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第58話 処遇

 ミロシュ殿下はディエゴ・モンフィスを裁くわけにはいかないと言った。


 ディエゴ・モンフィスの生体情報バイタルに、わずかに高揚や安堵が見られる。

 さっきからそうだけど、この人は感情の変化がすごく少ない。


 普段から感情をコントロールしている訓練をしているとはいえ、ここまで抑えられるものなのか。



「ふ。さすが、懸命なご判断です。私を裁くとすれば、明確な説明がなければ周囲が納得しない。そしてそれは不可能です。なぜなら、私と違い、はっきりと争いを起こそうとして王に発言をしたものなどいくらでもいるのですからね」



 ディエゴ・モンフィスが饒舌じょうぜつに語ったことは、オレにはいまいちよく分からなかった。

 ようは、どんな罪であるかを示せないってことか?


 確かに貴族主義のヤツらの中には、はっきりとミロシュ殿下やオレを排除すべきと王に働きかけていた者もいる。

 逆に、宰相のように絶対に敵対するなと言っていた者達も。


 結局は、全部王が考えて判断したことであるから、意見した者の罪は問えないだろうってことかな。知らんけど。



「まぁ。大体そういうところだね」



 ミロシュ殿下が明言を避けたから、結局どういうことかは分からなかった。


 けど、問題はそこじゃない。



「でも、何十年にも渡って、貴方が故意にスルトをかき乱していたことは事実ですよね? しかも、先程また同じことをしようとしていた」



 オレは最も重要なことを指摘した。

 問題は、今度はミロシュ殿下に対して誘導をしようとしている様子があったことだ。



「何のことだ? 私は、君がいればミロシュ殿下の治世は盤石だろうと感想を述べたのだ」


「嘘は、言っておりません…」



 ディエゴ・モンフィスの言葉を、心底気持ち悪そうに真偽判定官が肯定する。


 その感想は嘘ではない、というだけなのだろうね。



「その感想をミロシュ殿下に言うことで、ミロシュ殿下の心にさざ波が立てば面白いと思ったのではないですか?」


「自身の家が有利になるために、主の思考を誘導することなど誰でも行っていることだ。貴族主義しかり、実力主義しかり。貴殿も行っているのではないか?」



 ジョアンさんとディエゴ・モンフィスの話を聞いていると、嘘発見器って必ずイエスかノーかで答えなきゃいけないんだなという感想が浮かんでくる。


 口が上手いヤツなら、何とでも言えるんだな…。


 確かにジョアンさんは、大陸統一の夢を叶えるためにオレの思考を誘導してるかもしれない。



『ディエゴ・モンフィス。恐ろしい男です…。ここに来て、ご主人様とジョアンに亀裂を入れようとしてくるとは』



 オレの感情にだけは敏感なアカシャが、ディエゴ・モンフィスにまんまと誘導されているオレを見て、いつになく感情のこもった声を上げた。



『何となく分かっていることでも、こいつに言われると感情が泡立つ。それが狙いなんだろうけど』



 ジョアンさんには大陸統一を統一するという夢がある。

 それを実現するためにオレを動かそうとすることは当然だ。


 ジョアンさんがオレを意のままに操ろうとするような人間性だったら、そもそも仲間にしようと思っていない。

 嫌な言い方しやがって…。


 ミロシュ殿下にも、聞く人が聞けば、スルト国を実質的に支配してるのはセイ・ワトスンですよねって感じるような言い方だった。

 逆に、聞く人によっては何も感じないようなさじ加減。


 たちが悪いのは、長期に渡ってこの誘導に気付かず、かつ自分でも気付かないうちに誘導されていた場合。

 それはもはや、誘導された本人の判断と言えるのだろうか。

 オレ達は、第1王妃はこれに当てはまると思っている。



「悪意があるかないか。それが重要なのです。あなたのそれからは、悪意を感じます」



 ジョアンさんは顎髭あごひげを撫でつつ、目を細めながら言った。



「悪意などない。あるとしても、好奇心だけだ。殿下、もう下がってよろしいでしょうか?」



 ディエゴ・モンフィスは、悪びれる様子もなくジョアンさんに言い放ち、ミロシュ殿下に帰る許可を求めた。



「許可しよう。ディエゴ、私は人によってはそれを悪意と呼ぶのだと思っているよ」



 ミロシュ殿下は何を考えているのか、終始穏やかな笑顔だった。



「ふむ。覚えておきましょう」



 ディエゴ・モンフィスは精神状態は全く正常のまま、勝ち誇った笑みを浮かべるでもなくそう言った。

 少々心が乱れることはあったけれど、結局最後には最初と変わらない、自信に満ち溢れた精神状態で帰っていった。






「殿下! 良いのですか!? あんな者を野放しにして!」



 真偽判定官が、理解できないとミロシュ殿下に詰め寄っている。

 かなり取り乱しているようだ。


 とはいえ、それも無理もないことかもしれない。

 この場で誰よりもディエゴ・モンフィスのことを恐ろしいと感じたのは彼だろう。

 何しろ、オレ達と違って事前情報がない状態でヤツの正体を知ったのだから。


 彼の発言に対して、同様の思いはオレにもある。



「私も聞きたいですね。なぜディエゴ・モンフィスを裁かないのか」



 オレもミロシュ殿下に対して質問をする。

 一応、殿下に対しての発言だし真偽判定官がいるので、オレでも僕でもなく私と言っておくことにした。

 何となくだけど、統一するよりは状況によって1人称を変えるのがしっくりくるんだよね。



「裁かないほうが良いと判断したのさ。この場で、()()ね。それに、彼にしかできない"契約"もある」



 ミロシュ殿下は変わらない笑顔で言う。


 怖っ。


 でも、なるほど。

 確かに計画では、はっきりと罪に問える前提だったからね。


 次期王としては、はっきりと罪に問えないのに重臣を裁くと求心力が衰えてしまうか。


 彼にしかできない"契約"とやらは全く問題ないんだけど、そういえば、ミロシュ殿下にオレ達が契約魔法を使えること話してなかったかな。



「ミロシュ殿下。ディエゴ・モンフィスの処遇、僕に一任していただけませんか?」



 会議室の入り口で話の流れを見ていたアレクがやってきて、ミロシュ殿下に願い出た。


 ちょっとだけオレの方も見て、いいよね? とアイコンタクトしてくる。


 当然、もちろんいいよとアイコンタクトしておく。

 アレクが何をしたいかはよく分からないけれど、ダメなわけがない。

 オレは100%アレクを信頼している。



「良いとも。()()()()()()良い結果になると信じているよ」


「はっ。ありがとうございます。お約束いたします」



 ミロシュ殿下は快く許可を出し、アレクはうやうやしく頭を下げた。









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