第86話 1度立ち止まる
スルティア学園の入学試験の筆記試験会場でもある、劇場のようなすり鉢状の大教室。
全校生徒が座っても多少の余裕があるはずの座席は、現在ぎゅうぎゅうに詰めて座るしかない状況だった。
それどころか、立ち見の者すらかなりの数がいる。
月曜日の放課後である今日は、『国際大会強化委員会』の活動日だ。
発足から約2年が経ち、その成果が広く認められたことで、今では学園の卒業生ですら時間が許せば参加するほどの人気を誇っている。
どれほどの成果が出ているか確かめるとして行われた騎士団との親善試合で、オレ達を除いた強化指定選手でさえ騎士団の中堅レベルと同等と言えるまで成長していたと分かったことが大きい。
問い合わせも多く来ていて、学園外での講義を望む声も多いと学園長が言っていた。
オレ達が関わらない分には好きにしてくれと言ってある。
ここで手に入れた情報を他に漏らすなと言うつもりもない。
他国に漏れそうになれば、止めるけれど。
本気で大陸統一をすると決めてからは、スケジュールをギリギリで組んでいる。不測の事態も多い。
自分達で講義すべき場所とタイミングを決めてやるならともかく、望まれたからやるってことはない。
この講義ですら、オレ達抜きの委員会メンバーに任せることもそれなりに多い。
役に立つ情報の公開だけなら、オレ達でなくともできるのだ。
とはいえ、やはりオレ達がこの委員会活動に出る意味はあるのだった。
「セイ・ワトスン。今日の講義も素晴らしかった。以前から相談していたことだが、領主である父上の許可が取れた。うちの領のコンサルティングを頼みたい」
「分かりました。お任せください。正式な契約はミロシュ様を通してお願いします」
講義と質疑応答が終わった後、オレの元へやってきた6年生の先輩とがっしりと握手を交わしながら話をする。
先王と交わした約束は、現王であるミロシュ様に変わってからも生きている。
コンサルティングを始めてからまだ丸2年は経っていないけれど、収穫の時期は2回あった。
コンサルティングを受けている領地の収益の伸びは、もはや誰の目から見ても明らかになっていた。
特に、先王陣営からの圧力があったにも関わらず初期のころからコンサルティングを受けている領地の繁栄は凄まじい。
資源の開発に成功してるところもあるしね。
ただ、コンサルティング料は前年の収益を基準点として改善分の1割と、かなり高い。しかも基準点を超える限り永続だ。
周りの成功を見ていても、ためらう領主は多い。
契約から5年か10年くらいしたら契約破棄可能ってことにしようかな。
あんまり依頼が増えすぎても面倒だから、今はやらないけど。
先輩との話を終えた後にも、ひっきりなしに人がやってくる。
というか、並んで順番待ちになっている。
アレクやネリーの元にも、多くの人が集まっていた。
そう、これがオレ達が委員会に出る意味。
委員会は、社交の場にもなっているのだ。
オレ達はあんまりパーティーなんかは出ない。
3人共、境遇的にパーティーとは無縁の生活を送ってきたから、今更貴族風のパーティーに出て社交ってのも肌に合わないのだ。
別に社交はパーティーじゃなくてもいいだろってのがオレ達の考え。
基本的には、何かのついでにやっている。
だからか、オレ達が参加することを周知しているイベントは人の集まりがいい。
今やオレ達と仲良くなっておいた方が良いと考える貴族はかなり多いようだ。
スルトは順調だ。
周辺の小国や、リバキナをはじめとしたいくつかの遠方の小国を戦争なしで恭順させ、領土として手に入れていた。
一方、スルトに対抗すべく領土の拡大を図った大国は、フリズスのようにスルトに邪魔をされて、思ったようには領土を広げられないでいる。
全部は防げていないから、ある程度は広がってるけれど。
しかし、リバキナを手に入れてから半年。よく相談した上で、オレ達はここで1度少し立ち止まる選択をした。
あまりにも急激に領土を増やしたため、歪みが生まれそうだったからだ。
領土を増やした割には力が増えていない。今はそういう状態だと判断した。
だから今後のことを考え、しばらくは内政に目を向けることにした。
勝つために、あえて1度立ち止まる。時にはそういうことも大事なのだろう。
立ち止まるというより、力を溜める感じか。
現在の領土を富ませ、スルトはさらなる力を付ける。
特に新たにスルトの領土となった土地の経済の安定と向上は、スルトがさらなる力を付けるために必須だった。
その間に自ら恭順を示すような国があれば拒まないけれど、方針としてはそう決まった。
戦争をしないとしても、リバキナの時みたいに軍を動かすだけでも凄まじい金がかかるからな。
転移があるから、他の国ほどはかからないんだけど。
移動日数の分の兵糧が節約できるのは大きい。
何度かリバキナに攻めて来たフリズスが最終的に諦めた理由もここだった。
フリズスにとって、遠方のはずのスルトが先に音を上げなかったことは誤算だったようだ。
フリズスはこの結果をもって、スルトの移動は転移や瞬間移動のたぐいであると結論付けていた。
強国であるための条件は、経済力があることだとジョアンさんも言っていた。
大陸を統一するには、金はあればあるほどいいだろう。
そして、金を稼ぐことや国を豊かにすることは、オレとアカシャにとって、戦争や戦闘よりもよほど得意なことだった。




