第101話 量産
国際大会開幕戦、1年生オリエンテーリングはスルトが圧勝を収めた。
それは誰が見ても文句の付けようのない、明確な実力差を感じる勝ちだった。
各国それぞれ結果に対する反応はあったけれど、特に大国達の反応は大きなものだった。
「あ、あれがセイ・ワトスンか?」
「いえ。彼はキャメロン・ティエム・スルト、前王の子です。セイ・ワトスンは4年と聞いております」
「今年の1年は優秀だと聞いていたが…」
「事実です。現に、僅差ですが2位は死守しております。しかし、スルトはあまりにも……」
フリズスの豚王、アレハンドロ・バン・フリズスは連れてきた情報系の能力者達に執拗に確認を行っていた。
焦っているように見えるかな。たぶん。
「こりゃアカンわ…。僕らはセイ・ワトスンのことを突出した突然変異の天才と思ってきたけど、違うのかもしれん」
ウトガルドのステファノス・ワウリンカは、頭を抱えていた。
「というと?」
お目付け役の将軍が、発言の真意を問う。
「セイ・ワトスンは強くなる方法っちゅう情報を持っているから、強くなった。もし、そやったとすると…」
ワウリンカは頭を抱えたまま、苦虫を噛み潰したような顔で説明を始めた。
途中、将軍は何かに気づいたような顔になった。
「まさか…!」
「セイ・ワトスンは、量産できるっちゅうことや」
言い方に語弊があるとは思うけど、正解だ。
さらに2年生、3年生とスルトが圧勝したことで、彼らの懸念はより強まっていったようだった。
そして、ついにオレ達4年生の出番がやってきた。
「まさか貴様が、私を選ぶとはな…。本当に良いのか?」
スタートラインで、もう何度も聞いたようなことを改めて聞いてきたのは、ノバクだ。
スルトの4年生の代表選手は、オレ、アレク、ネリー、ミカエル、そしてノバクだった。
「身分や付き合いによる優遇は一切行わない。純粋に国際大会で勝てる人選を行うって言っただろ? オレ達の学年で5番目は間違いなくお前だよ、ノバク」
オレは敢えて敬語を使わず、ニヤリと笑って答える。
「……っ」
ノバクは一瞬、何か言いたそうに見えたけれど、言葉にすることはなかった。
ミカエルが優しい顔で、ノバクの肩に手を乗せる。
ノバクに対して今も昔も態度が変わらないのは、ミカエルだけだ。
ノバクは王位継承権を失ってから、さすがに反省したのか割と大人しくしている。
各方面から壮絶なほどに今までの仕返しを受けているけれど、歯を食いしばって耐えているようだ。
学園長に頭を下げて、改めて鍛え直して欲しいとお願いしたらしく、そのシゴキにも耐えていると聞いている。
当たり前だけど、ノバクだから実力があっても代表に選ばないなんてことはしない。
オレ達は、当時のノバク達とは違うのだ。
「ノバク様。念のため確認しますが、役割は分かっていますよね?」
アレクがノバクに確認を取る。
たぶんこの中でアレクが1番ノバクを信用していない。
「くっ。自分の実力はわきまえている。…今はな。貴様らにちぎられずに付いて行くことだけに全力を尽くす。それすら難しいことは、恥ずかしい限りだが…」
うつむき、悔しそうに話すノバク。
へぇ、本当に反省してるっぽいな。
「大丈夫よ。全てを絞り尽くせば、ギリギリ付いてこれるくらいの速さに調整するから。セイが」
ネリーがノバクにとっては大丈夫ではなさそうなことを、全部オレのせいにした上で丸投げしてきた。
恐ろしいヤツだ。まぁ、いいけど。
『そういうわけだ。そんな感じでよろしく、アカシャ』
『お任せください。全てを絞り尽くして、最後に少し限界を超えれば付いてこれる速度に調整いたします』
ネリーからの丸投げをさらにアカシャに丸投げする。
どうやらアカシャはノバクを許してなさそうな、多少の悪意を感じる調整が行われそうだけど、まぁそれくらいならいいか。
さて、オレの役割は。
他国の度肝を抜くような魔法を使うこと。
ブチかましてやりましょうかね。
ネリーもブチかましてやりなさいって顔でこっちを見てるし。
そんなことを考えながら、スタートの合図を待つ。
「用意!」
その言葉と同時に、身体強化と思考強化をかけつつ、魔力を練りながらアカシャに指示を出す。
『範囲計算、魔力量計算の微調整。スタートと同時に放つ』
『範囲修正なし、出力1%上げてください。審判の情報送ります』
「始め!」
アカシャから送られてきた情報を元に、審判の号令の最初の1音が出るのと同時に動き出す。
走り出すのと同時に右腕を天に掲げて"限定"を行い、さらに"宣誓"も行って魔法を行使する。
「"晦冥"」
フィールド全てを飲み込む超大規模闇魔法が、発現した。




