表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
258/365

第92話 タイミング

 タイミングというものは、かなりの場面で重要な要素だと思っている。


 そして、ちょうど良いタイミングを見計らうのもまた、情報を持っている者ほど有利になるのだと思うのだ。


 そう、例えばこんな場面で。





『ご主人様。フリズス軍リバキナ方面総大将が更迭こうてつされました。フリズスの王と軍部にかなりの不満がある模様です』



 アカシャから報告が入る。


 富国政策を始めてから、3つ目のスラムの解体に取り掛かっている途中のことだった。


 先日フリズス軍が2度目のリバキナへの出兵を行い、前回とほぼ同じ展開で撤退していったからな。

 その責任を取らされたのだろう。


 仕掛けるなら今だな。



「ベイラ、シェルビー、セレナ。ちょっと用事ができたから、ここは任せてもいいか? リーダーはセレナに頼みたい」



 崩壊したスラムを牛耳ぎゅうじる組織のアジトの残骸ざんがいの上で、近くにいる3人に向かってお願いをする。



「なんでリーダーがあたちじゃないのかちら?」



 うつ伏せに重なって倒れている3人の貴族の上にあぐらをかいて座っていたベイラが、オレに疑問を投げかけてくる。


 なぜこの状態でその疑問が出てくるのか、むしろこっちが聞きたいよ…。



「お任せくださいッス!」



 シェルビーが元気に答える。


 その周りには、完全に心を折られて膝をつく、死んだ目のチンピラ達がいた。

 彼らの手にはそれぞれ破壊された武器が握られていて、近くにも打ち捨てられた壊れた武器がたくさん転がっている。


 彼らが何をやっても、シェルビーには傷1つ付けることができなかったのだ。



「戦力的には十分ですけれど…。後処理はセイ先輩がいないと少し不安ですわ」



 あちこちにある、人の鼻と口だけが出ている岩の塊に目を向けることもなく、ほおに手をやって考えるセレナ。


 唯一不安を口にした彼女だが、この中で最も堅実で抜かりない人物だと思う。

 彼女なら、上手くやってくれることだろう。



「そんなに長い間離れるわけではないし、必要と思ったらベイラに情報流すから大丈夫だよ。セレナならやれるって」



 笑顔でセレナをはげます。

 てか、セレナなら同じだけ情報を持っていれば、オレより上手くやれると思う。



「先輩がそう言うのであれば、やってみますわ」



 セレナは胸の前で握りこぶしを作って、むんと気合を入れた。


 その様子を見て、オレは笑顔でうなずく。



「じゃあ、用事終わったら戻ってくるから。よろしくー」



 3人に軽く挨拶あいさつをして、オレは転移魔法を発動した。




 転移して降り立ったのは、スルティア学園の、臨時で作られたスルト王の執務室…としてしまった学園長室。



「おお、セイ。突然どうしたんじゃ。ワシらの誰かに用事でもできたのかね?」



 いち早く反応した学園長が、オレが口を開く前に話しかけてくる。



「ええ。学園長先生。王にお話があって参りました」



 オレは笑顔で学園長に答える。



「なんじゃ。ミロシュに用事か…」



 ソファーに寝そべって読んでいた建築関係の本から目を離していたスルティアが、期待して損したという顔で、再び本を読み始める。


 ミロシュ様と学園長とスルティアで取り組んでいる学校を増やす計画は、主に人材と土地の確保、宣伝、学校の建築が仕事となる。


 できるだけ短期間での実現を目指しているので、学校の建築はスルティアの能力でやってしまうことになった。


 ただ、いくらスルティアでも、作る学校の数だけダンジョンを作ることはできない。

 だから、土地をダンジョン化して支配者権限で校舎を作り、その後ダンジョン化を解除するという方法をとる。


 物理的なものはダンジョン化を解除しても残るという特性を利用することにしたのだ。


 ここで問題になってくるのは、ダンジョン化を解除しても校舎の強度が維持されていなければならないということ。

 ダンジョン化を解除したら校舎が倒壊しましたでは話にならない。


 ダンジョン化中はスルティアのイメージで形が維持されるが、ダンジョン化を解除すれば物理的な法則に従うことになる。


 というわけで、スルティアは物理的に成り立つ建築物を作るために勉強中なのだ。

 どうやら少し、きてきているみたいだけど。


 まぁ、最悪スルティアが欠陥けっかんのある建物を作ってしまってもアカシャが教えてくれるから何とかなる。



「それで、私に何の話があるのかな?」



 ミロシュ様の言葉で、ちょっと別の所にいっていた意識が引き戻される。


 そうだ。ここに来た理由は学校を作ることとは関係なかった。



「フリズスから優秀な人材を引き抜く予定です。ご報告と、与えられるポストなどのご相談をしたく、参上いたしました」



 オレと王であるミロシュ様では、与えられるポストがまるで変わってくる。

 それに、もしミロシュ様が直接引き抜きに出向けば、説得力もまるで違うのだ。



「またか。本当に恐ろしいな、君は。味方で良かったと心から思うよ」



 ミロシュ様が苦笑いでオレに応じる。


 そう。引き抜きはあらゆる国から日常的に行っている。


 優秀な人物が"もう嫌だこんな仕事。転職したい"と言えば、アカシャがオレに報告をして、引き抜きに行く。


 相手の情報を持っていて、タイミングも合っているから、ほぼ成功する。

 周囲の者ごと引き抜く力があるのも、成功率の高さの要因だろう。



 こうしてスルトはさらに力を付けていくのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ