第76話 米の再現
オレはドラゴン退治から帰るや否や、世界樹の婆さんが試作してくれた稲から穂を収穫し、魔法を発動させる。
乾燥やら脱穀やらを魔法の力で行うことで、今すぐに白米を手に入れるためだ。
「こ、ここまでやる…?」
「セイがこれほど必至になってるのは初めて見るかもね」
魔法によって空中で稲穂から白米が作られていく流れ作業を見て、ネリーとアレクが引き気味の声を上げる。
「好きに言うがいいさ。今は一刻も早く米が食いたいんだ」
だがオレは怯まなかった。
今まで仲間達にも、家族にも、米が食いてえと弱音を吐いたことはなかったけれど、我慢してなかったわけでもない。
ないならともかく、米があるならすぐにでも食いたいくらいには、オレはパン食に飽きていた。
「ふうん。そこまでウマい食べ物なら、あたちにも寄越すの」
「うむ。ワシにもな」
ベイラとスルティアは米を食ってみたくなったらしい。
任せろ。当然、独り占めするつもりはない。
いずれは、少なくともパン食と米食を半々にするくらいには、米の魅力を分からせてやるつもりだ。
その最初の一歩である今日、しくじるわけにはいかないぜ。
「お、おい…。あまり期待しすぎるんじゃないよ。アタシは試作だって、ちゃんと言ったからね」
世界樹の婆さんよ、それは無理な話だぜ。
11年ぶりの米だ。期待に胸が高鳴りまくってるよ。
そして、ついに米が炊きあがった。
この時のために作っておいた釜の蓋を開けると、湯気が立ち上る。
『ご主人様の記憶から分析した結果と一致します。やはり、米に対する水分量はあれで良かったかと』
『ああ。完璧な炊きあがりだ』
米粒が立ち上がっている…!
オレはごくりと喉を鳴らしながら、アカシャの念話に答えた。
ぶっちゃけオレは、炊飯器以外での米の炊き方なんて覚えてなかった。
そして炊飯器では、書かれていたメモリまで水を入れていただけ。
つまり、オレは米に対する正しい水の分量なんて知らなかったのだ。
だが、オレにはアカシャがいる。
アカシャがオレの記憶から、炊飯器に入れた水の分量や、小学校の林間学校でやった飯盒炊爨での水の分量を分析して教えてくれた。
火加減や炊く時間もだ。
やはり、持つべきものはアカシャだな。
危うく久しぶりの米をダメにするとこだったぜ。
オレはドキドキしながら、やはりこの時のために作っておいたしゃもじを空間収納から取り出し、同時に出した器にご飯をよそう。
「器用だねぇ」
箸の上に乗ったご飯を見つめて感動しているオレを見て、妖精女王が感想をもらす。
もうそれに反応する余裕もなく、オレは目を閉じた。
「いただきます…」
オレはこの世の全てに感謝して、ご飯を頬張った。
そして、崩れ落ちた。
コレジャナイ……
これじゃないよ!!!
見た目と食感は完璧に米だった。
でも、肝心の味が違う!
なんかこう、米とジャガイモの中間みたいな味…。
よく考えると、炊きあがった時の匂いも、記憶と少し違った気がする。
「うーん…。あんまりウマくないの…」
気付けばベイラも米もどきを食っていて、感想を言っている。
「パンと同じで、それ単体ではそこまでの味ではないのではないかの?」
スルティアも首をかしげながら、感想を言った。
それはそうかもしれないけど、コレは違うんだ…!
『違ったようですね…』
『…うん』
少し心配そうなアカシャに、違ったことを伝える。
何がどう違ったか、オレの語彙力で、できる限りの情報を…。
『嗅覚情報と味覚情報は確認しました。違うということも情報です。ここから近づけていきましょう』
『そう。そうだよな! てか、むしろ初めてにしてはスゲー近かった気がする!』
オレはアカシャの言葉で立ち直り、少しだけ冷静さも取り戻した。
この世界にない植物を作ろうとしてるんだ。
一発でできる方がおかしいだろう。
『地球でのご主人様の脳の情報や、稲の組成情報、遺伝子情報が分かれば良かったのですが…』
地球の情報についてはオレの記憶からしか知ることができないアカシャは、それさえ分かれば簡単だったのにと言いたげだ。
オレは苦笑いで、そうだねと念話を返した。
でもねアカシャさん。それを知ってる地球人って、もしかしたら存在しないかもしれないよ…。
「で、どうするの? せっかくだから、どこまでも付き合ってやるわよ?」
ネリーが仕方無さそうに、でも笑って声をかけてくれる。
その後ろでは、アレクがニコニコと天使の笑顔で頷いている。
「滞在日数を、少し伸ばしたい…」
ばつが悪いと思いながら、ボソリと呟く。
基本的にいつも我儘を言ってるのに、それをさらに重ねることは言いづらかった。
「ったく。付き合ってやるって言ってるでしょ! シャキッとしなさいよ! せっかくだから、滞在中の家でも建てちゃう?」
「いいね。僕やネリーの複合魔法の練習台にしよう。文句は言わせないよ」
「ウマいもん食わせるって約束するの!」
「ワシは何でも楽しいぞ」
「ガガッ」
皆が冗談交じりに賛成してくれる。
もう、マジでこいつら、大好きだ。
「私ももう少し滞在したいな。1度報告にだけ戻りたいが。いいだろう?」
「ああ! お安い御用だ!」
妖精女王の言葉に、笑顔で答える。
「くっくっく。いいだろう。アタシもできるまで付き合ってやるよ。振り回されるのなんて何千年ぶりかね。たまにはそういうのも面白いもんだよ」
世界樹の婆さんも最後まで協力してくれるらしい。
ありがたい限りだ。
その後2日間かけて、ついにオレが納得する米が完成した。
オレは涙を流すほど感動したけど、皆の反応は微妙だった。
米単体では感動するほど美味くはなかったらしい。
予想し得た反応ではあったけれど、やはりオレとしては悔しかった。
悔しかったので、世界樹の庭の生き残りドラゴン達に卵を分けてもらいにいって、先日狩ったドラゴンの肉を使って親子丼を作り、皆に食わせた。
鶏肉の上位互換と言っていい味がするドラゴン肉の親子丼は超絶美味く、とたんに皆の米への評価が激増した。
米の部分をパンにしてもこうはならないと大評判だった。
大勝利である。
小麦と大豆はあったから、醤油は前にアカシャと苦労して再現してたんだよね。
米を手に入れたことで、これの出番もさらに増えるってもんだ。
米も醤油も、一度再現してしまえばアカシャの力で何度だって作ることができる。
ただ、常に自分で作るのは面倒だ。
面倒なく安定して手に入れるためには、情報を渡して生産者を育てるのが良さそうだな。




