とはいえ人間を殺すつもりなのだ。緊張もする。


 かすかに震える手を、守るべき人達の顔を思い浮かべることで無理矢理止めた。



「"転移"」



 転移魔法を使った次の瞬間、オレは転移先の映像の位置、つまり盗賊団の中の1人の背後に降り立った。


 消音の魔法のおかげで、音は出ない。


 山の中の、道から少し外れた場所といったところだろうか。


 盗賊は何も気付かずに、目の前の木に向かって呑気に小便を始めた。



『心臓か首を狙うのが良いでしょう。位置を出します』



 盗賊の急所が、赤いマーカーを付けたように光る。


 アカシャが視覚情報に上書きしてくれたのだ。


 躊躇ちゅうちょしている余裕はない。


 意を決して、ナイフを逆手に持ち替えて飛びかかった。


 オレの身長はまだ目の前の盗賊の腰より少し上といった程度なので、飛ばないと急所に届かない。


 身体強化のおかげで一瞬のうちに、盗賊の左肩に左手をかけ、腰に足を置き、右手に持ったナイフを心臓に突き入れた。


 盗賊は振り返る時間すら与えられず、苦悶の声をあげる。


 いや、苦悶の声を上げたように見える。


 消音の魔法の効果で、今オレが触れているものの音は出ない。



『ナイフは完全に心臓に達しております。盗賊団の持つ回復手段では、もはや回復不可能です』


『分かった。帰るぞ』



 音もなく崩れ落ちた盗賊からナイフを抜き取り、転移魔法を使う。


 家の畑のそばに立っている大きな木の木陰に降り立ち、すぐに汚れを落とす魔法を使って返り血を落とした。


 かけていた魔法を全部解除して、木にもたれ掛かるようにして座り込む。



『新しい人生、こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ…』



 手には、人を刺した感触が残っていた。やはり吐いたりはしなかったけど、最低の気分だ。


 魔法はどこか現実感がなくて、しかも放ってから結果も見ずに戻ってきていた。


 魔法とは、全く違う。


 刺した感触と、血の匂い。圧倒的な現実感。


 ストレスのせいか、気持ち悪い。でも、吐きそうって感じでもない。



つらければ、いつでも逃げられます。周りのことを想って、ご主人様が犠牲になる必要はありません』



 アカシャが言うように、逃げるのは簡単だ。


 力ずくで、村の全員を逃がせばいい。


 今のオレなら、簡単にできる。


 生き残るだけなら、盗賊団を退けるよりもよっぽど楽だ。


 でも…



『辛いけど、犠牲になってるわけじゃないよ。これは()()()エゴなんだ。今後、楽しく生きていくために、自分で選んだこと。むしろ周りを犠牲にしてるだろ』



 たくさんの人を見捨てて、この道を選んだんだ。


 弱音は吐いてしまったけど、今更決意が揺らぐことだけはない。



『ご主人様がそうおっしゃるのでしたら、よいのですが』



 基本的にオレを全肯定するアカシャにしては、何か言いたげな感じだな。


 予想できなくもないけど、それはなしだ。家族や村の人の幸せもふくめて、オレの幸せだから。



『弱音吐いちゃって悪かった。この話はこれで終わりだ。このままここで空間魔法を練習するぞ。さっさと習得して、盗賊共に目にもの見せてやる』



 ちょっと過剰なくらい元気なふりをして、全力で空間魔法に取り組んだ。




 その後、昼飯などを挟んですぐくらいに空間魔法は習得できた。


 盗賊団との戦いの際に、盗賊達の体調はできるだけ悪くなっている状況が望ましい。


 睡眠時間は現在進行形で削っているが、次は食事を削る。


 まずはアカシャに教えてもらって、転移で毒草など毒になるものを集めまくった。


 そしてアカシャの指導の元、それを魔法を使って粉末や液状にして、空間魔法で盗賊団の食料に送り込んだ。


 直径1センチもないようなゲートで、しかもアカシャが誰も見ていないときを選んでくれたから楽勝だった。


 盗賊達は夜になってこれを食べて、何人も死んだらしい。


 ボズは真っ先に食べたらしいのだが、腹が痛くなるくらいで済んだようだ。


 できる限り強力な毒を選んだのに、化物ばけものだな。


 アカシャから、これぐらいでは死なないと聞いてはいたけど。


 とはいえ、成功だ。


 これから盗賊団には何も食べさせない。


 ボズに関しては、食べる量が減ったり腹痛を起こすだけでも良しとしよう。


 できれば飲み物を潰したかったけど、川などもあるから完全には無理だ。


 極力こちらの体調は万全に、盗賊どもの体調は最悪にする。





 夜も更ける頃、今日もボズの睡眠を妨害するため、昨日と同じようにベッドから転移して雷魔法を撃って戻ってきた。


 今日は初めから警戒していて、やっと警戒を解いて眠りにつこうとしたところを襲われたので、ボズは怒り狂っているらしい。


 大幅に魔力が減ったので、寝なければならない。


 でも、今日はまだ一睡もできてない。


 魔力だけでなく、体調を考えても寝るべきだ。


 だが、目を瞑ると、人を刺した感触が頭から離れない。


 気持ち悪い。



『眠れない…。でも、寝なきゃいけない。アカシャ、どうすればいい?』


『あまり良い方法ではないのですが、ご自分に睡眠魔法をおかけください。"まとい"の要領で魔力を変質させればかかります』


『ああ、なるほど。ありがとうアカシャ。ボズがまた寝ようとしたら起こしてくれ』



 妨害系の魔法は、相手に応じて抵抗がある。


 前に拘束魔法をゴブリンにかけたけど、ボズには絶対にかからない。


 そして自分には基本的にかけられない。自分の魔法には特に強い抵抗があるからだ。


 でも、魔力を変質させることで抵抗を減らせばかかるんだな。

 知らなかった。


 魔力を変質し抵抗を減らして、さらに魔法の効果を書き換えるのが"纏"だ。


 自分への妨害魔法は、簡易版の"纏"みたいな感じらしい。


 "纏"の練習もしなきゃいけないから、ちょうどいい。


 右手の手のひらを胸に当て、集中する。"限定"と"宣誓"も使った方が安定するのだが、兄ちゃん達もいる子供部屋なので、"限定"のみで睡眠魔法を使う。



 …どうやら上手く一発で成功したようだ。


 耐え難い睡魔が襲ってくる。


 本質的には何も解決してないことには目を瞑って、寝た。


 夜が明ければ、盗賊団が来るまで、あと4日。



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― 新着の感想 ―
[一言] 運動エネルギーもそのまま送り込めるなら、高いところから岩か槍かなにかを落として、就寝中のターゲット上にゲートを開いて当てれば良いのでは。
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