第83話 希望に縋る
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大陸有数の大国フリズス王国の王城、豪華絢爛と言える玉座の間。
その中でも一際目につく装飾のなされた玉座の上で、書状を持って手を震わせている男がいた。
フリズス国王、アレハンドロ・バン・フリズスだ。
でっぷりした腹、垂れた頬肉、肉が付きすぎて短く見える手足。
影で豚と呼ばれるだけはある見た目の男である。
「リバキナ女王め! 朕との結婚を断わると! しかも、スルトに恭順!? そうはさせないための先手ではなかったのか!」
男にしては高い声で、少し息を切らしながら喚き散らすフリズス国王。
彼に献策をした大臣に、書状を投げつけている。
「も、申し訳ありません! しかし、これはスルトの戴冠式後に至急打った一手。よもや先を越されるとは…。いや、距離的にも時系列的にも、有り得ないはずなのです…」
大臣が地面に頭を擦り付けながら謝る。
でも、きっちり言い訳することも忘れていないようだ。
事実と感想を言っただけかもしれないけれど。
「やかましいっ! 直ちに、リバキナを攻めよ! この朕をコケにしたこと、後悔させてくれる!」
フリズス王が怒りに身を任せるように命令を出した。
「はっ。しかし、リバキナのスルトへの恭順が事実ならば、相手はスルトということになります。用意していた戦力で攻めるというのは…」
軍務大臣が王に意見する。
フリズスが、リバキナが結婚を断ってきた場合に用意していた戦力は3万。
リバキナならば圧倒できる兵の数だったが、スルトが相手ならば話が変わってくるということだろう。
それを聞いたフリズス王は、ブフーッとため息と思われるものをついた。
「貴様は、バカか? 朕は相手がスルトだから、直ちに攻めよと言った。スルトとリバキナの距離がどれだけあると思っている。リバキナの恭順だけでも有り得んが、間にある国が全部スルトに降っていることは、より有り得ぬ。間違いなく飛び地。スルトの救援は間に合わぬ」
軍務大臣を見下したような笑みを浮かべて、早口で捲し立てるフリズス王。
「スルトには飛空艇がございます。あれを使えば1日でリバキナまで兵を輸送することも可能…」
「数万の兵をか? 朕の見立てでは、あれはどう多く見積もっても200ほどしか乗せられぬ。十分な兵力が集まる前にカタをつければ良い」
軍務大臣のさらなる意見に、被せるようにフリズス王は述べる。
フリズスは最初からリバキナを攻める予定で、ある程度リバキナに近い町で兵を集めていた。
急げば3、4日でリバキナを攻められるはずだ。
4万5万という兵を集めている間にスルトに兵を集められるくらいなら、今集まっている3万でスルトが救援に来る前にリバキナを取る、ということだろう。
「…はっ。すぐに攻めかかるよう、指示を出します」
フリズス王は、言い出したら意見を変えることはまずない。
だからか、軍務大臣はこれ以上の追求は止めたようだった。
「スルトが脅威であることは朕も認めている! しかし情報が足りなすぎる! 他に有効な手立てがあると言うなら申せ! 手をこまねくこと以外でだ!」
フリズス王の甲高い声は、怒りと焦りが混じっているような気がした。
すぐに応える者は誰もいなかったが、やがてポツリポツリと意見が出始める。
だがそれは、ここ最近ずっと行われているスルトについての推測発表会の域を出ない。
情報が足りないから、推測の精度が低い。
推測の精度が低いから、意見がまとまらない。
建設的で具体的な案が出ない。
だからフリズスは、こうだったらいいなという希望に縋るしかない。




