表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/365

第97話 オレにも分かるように教えてくれ

 4年次の国際大会が大戦の引き金になる。

 なぜこんな状況になってしまったのか。


 それは目まぐるしく変わる状況と、それに伴う人々の感情の変化が、オレ達が情報から導き出していた予想と大きく異なってしまったからだ。


 日々新しい情報を手に入れては修正。そうして常に最善の対処をしてきたはずだった。

 実際に最善に近かったと思う。エレーナ様にも確認したのだから、間違いない。


 でも、一言で言うとオレ達は大国を追い詰めすぎたんだ。

 そのせいで、雁字搦がんじがらめになった大国はいつの間にか、どの国も同じ考えにまとまっていった。




「ち、ちんは…。はっきり言ってスルトが怖い。家臣は奪われ、領土は掠め取られ…。このままでは! 他の大国に使者を送れ!! いや、スルトに敵対する可能性のある全ての国にだ!! 連合軍でスルトを潰す!」



 最初はフリズスの豚王が言い出した。


 誰が言い出すかは別として、これは予想された展開だった。

 オレ達は徹底して使者を捕まえることによって、連合軍が作られることを防いだ。


 使者の情報と、転移魔法と、契約魔法があるオレ達にとって、大国に秘密裏に連絡を取らせないようにすることは難しくなかった。

 実際、今でもスルトに敵対している国々は、お互いに連絡を取り合えていない。




「さすがにズルすぎるやろ。『俊足』持ちの使者すらられるか。転移とか瞬間移動とか、そういったたぐいの能力か魔法やな…。予想しとった中でも最悪やで。鳥とかじゃあ話にならんわけや」



 ステファノス・ワウリンカをようするウトガルドも様々な手段をもちいて他国への連絡を取ろうとしていたが、全てオレ達の手で防ぎきった。

 殺してはいないけどね。


 いつ、誰が、どこに、何を、どうやって。そういう情報を全部知っているのは、やはり圧倒的なアドバンテージだ。



「どうするのだ。もはや単独では勝ち目が薄いのだろう? が、他国との連絡を遮断されれば連合軍を組むことすらできん」


「当てが外れたわ。スルトの時間を奪っとるうちに連合軍を作って、大国の総力でスルトを潰す予定やったけど。ウチ単独でっとく? ワンチャンくらいはあるで」


「馬鹿を言うな。何かないのか? 他国と連絡を連絡を取る手段は。連絡でなくとも、合図などでどうにかならないのか?」


「合図……。あ…。あるやん。ちょうどいい合図。しかもこれ、いずれ他の国も気付くで。これしかないんやから」



 こうして、将軍と話していたワウリンカが最初に国際大会のことに気付き、ニヤニヤと笑っていた。


 これは予想外だった。

 手段を潰して追い詰めた結果、逃げ場が1つしかなくなっていて、その逃げ場が全ての国で共通していた。


 当然、そこに殺到するのは道理。




「次の国際大会だ。そこしかない。スルトが大会を開催すれば、そこを他国との連絡の場とする。スルトが大会の開催を中止すれば、兵を上げる。朕は決めたぞ! 平和の式典を中止してまで大陸支配を目論む、悪の枢軸国スルトを成敗する。他国も同じ状況なのであれば、似たような考えを持つはずだ。そこに賭ける!」



 荒く息をしながらそう語ったフリズス王と同様に、他の大国や魔導王国のようなスルトに敵対する国も、次の国際大会を戦争の引き金にすることに決め始めている。





「結局、自国の足元を固めるのが遅れているのが響いてしまったね。その分、予定より領土は広がっているけれど」



 ミロシュ様はほがらかな笑みを浮かべながら言った。

 言葉とは裏腹に、表情には残念がっている様子はない。


 領土が広がった分、足元固めに時間がかかっている。

 増えた領土は基本的に元々の為政者に任せる形を取っているけれど、全く手を入れないというわけでもない。

 どうしても統治体制を整えるのに時間がいる。人材も奪われる。



「民の犠牲を減らすためには仕方なかったわ。私は正しかったと思う」



 ネリーは迷いのない目で、はっきりと言う。


 この会議では敬語は不要と言われてるとはいえ、王にも物怖ものおじしないほどの強い意志を感じた。



「うむ。私もだ。このような状況にはなったけれど、後悔はしていない。みなでどうするかを考えたい。ジョアン、何か良い意見はあるかい?」



 ミロシュ様はネリーに同意した後、ジョアンさんに話を振った。


 最初の話は、この状況の責任を問うつもりはないってことを強調するために、あえてしたみたいだな。



「国際大会が引き金になることは間違いないでしょう。ですが、単純に開催するかしないかだけを考えれば良いわけではないことは申し上げておきたいですね」


「ふむ。というと?」



 ジョアンさんの言葉に、ミロシュ様が続きをうながす。



「例えば、開催するしないに関わらず事前にいくつかの国を潰しておくかどうか。開催しないが中止の知らせを国ごとに時差を付ける。そういうことまで考えた上で選択しなければなりません」



 ジョアンさんは全員を見回しながら話す。


 国際大会後に大戦が起こるとしたら、その前にこちらから動いて戦力を削るという手は確かに有効ではあるだろう。

 でも、その戦争を引き金にいち早く大戦が起きる可能性もある気がする。


 国際大会を中止するなら、ジョアンさんが言うように知らせは時差を付けた方がいいだろうな。

 各国で挙兵の時期がズレれば、同時に攻めることで擬似的な連合軍を作りたい各国の思惑は外れる。


 そういうことを先に話し合っておかないと、開催するかしないか決めた後に支障が出るってことか。



「そうだね。よく話し合って決めよう。でも、開催するメリットってあるかな? ハイリスクローリターンな気がするけど。中止すればローリスクハイリターンじゃない?」



 オレは疑問に思ってたことを口にした。


 第一感としてはそう思うんだよね。


 開催すれば、敵対してる国々にコミュニケーションを取られる。連合軍と戦うことになる危険が大きい。

 代わりに調略のチャンスを得られる。

 あとはたぶん、ここまで大きな戦争は起きない。


 開催を中止すれば、それを知らせた時点で戦争が始まる。

 とはいえ、知らせるタイミングをずらせば少なくともまともに連合軍を組まれることは無さそうに思える。

 こちらで重要なのは、調略はこの場合でもできるってことだ。

 敵国同士は連絡を取り合えないけれど、オレ達から連絡することはできるからね。


 でも、どうやら何人かの考えはオレと全然違ったらしい。

 その何人かは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


 何か間違ってたかな?

 変な顔してオレを凝視したメンバーの中に、ジョアンさんとか学園長とか宰相が入ってるのが気になるんだが。



せませんね…』



 ほら、アカシャさんもそう言ってる。何でだ?



「セイ。君がそれを言うのかね…?」



 学園長があきれたようにオレを見てくる。

 どういうこと?



「ワトスン君は、これを見越してやっていたのかと思っていましたよ」



 宰相が言う。だから、どういうことだってばよ。



「主殿は、意外と行き当たりばったりですからな…。よく考えた上で選択するべきと申し上げましたが、私は開催する場合でも十分勝算ありとみていますよ。主殿のおかげで」



 ジョアンさんが、やれやれと言った様子で話す。

 オレのおかげ?

 そんな情報あった?


 アカシャを見ても、静かに首を振っている。

 意味分からん。



「セイ。ワシが保障しよう。君が育てた学園生達は、他国の心を折るのにる、圧倒的軍事力を見せつけることが出来ると」



 学園長はオレに向かって、少し興奮気味に語った。


 え? 待ってくれ。オレは学生を戦争に動員するつもりはないんだが。


 そう思ってネリーとアレクを見ると、オレの考えをよく知る2人も、そうだよねって顔でアイコンタクトをしてきた。


 でも一瞬間を置いて、アレクが何かに気付いた顔をした。


 すまん、オレにも分かるように教えてくれ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ