第115話 願望
国際大会3日目の朝。
アカシャに優しく起こされたオレは、ベッドから出る前に、気合を入れるため両手の平で顔をバチンと叩いた。
「悪の帝王でも闇の帝王でも何にでもなってやるさ。求める結果を出すためならな。やるぞアカシャ」
「御心のままに」
身支度を終えたオレは、闘技大会の自分の出番が回ってくるまで、王城にいるミロシュ様達に合流した。
ネリーやアレクも一緒だ。
魔法が使えない王城に入るのは好きじゃないけど、今更オレ達を亡き者にしようとしてくる奴は王城にいないと信じてる。
「ジョアンから話は聞いているよ。私もジョアンの策に賛成だ。この国際大会の成果で、十分に可能な範囲になっていると思う」
ミロシュ様はそう言い、宰相も頷いた。
「セイ。ワウリンカは帰国途中に殺る。大会中は、逆に利用されてしまう可能性が高い」
「分かった。任せる」
アレクはジョアンさんやミロシュ様と相談して、そう決めたようだ。
オレはそれに頷く。
「では、主殿。ウトガルド以外の敵対国家の調略、始めましょうぞ」
ジョアンさんが大げさに礼をしながら言う。
この国際大会以前、どの敵対国家もスルトの実力を甘く見積もっていた。
しかし、大会2日目が終わったここまででスルトが全学年全種目で1位をとったことにより、今はスルトの戦力は過大なくらいに見積もられている。
国際大会の結果という情報を得たことで、大きく感情を揺さぶられている敵対国家は多いはずだ。
現にフリズスの豚王はどこよりも早くすり寄ってきたし、他にもすり寄ってきそうな国があることはアカシャから聞いた。
今なら、敵対国家を寝返らせることも難しくないというのがジョアンさんの見立て。
手段を選ばなければ手札は無数にある。
特に効果がありそうなのは、これまで捕まえたスパイ達の返還だろうな。
恨みも減るかもしれないし、やっぱり人命を大事にしておいて良かった。
帰りたくないってヤツらが結構いそうなのは、まぁ交渉次第で何とかなるだろ。
「よし。敵国のヤツらを寝返らせるぞ。スルトへの恨みを解消するのが難しそうなのは、ウトガルドと魔導王国。それ以外、全部だ。手段は選ばない」
「魔導王国は順番を最期にすれば、案外あっさり落ちるでしょう。魔導王国の王は、死を極端に恐れておりますので」
魔導王国もジョアンの件での確執で無理かと思ったけれど、ジョアンさん的にはいける算段があるようだ。
オレはそれに黙って頷く。
大戦さえ防げれば、戦争の規模さえ抑えられれば、何とかなる。
今のスルトには、それだけの力がある。
戦闘員の死者0での戦争終結。
必ずやり遂げてみせる。




