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第91話 情けは人の為ならず

 チンピラ達はシェルビーとセレナに蹂躙じゅうりんされ、全員捕縛された。

 途中、チンピラ達はトミー君の存在に気付いてトミー君の姉ちゃんを人質にしようとしたりもしたけれど、結局それすらさせてもらえないまま蹴散けちらされたのだった。



「姉ちゃん! 姉ちゃん!!」


「ああ、トミー!」



 トミー君とお姉さんの感動の再会を横目で眺めつつ、オレは拘束魔法をかけたチンピラ達に念動魔法をかけ、強制的に一箇所に集めていく。

 魔力が少ない人間にはこういう魔法が効くから、楽で助かるね。



「ば、化物バケモンどもがよ…。てめぇら、誰にケンカ売ってるか分かってんのか?」



 チンピラのリーダーが、シェルビーにビンタされてスゲーれた顔ですごむ。

 はい、出ました。チンピラあるある。虎の威を借る狐作戦。


 死なないように思いっきり手加減されたビンタで信じられないほど吹き飛んでたヤツが言っても、頭に入ってこないんだよなぁ…。



「分かってる分かってる。侯爵様さ、何を思ったのか100人近い兵隊を集めようとしてるよ。イカれてるよね。戦争でもするつもりなのかな?」



 強制的に正座させているチンピラリーダーに向かって、ため息をつきながらオレは言った。


 どうやら、こいつらのボスの貴族は報告を受けて、他の貴族に縄張りを狙われていると考えたらしい。


 間違ってはいないけれど、貴族の子供がスラムの住人を引き連れてアジトを襲撃しようとしているって報告で集めるにしては過剰な戦力ではないだろうか。


 それとも、侯爵にはそれ以上の思惑があるのか?



「くっくっく。どこの貴族かは知らねぇが、てめぇらはもう終わりだな。この首から下が動かねぇのを何とかして、いつくばって謝るならボスに口を利いてやってもいいぞ」



 チンピラリーダーはボスの情報を得たことで強気になったようだ。



『救いようがありませんね』



 アカシャが絶対零度の声色と眼差まなざしでチンピラリーダーをこきおろす。

 前に比べると、ずいぶん感情豊かになったねぇ。



「ヴィーグの精鋭100人ならともかく、侯爵の手勢を100人集めたところで、たかが知れてるの」


「さすがベイラさんッス!」


「すごいですわ!」



 ベイラはチンピラリーダーをバカにするような目で語り、シェルビーとセレナに尊敬の目で見られて得意げだ。



「へ? お、おい! ボスはてめぇらが子供でも容赦しねぇ人だぞ! 謝るなら今のうち…」


「オレ達はね。むしろボスが来るの待ってるんだよ。悪いようにはしないから黙っててくれる? あ、でも、これから炊き出しするから、手伝ってくれるなら拘束解除してあげる」



 オレはチンピラリーダーの不毛ふもうな言葉をさえぎって言葉を重ねる。


 待ち時間の間に、スラムの人達に約束していた炊き出しを前倒しでやることにしたのだ。


 どうせやる予定だったのだからというアカシャの提案を採用した。



「な、なんなんだよ。てめぇらはよぉ…。いったい何が目的だ?」



 思いのほかいい質問が来たので、答えてあげることにした。



「スラムをぶっ壊して、()()()()()()するために来た」



 オレは思いっきりニカッと笑って、皆に聞こえるようにそう言った。







 ……どうしてこうなった?


 いや、情報は集めたから経緯は理解した。


 でも、ベイラがボス侯爵の手勢をボコって、頃合いを見てオレがスルトとヴィーグの紋章を見せつけることで権威にひれ伏してもらうという作戦は、完全に破綻はたんした。


 なぜなら、侯爵の手勢が、戦うこともなくひれ伏したからである。


 侯爵以下100人近い手勢がひれ伏して震える様を見ながら、オレは少し前のことを思い出す。




 炊き出しを始めて30分くらいが経った時だった。


 スラムと町との境界付近にあるチンピラ達のアジトに、町側から侯爵の手勢が攻めて来た、はずだった。


 そう、ここまでは間違いなく、侯爵は攻める気でやってきていたのだ。


 しかし。



『ご主人様。ご主人様とベイラに気付いた者達がおります』



 アカシャからこんな念話が入った辺りから、侯爵達は急激に態度を変えた。


 オレは事前に情報を集めた際、ボスである侯爵が何をどうしたとしてもオレ達の敗北はないと分かった時点で、侯爵達に関するそれ以上の情報収集を止めた。


 だから、侯爵達の中にオレとベイラのことを知っている者がいることを知らなかった。


 少し考えれば、アカシャからの情報がなくても気づくようなことだったけれど…。


 ヴィーグとスルトは半年ほど前に戦争した。

 その時のヴィーグ軍16000人の中に、今回やって来た侯爵達が1人も参加していないなどあるはずもなく。


 むしろ、やって来た者達の大半は、オレとベイラを含むスルト軍に氷漬けにされた経験があったのだ。


 そんな彼らが、オレとシェルビーとセレナが着るスルティア学園の制服を見て反応するのは当然で、オレとベイラの姿を確認して恐怖するのも当然だった。




 こうして、オレ達は戦うこともなくヴィーグスラムの完全制圧に成功した。



「あ、あたちの出番が、全くなかったの…」



 ベイラはこう言って肩を落としていたが、スラムは他の旧王都にも存在する。


 そこでは、今度こそベイラの出番がやってくるに違いない。



 ヴィーグスラムの住人には、全員に仕事を与えた。


 ネリーとミカエルが担当しているごみ処理施設へごみを運ぶ、ごみ収集業。

 シェルビーの商会にやってもらう運送業。

 セレナの商会にやってもらう建設業。

 国の主導でやる郵便事業。


 主にこれらの新しい事業に人を振り分けた。

 どの大都市でも確保する必要がある人材なので、大都市にあるスラムの住人は都合が良いのだ。


 スルトがこれから豊かになっていくに当たって、今まででは考えられないような仕事がどんどん出てくる。


 シェルビーやセレナにお願いしていることも、一見今までもあるように見えて、ない。


 シェルビーの運送業は、今までは商会ごとに仕入れ・運送・販売全てやっていたのを、色んな商会の運送部分のみをまとめて代行するという商売だ。

 商会ごとに運送に飛空艇を使うなどということは不可能だけど、運送業なら規模が大きくなれば十分可能となる。

 圧倒的な効率と安全性によって大幅なコストダウンが見込め、流通の革命が起こるだろう。


 セレナの建設業は、今まで国が人を集め行っていたような大規模な建設を、受注して請け負う商売だ。

 いちいち人を集める必要がなくなるし、毎回素人の寄せ集めになるということもなくなる。

 魔法を限定的に教えることも、専用の魔導具を卸すこともやりやすくなり、革命的なスピードで公共事業が進むことになるだろう。


 いずれにせよ今までとは規模が全く違う商売であり、多くの人が必要なのだった。


 もちろん莫大ばくだいな金も必要なんだけど、ここが使いどき。

 破産しない程度に、いくらでも出すことにした。


 まぁ、豊かになって領主達の税収が増えれば、その分オレに入ってくる金も増えるからね。


 こういう金の使い方ならば、金持ちはいくら金を使っても、さらに金持ちになるだけなのだ。


 アカシャがコントロールしてるから、失敗することもまずない。


 "情は人の為ならず"って感じになっちまうね、これは。




 ヴィーグスラムの解体を終え、基礎を整えたオレ達は、次のスラムの解体に向かうのだった。







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