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第121話 化け物達とは戦えない

 闘技場の上空で、激しい雷光と炎、爆発が入り乱れている。


 セイ・ワトスンもドラゴンに乗るネリー・トンプソンも、あまりに速く動いているため、肉眼で捉えることすら難しい。


 ちらちらと姿が見えるのは、どうやら防御壁で魔法を防ぐ瞬間に一瞬だけ速度を落としていることが原因らしい。


 冷や汗を流しながらちんに解説をする我が国の精鋭と、観客席前に浮かぶ映像がなければ何も分からないまま呆然と空を見ることになっていたであろう。


 ちなみに、あの映像も絶対におかしい。

 何をどうやっているのか分からない超絶技術で戦う2人を捉え続けている。


 この映像がかねてからの予想通り、噂に聞くスルティア学園の支配者の仕業だとしたら、その者も凄まじい実力を持つということではないのか?


 口元が引きるのを感じる。


 乾いた笑いしか出て来ぬわ。



「く、くく…。だから言ったであろう? ちんの判断は正しかった…。あんな化け物(ばけもの)達とは戦えぬ」



 秘密裏に国名を変えてまで"契約"を誤魔化してスルトに付くことにした朕を白い目で見ていた者共が、慌てるようにちんをおだてるような発言を投げかけてくる。


 バカどもが…。

 今のちんの発言など、強がりに過ぎぬ。


 確かに判断は正しかった。


 …だが、予想を遥かに超えて、スルトとの力の差がありすぎる。


 学生達でこれだけ圧倒的な差があるのだ。

 いくら今戦っている此奴こやつらが異常だとしても、スルト軍との差も圧倒的であることは間違いない。


 現状で我が国はスルトに恭順はしておらぬ。

 口先だけでも、対等の立場で"契約"を交わしたのだ。


 しかし、ここまで力の差があるとなると、戦後の力関係がどうなるかは火を見るより明らかである。


 計画を、変える必要があるな。


 ちんを舐め腐っているジョアン・チリッチがおそらくこれを予見していたのは腹立たしいが、いっそ手のひらの上で踊るのが最上の結果を得られる方法かもしれぬ。



「これから忙しくなる。ちんは常に正しい。貴様らはちんについてくれば良いのだ」



 観客席での大国の配置…。

 ノアトゥンとミーミルが()()観戦、ウトガルドと我が国は単独で観戦。


 ノアトゥンとミーミルはすでにスルトに付いた、もしくはこれから付くと見て良いだろう。


 そして、ノアトゥンとミーミルが()()()()()()()()()()()()()()()()()ことから、我が国と同様に恭順してはいないと思われる。


 恭順させていれば、スルトがそれを喧伝けんでんしない理由がないからな。


 ゆえに、我が国が今何よりも優先してやるべきことは。


 ノアトゥンやミーミルよりもさきんじて、スルトにびる。


 これしかない。


『豚』のプライドの低さを見せてやろう。


 若い頃から、ずっとこれで難局を乗り切ってきたのだ。


 あなどらせることで、有利をとる。

 これがちんの生き方。


 舐められるのは腹立たしいが、才能がなかろうとも、最後に笑うのは常にちんである。






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『会場内で観戦中の中立国やしん大国同盟の国々から、続々とスルトに付くべきという声が上がってきております』



 ミニドラに乗るネリーが放つ火魔法を避けつつ、ほぼ同時に四方八方からドラゴン達が放つブレスを防御壁で受けたり、火魔法で相殺そうさいしながら、アカシャからの報告を聞く。


 お返しとばかりに、ネリーに何発か雷を落とす。

 お互い高速で動いているので、全弾命中しなくても不自然には見えないだろう。

 1、2発程度なら、ネリーは余裕で防ぐ。



『いいね。派手に戦ってる効果が出てきたみたいだな』



 戦いながら、アカシャに返事をする。


 1、2、3年生達の試合でもこのような声が上がっていたことは知っている。


 ダメ押しとなるように、オレ達4学年の試合を見せつけ、さらに5、6、7学年でも全てスルトが優勝準優勝を独占する。


 各国は思うだろう。


 学生がこれだけ強ければ、スルト軍はどれほど強いのだろうと。


 これがジョアンさんが提案してくれた、戦争回避の方法。


 推定される圧倒的スルトの軍事力を前に、各国が自ら戦争回避を選ぶよう仕向ける策。


『国際大会強化委員会』が、まさかこんな形できるなんて。

 強化した学園生を戦争で使う気なんて全く考えてなかったオレは、思いつきもしなかった。


 オレはまだまだ情報の使い方が下手くそだ。

 ジョアンさんから学ぶことは多い。



『もうしばし戦っていれば、ご主人様とネリーの桁違いの魔力量も誰しもが理解することになるでしょう』


『魔力量を確認できるスキル持ちがいない国もあるからな。……どうした、アカシャ?』



 肩の上のアカシャの表情が一瞬、不快そうに変わったような気がして、オレは空中で立ち止まった。


 まわりから迫ってくる魔法は、"打消"を使ってかき消す。



『観客席にいた元第1王女ペトラ・ティエムが、おそらくウトガルド陣営に向かっています。警備に取り押さえられるでしょうが、面倒なことになるかもしれません』



 アカシャの念話を聞いて、オレはたぶん、さっきのアカシャとそっくりに顔をしかめた。


 ペトラがウトガルド陣営に向かってるなら、考えていることは想像できる。


 確かに()()()オレも邪魔をしづらい。


 今更ペトラがウトガルドと組んだところでスルトが負けることは有り得ないけど…。


 アカシャの言う通り、面倒なことになるだろうな。






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