第100話 国際大会初日
今日は国際大会初日。
各学年のオリエンテーリングが行われる。
今現在も裏で行われている、大戦に向けた調略合戦は大人達に任せ、オレは国際大会の方に参加していた。
大陸中の国の代表学校の代表選手達がスルティア学園の森の前に集まり、1学年のオリエンテーリングの開始を前に最後の作戦会議を行っている。
「セイ先輩! 見ていてくださいね! 僕達、きっと1位を取ってみせます!」
胸の前で両拳を握ってフンスと鼻息を荒くしているのは、1年のキャメロン君だ。
いや、弟のように可愛いので君付けしてしまったけれど、キャメロン殿下だ。
心の中で君付けしていると、間違って口に出してしまいそうで怖い。
「はい。キャメロン殿下。期待してますよ。でも、あまり張り切りすぎると、なんと言いますか…」
オレは苦笑い気味でキャメロン殿下に応える。
すると途中で、キャメロン殿下の姉であるエレーナ殿下が、面白そうに話を遮ってきた。
「ふふ。キャメロンは貴方のファンなのよ。張り切ってしまうのも仕方ないわ」
弟をイジるのが楽しくてしょうがないという様子のエレーナ殿下。
今年が最終7学年で、卒業後はそのままノーリー研に助手として残ることが決まっている。
王族なのに、相変わらず自由な人だ。
ま、オレとしては面白くて好感が持てるけどね。
「もう! 姉上はまた子供扱いして!」
プンプン怒るキャメロン殿下。
エレーナ殿下に話を遮られちゃったけど、まぁいいか。
確かにそっちの方が面白いかもしれないし。
オレは気を取り直して、国際大会強化委員長として作戦の最終確認を行うことにした。
「作戦は、練習した通りだ。相手への妨害は一切しない。相手からの妨害を躱しつつ、ゴールへ最速で辿り着くことだけ考える。いいな?」
「「「「「はい!!」」」」」
キャメロン殿下を含む、1学年の代表選手5人が元気のいい返事をする。
「うむ。士気は十分のようじゃな。鍛え上げた君達の力、存分に発揮してくるとよい」
学園長が満足そうに1年生達を激励した。
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「スルトを潰せ。それが最優先だ。最悪、他の大国に1位を取られるのは構わん。これは王命である」
フリズス王立学院の1学年主任が、オリエンテーリングを目前とした1年生達に重々しく告げる。
「王命、ですか。それは近く始まるだろうと言われる戦争に関係しているということでしょうか?」
王命と言われたにも関わらず、少し納得のいかない表情をした1年生のリーダーが、学年主任に質問をする。
「そうだ。これに関して他の3大国も足並みを揃えている。共闘してでもスルトを潰せ。ルール上問題はないからな」
「確かにルール上問題はありませんが…。前回の覇者でもないスルトに対して共闘など、大国としてのプライドは…!」
学年主任の言葉に悔しさを滲ませる1年生のリーダー。
彼だけでなく、他の1年生や他学年の代表選手も、悔しそうに遠くで作戦会議を行っているスルトの一団を睨みつける。
「俺とて悔しいに決まっている。だが、もう一度言う。これは王命なのだ」
「…かしこまりました。スルトなど即刻排除して、その後は正々堂々と1位を取ってみせます」
学年主任も同じように悔しいのだと感じたのか、フリズスの1年生リーダーは歯噛みしながらも作戦に同意を示した。
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学園の森の入口まで約200メートル程のスタートラインに、5人1組の各国1学年代表選手がズラリと並ぶ。
「それでは、これより国際大会1学年オリエンテーリングを始める。用意!」
審判が手を上げて号令をかけ、選手全員が一斉にサングラスをかける。
魔法解禁の合図。
選手達が一斉に魔法の準備を始めた。
キャメロン殿下を先頭にして並んでいるスルトの代表選手達も、身体強化と思考強化に加え、防御魔法の詠唱待機などを行っている。
「始め!」
審判が手を振り下ろして号令をかけた瞬間。
全選手が一斉に走り出す。
「えっ?」
誰が最初に驚きの声を上げたかはアカシャに聞かないと分からないけれど、1年生の全代表選手が程度は違えども驚きの表情をした。
スタートライン後方の関係者席にいたオレは、ニヤリと笑った。
仲間達も、学園長も、エレーナ殿下も同じように笑っている。
学園内の様々な場所に設けれれた観客席から、早くも歓声が上がる。
スルト国民の歓声だ。
開始数秒で、すでに10メートル近くスルト代表が先行している。
さらに、まるでスルト代表が森の入口に入るまでの道ができたように、彼らの両脇に防御魔法の壁が伸びていた。
「!? キャメロン、妨害魔法の着弾が遅い! 大規模魔法が飛んでくるぞ!」
「問題ない! 一瞬持たせろ、その間に走り抜ける!」
予想と違い開幕直後の妨害魔法が飛んでこなかったことに驚いているスルトの1年生達。
オリエンテーリングは選手を直接害する魔法の使用が禁じられているが、間接的に妨害することは許されている。
開幕直後に進行方向を塞がれると予想したスルトは、防御魔法でそれを防いでいる間に森まで走り抜けるという作戦を立てた。
けれど、1年生達が思っていたよりも他国の妨害が遅く、他国が大規模魔法のために魔力を練っているのだと考えたみたいだな。
でも結局、他国から大規模魔法が飛んでくることはなく。
四方からの普通の妨害魔法を防御しながら、開始十数秒後、スルトの1年生達は1番乗りで森へと消えていった。
他国の1年生達は殆ど何もできなかった状況に、足が止まりそうになるほど驚いているようだった。
唖然とした表情でそれを見送っている。
「当然、こうなる」
学園長が、だから言っただろうといった様子で頷いた。
スルトの1年生達と他では、開幕直後の認識が違ったらしい。
1〜3年生は、他国の学生の力量を見たことがないからね。
オレは指摘されるまで頭から抜けてたけど、国際大会はただの学生の競技会ではなく、各国の国力を示す場でもある。
スルトがこれで圧倒的な成績を収めたとき、スルトに付くか連合国に付くか迷っている国々は、どう考えるだろう。
学生がこれだけの力を持っているならば、軍事力はどれほどだろうか。きっとそう考える。
大人達が、そう教えてくれた。
確かにそうなる気がする。
だから、これまで以上に惜しみなく、学園生にも軍にも情報を渡して鍛え上げた。
この国際大会、スルトは他国の追随を許さず、ブッチギリで無双する。




