第68話 妖精との交流
「まったく…。酷い目にあったの…。相変わらず、妖精女王は短気でいけないの」
妖精女王の火魔法を受けて髪や服を多少焦がしたベイラが、
爆炎の中から愚痴を言いながら出てきた。
さすがのベイラも多少反省しているのか、あえて完璧には防がなかったらしい。
代わりに爆炎の余波は完璧にコントロールしたようで、ベイラのすぐ近くにいたオレ達にすら、暖かい風が届いた程度だった。
ただし、やはりベイラはベイラ。
余計な一言はいつも通りだった。
「へぇ…。かなり腕をあげたじゃないか。お仕置きになってないみたいだから、もう1発いっとくかい?」
額に青筋を立てた妖精女王が再び右腕を振り上げ、先程より5割ほど威力を高めた火球を作り始めた。
「ちょ、それはさすがに洒落になってないの! あたちがせっかく反省してわざと食らってやったのに、そっちがその気なら、やってやるの!」
「あぁ!? かかってこい!」
逆ギレして"水纏"を使ったベイラが、妖精女王に向かって突っ込んでいった。
妖精女王も、火球をベイラに放ちつつ"炎纏"を使って迎え撃つ。
ベイラが戦闘狂なのって、絶対あの人の影響だろ…。
もう放っておこう…。
「空でやれよー。下に被害出すなよー」
「分かってるの!」
「おうよ!」
オレが投げやりに言うと、ベイラと妖精女王から威勢のいい返事が返ってきた。
"おうよ"じゃないだろ妖精女王…。
まぁ、戦い始めた時点で2人とも周囲への影響を考えながらやってるようなので、そこの心配はあまりしてないんだけど。
げんなりしたオレ達は、同じようにげんなりしている妖精達と、色々と見て見ぬふりをしながら正式に挨拶を交わす。
「初めまして。突然の来訪をお許しください。私はスルト国のアレクサンダー・ズベレフと申します」
アレクの丁寧な挨拶に続いて、オレ達も挨拶をする。
「兵士長のフベルトと申します。本来アールヴヘイムは人間との交流を絶っているのですが、ベイラが連れて来た方々であれば、受け入れましょう。妖精女王もあの調子ですので…」
妖精達も普通に挨拶を返してくれる。
妖精が戦闘民族ではないと証明された瞬間だった。
いや、知ってたけども。
万が一、内なる戦闘民族としての本能が…、なんてこともあるかなと一応の警戒をしていただけで。
さすがにないよね。
人間は嫌いだったという、兵士長を始めとしたその場の妖精達と、オレ達は不思議と意気投合した。
誰と誰のおかげ(せい)であるかは言うまでもない。
『共感。友好を深める手段として、非常に有効であると認識いたしました』
アカシャが真面目な声で、1つ勉強になったと報告してくる。
アカシャは真面目だから、友好と有効をかけたジョークではないだろう。きっと本気だ。
「いいのう、いいのう。楽しそうじゃのう」
「スルティア、あれは真似しちゃダメよ」
スルティアは上空で繰り広げられるベイラと妖精女王の戦いを羨ましそうに見ていた。
長いぼっち生活で少しこじらせてしまっているスルティアは、未だに河原で殴り合えば友達という思考らしい。
ネリーが意見してくれたからオレは聞かなかったことにしたけど、少なくとも今は止めてね。マジで。
せっかく仲良くなれそうなのに、出禁になっちゃうから。
その後、オレ達は上空を極力無視しながら、兵士長フベルトに妖精郷アールヴヘイムを案内してもらった。
途中、兵士長が、上空の戦いを観測した人間達がここにやってこないかを心配していた。
念のため最初から外には見えないように魔法で偽装してあると伝えると、メチャクチャ感謝された。
上空の戦いが終わる気配が見えないからか、アールヴヘイムの宰相も合流し、会食をしつつ内々に小規模な貿易をすることが決まった。
スルトからはミスリルやアクエリアスを始めとした、この森の中ではこれ以上手に入らないような資源を。
アールヴヘイムからは農作物や工芸品を。
森の中で完結した暮らしをしているアールヴヘイムが何を欲しているかは知っていたので、交渉はスムーズに行われた。
女王がいない中で、いいのかアールヴヘイムと思ったけれど、内々に決めておいて決裁だけ女王がすればいいらしい。
そもそも交流なんて数百年やってないからノウハウなんてないようなものだけど、上手く回ればそれでいいと宰相は笑っていた。
兵士長だけでなく、宰相も苦労しているようだった。
上空を見て見ぬふりしながら、終始和やかに行われた交流だった。
ベイラが特大のドヤ顔をしながら、見せびらかすように世界樹の杖を取り出すまでは。




