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第110話 カールの試作剣

『ご主人様!!』



 "収束雷動っ"!!



 アカシャに指摘されるのとほぼ同時。


 オレは『拳聖』の飛ぶ拳撃、"飛拳乱舞"の回避行動をとった。


 思考による一瞬の硬直。


 それはアカシャが焦った声で叫ぶ程の危険なすきだった。


 皆に避けろと言っておきながら、自分が遅れるなんてマヌケすぎる…!


 でも、『切り札』によって直接得られる情報で、この回避がギリギリで間に合っていることが伝わってきた。


 ただし間に合っていると言っても、戦闘継続に問題ないという意味に過ぎないこともこの時点で分かっていた。



「ぐっ…」



 一瞬で数十メートル後方にバックステップしたオレは、痛みに顔をしかめる。


 右足の指の一部がちぎれ、血が吹き出している。


 かすった…!


 オレは『拳聖』の状態を確認し、"空間収納"を使って超級回復薬を取り出して飲み干す。


 "痛覚遮断"も使って、足の指が再生するまでの間でも十分に動けることを確認した。


 これでオレの方は問題ない。皆は無事か?



『ご主人様、ミカエルとミニドラが重傷です。今すぐ治療すれば命に別条はありませんが、戦闘不能です』



 オレの考えを先読みしたかのようにアカシャからの報告が入る。


 くそっ…。


 ミカエルはオレとの連携や経験などの不足から、ミニドラは的が大きすぎたことが原因だろうな。


 でも、皆には十分に距離とってもらっておいて良かった。


 大丈夫だ。これなら何とかなるはず…。



『アレク。ミカエルの治療を頼む! ネリーはミニドラを!』


『分かった!』


『もうやってるわ!』



 2人は超級回復薬を持ってる。

 ネリーはミニドラと一緒にいたはずだし、アレクはミカエルの位置を『記憶』しているだろう。


 アレクは医療のスペシャリストでもある。

 アレクに任せれば大丈夫だ。



わしが1番ミカエルに近い! 儂が行く!』



『大賢者』の爺さんが取り乱し気味に念話を送ってくる。



『いや、アレクに任せてくれ。爺さんは、オレと一緒にあの人を止めて欲しい』



 オレは『拳聖』に視線を固定したまま、『大賢者』の爺さんに念話を返す。


 ちょうど、ボロボロになった『拳聖』が、右手で胸を押さえ大きくき込みながら立ち上がるところだった。


『拳聖』はあの技を使った直後、皆が放った全力の攻撃を四方八方から受けた。


 できる限り防御力の高い腕で受けようとしたようだけど、カウンター気味に食らったダメージは『拳聖』の想像を超えていたようだ。


 全身火傷や切り傷だらけで、自慢の腕すら左腕は炭化して上げることもままならないようだ。

 ミカエルの神に愛された能力『魔法強化』の力を見誤ったな。


 あいつの攻撃力は、オレ達の中で誰よりも高い。

『剛腕』と"身体強化"のコンボを、ミカエルの炎魔法は多少でも上回っていた。



「ごほっ。まさか、これほどまでのダメージを……。だが、まだだ…。まだ、勝機は、ある……!!」



 立ち上った『拳聖』の視線の先、それが問題だ。


 空中から地面に落下するまでに見たのだろう。

 彼の視線の先には、ミカエルがいた。


 ミカエルは今動けない。

 そしてすぐには動かせない。


 それがおそらく、『拳聖』の言う勝機。


『拳聖』がかなり離れたところにいるミカエルに向かって走り出す。

 足を引きずっているが、それでも常人と比べるとかなりの速度だ。



『戦えるヤツは、絶対に近づかずに『拳聖』を止めろ! ミカエルを動かせるようになるまで止めれば勝ちだ!』



 念話を送るまでも無かったかもしれない。


 即座に『大賢者』の炎、学園長の氷、ベイラの風の魔法が『拳聖』の行く手をはばむ。


 そしてオレの雷魔法も。


 だが、『拳聖』は右腕たった1本で"剛拳"と"柔拳"を使いこなして魔法を散らし、いなしながら前進する。


 止まらない。


 さすがに遅くはなったが、止められない。



『現状のペースでは辿たどり着かれます』



 アカシャからの報告。


 このままだとマズい。



「使わせてもらうぞ、カール」



 "空間収納"から、カールから預かっていた、彼が今まで打ってきた()()()試作の剣を同時に取り出す。


 100本以上の、あらゆる金属で試し打たれた剣がオレの周りに現れ、収束雷纏の電撃をびる。



「"集団転移"」



 雷で足元に大きな魔法陣を描き、周りに浮かぶ全ての剣ごと『拳聖』とミカエルの間に転移した。


 今の『拳聖』の移動速度では、絶対に避けきれない。

 情報が、それを教えてくれている。



「"収束・電磁加速機関砲(ガトリングレールガン)"!!」



『拳聖』に紫電色に染まった虹色の剣の切っ先を向け、叫ぶ。


 "限定"と"宣誓"も使って限界まで威力を高めた。

 砲弾も特製の剣だ。


 一発一発が、ボズに使った電磁加速砲レールガンとは隔絶した威力になる。


 周囲の全ての剣が『拳聖』に向かって光の軌跡を描き、うなりを上げ飛んで行く。


 そしてさらに、次の魔法の詠唱を開始した。


 だが『拳聖』は自分に向かい来る剣と、決めにかかったオレを見て笑った。



「その位置に移動したのは失敗だったな!! 私も避けられないが、君も避ければ後ろの2人が死ぬぞ!!」



『拳聖』はそう叫びながら立ち止まり、右手を引き絞った。


 "剛拳"の構え。


 先程と同じ、違和感のある。



「"剛飛拳"」



 神速の、飛ぶ正拳突き。


 それは目前までせまっていた、ほぼ全ての剣を一瞬で消し飛ばす。


 さらに、ほとんど衰えることない威力で、そのままオレ達に向かって飛んできた。



「"ゲート"。オレに前例という情報を与えたのは失敗でしたね」



 オレは詠唱しておいた空間魔法を使う。


 さっきの攻撃という前例で、こういう攻撃もあるだろうと予測はできていた。


 目の前に、半径1メートルほどの黒い穴のようなもの、"ゲート"が現れた。

 全く同じものが、『拳聖』の目の前にも。


 オレに向かって迫っていた『拳聖』の"剛飛拳"は、オレの前にある"ゲート"に飛び込み、『拳聖』の前にある"ゲート"から飛び出した。


 右腕を振り切った状態で固まっていた『拳聖』は、すでに正面以外から飛来した電磁加速砲レールガンと化した剣にその身を貫かれていた。

 しかし、それとは比べ物にならない威力の、みずからの飛ぶ剛拳を正面から受けることになる。


 神に愛された能力の特性上、ボズが攻撃力より防御力が高かったように、『拳聖』は防御力より攻撃力が高い。


 拳を合わせるような形になった彼の右腕は簡単に折れ曲がり、『拳聖』は弾けるように吹き飛んでいった。


 起きてくるなよ…。


 空間魔法は燃費が最悪なんだ。

 今のオレの魔力量ですら、これが限界なんだからな。








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