第116話 大国連合
「王様。1つ、確認しとかんとアカンことがあんねん」
国際大会3日目、つまり国際大会最終日の朝。
朝食を終え、予定通り王様の下に集まった僕は、全員が集まりきる前に話を切り出した。
さも小さな確認かのように、気ぃつけて。
「なんだ?」
そのかいあってやろうか。
王様も軽い世間話をする感じで返してきた。
「フリズスが裏切って、『拳聖』はんが死んだ。どちらもおそらくやけどね。もう万に一つも勝てる目はない。けど最期まで戦うってことでええ?」
僕はわざとニヤニヤしながら、さらっと聞いた。
国際大会後、連合軍の総力をもってスルトを力で叩き潰すっちゅう当初の計画は完全に破綻した。
スルティア学園の生徒達が、いや、ヘニルなどを含むスルトに属する国際大会の参加選手達が、ここまで圧倒的な活躍をしたことは大きな誤算やった。
過去の歴史から、国際大会の戦力差は、戦争での戦力差の目安になることは周知の事実や。
ビビった国々がスルトにすり寄った。
決定的やったのは、その中に、しかも早々に、フリズスが含まれとったこと。
4大国連合軍でどうかっちゅうのに、その中の1国が裏切ったら話にならん。
それでも、『拳聖』がスルトの実力者を消すかダンジョン・イザヴェルの開放をするかすればひっくり返る可能性もあったと思うとったけど、それも失敗。
最悪の場合の保険として用意しとった、僕だけは勝つプランを実行せざるを得んかった。
今、せっかく下からスルトへの復讐の炎が燃え上がっとる。
なのに今更、やっぱ戦争止めたなんてことになったら最悪やからな。
僕個人の勝利条件は、スルトが止めたがってる戦争を止めさせないこと。
たぶん王様はとことんまでやる気満々やろうけど、周りが止める可能性がないとは言い切れん。
ここで確実に方向性を決めておかんと。
僕も死ぬのは嫌やけど、スルトの甘ちゃん共が作った頭お花畑の世界で生きるのは死んでもゴメンや。
まだ掻き回すだけ掻き回して死んだ方がマシやろ。
「無論だ。やはり、お前を重用した余の目に狂いはなかったようだな」
ニヤリと笑った王様が、世間話をするような調子のまま答えた。
そしてそのまま、将軍をちらりと見る。
王様や僕に意見できる立場の人間で、アイツだけは話が聞こえとったみたいやからね。
僕の言葉にピクリと反応しとった。
ま、大丈夫やろうけど。
「王の御心のままに」
将軍はそう言って、王様に頭を下げた。
真面目ちゃんやからね。
そうなると思うとったよ。
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ちっ。
オレはウトガルドの情報を確認して、思わず舌打ちをした。
聞こえていたらしいアレクとネリーがこちらを見てくる。
「ウトガルドはやっぱり、玉砕する前提で戦うつもりらしい」
オレは見たことを2人に伝える。
「予想通りだね。残念だけど」
「残りの2大国との交渉、失敗できないわね」
オレと横並びに歩きながら、2人がそれぞれ感想を言った。
今、オレ達は先にアポイントがとれた大国、ノアトゥンとの交渉のため、学園の会議室に向かっていた。
場所をここにした理由は、オレ達が参加予定の闘技大会会場に近いことや、単純に目立ちたいことの他、色々都合が良かったからだ。
ノアトゥンともう1つの大国ミーミルには、急ではあったがアポイントを取るために連絡を入れた。
2つの大国のスケジュールは大会開催前、スルト入りして早々に決めた反スルトの国や中立国とのアポイントで埋まっていたが、それをキャンセルして至急と使者に伝えさせた。
すぐにアポイントが取れる勝算はあった。
"フリズスがこちらに付き、『拳聖』が死亡した"という情報も、同時に使者に伝えさせたからだ。
真偽を知らない使者に『真偽判定』を使っても意味がない。
この超重要な情報の真偽を確かめるためには、確実に真偽を知っているであろうスルト上層部に『真偽判定』を使うのが手っ取り早い。
そして、情報が事実であるならば、中小国家とのアポイントをキャンセルする価値は十二分にある。
実際、ノアトゥンは飛びついてきた。
「ミーミルの方はどうなの?」
ネリーの頭の上に座っているベイラが、当然状況は把握しているのだろうと言わんばかりに聞いてくる。
「未だ大騒ぎしております。大勢は会談に応じるべきという意見に傾いておりますが」
許可を出した者にしか聞こえない声で、アカシャが状況を伝える。
まだ決まってなかったか。
「ノアトゥンが戦争に参加しないと決まれば、その情報で今度こそすぐに応じるさ」
オレは期待を込めてそう言う。
実際そうなる可能性は高いはずだ。
「そのためにも、何としてでもノアトゥンに要望を飲まさねばなるまい。面子を保つための言い訳も用意したのだ。きっと上手くいく」
どこから聞いていたのか、少し前を歩いていたミロシュ様が、ジョアンさんと一緒にオレ達のところまで下がってきた。
「これは重要なことなので改めて言いますが、ときにハッタリは嘘とは限りません。計略通り、上手くお使いください」
ジョアンさんが、オレによく含み置くよう伝えてくる。
失敗はできない。
ヴィーグとの戦争の時のように戦闘員の死亡ゼロで戦争を終わらせるには、敵軍に含まれる大国が1国以下であることが絶対条件だ。
2カ国以上含まれていると、数が多すぎてコントロールしきれない。
ハッタリでも何でも使ってやるさ。
オレの少し緊張気味な顔を見てか、ミロシュ様がさらに少し下がってオレの肩に優しく手を回してきた。
「我がスルト軍は戦わない最強の軍であることを、証明しようではないか」
「…! はい!」
ミロシュ様の言葉は、的確にオレの緊張をほぐし、やってやるという気持ちにさせてくれた。




