表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第3章 大陸動乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/366

第53話 狙撃

 セイが転移していってすぐ、一瞬静かになった空の上で、ミロシュ殿下が僕に話しかけてきた。



「ついて行きたかったという顔をしているね。君も転移魔法を使えるのだろう? ついて行っても良かったのではないかい?」



 僕はその問いに、自嘲じちょう気味に笑ってみせる。



「セイがあのように言ったからには、1人で十分ということです。それに、殿下は未だセイを過小評価しておられるようですね」


「まさか。彼のことは最大限に評価しているつもりなのだが…」



 僕の言葉を否定するように話し始めた殿下だったけれど、途中から少しずつ自信がなくなっていったようだ。


 そうさ。今の殿下の最大限の評価とやらでは、全く足りていないということ。


 転移魔法は行ったことのある場所にしか行けない。

 行き先をイメージする必要があるからだ。


 でも、セイはどこにでも行ける。

 行き先の()()を手に入れられるから。



「我々では、彼がどこに何をしに行ったかすら分からないということですな。おそらく、ゆっくり説明しているほどの時間はなかったのでしょう」



 ジョアンさんがミニドラの上から推測を披露する。


 僕はそれに頷いた。



「すぐに分かりますよ。セイが殿下の想像を遥かに越えるということが。もしかしたら、僕たちですら過小評価しているかもしれないくらいです」



 僕は殿下にセイの凄さを語った。


 殿下やジョアンさんより付き合いが長い、ネリーとスルティアが頷いている。


 やはり君たちは分かってくれるか、と思っていたら、ベイラだけが首を捻って考え込んでいた。



「いや。さすがにアレクだけは過大評価してると思うの」



 ベイラが出した結論に、皆から笑いが起こる。


 くっ。なぜだ?

 そんなはずはない。


 セイが帰ってくるまでに、それをベイラに説明する必要があるみたいだ。






 -------------------------------------------






 あらかじめ決めていた、緊急時の集合場所。

 スルト王都の元スラム街にある、あばら家だ。


 スルト国の王位継承戦の後、できるだけ目立たないようにしつつ、俺は全力でその場所に向かった。


 観客の中では、かなり早くスルト王都に帰ってきたと思う。


 以前は全く目立たない場所だったが、もはやスラム街では無くなってしまったことで、かなり目立つようになってしまっている。

 …くそっ。


 焦る気持ちを抑えながら、ここにやって来るであろう、もう1人を待つ。


 さすがに個人の特定まではされていないと信じているが、あのセイ・ワトスンは()()と言った。


 カマをかけられただけの可能性もあるし、他に4カ国あるとはいえ、安心できる状況では全く無い。


 来た。

 私と同じ、スルトの隣国ニブルのスパイ。


 普通に歩いているように見せているが、顔が真っ青だ。


 周りに人がいないことを確認しつつ、そいつを迎え入れる。



「ホルガー。お前は本国に戻って報告をしろ。俺はここに残る」


「バカな! お前だけ残して行けるかよ!」



 迎え入れるなり俺が要件を言うと、ホルガーは思っていた通り反発した。



「ダメだ、お前も見ただろう。奴らの力を。せめて戦闘不能になっている『大賢者』だけでも始末する。それができるのは、今しかない」



 スルトは地理的な問題で、力を持ちながらも領土を広げては奪われを繰り返してきた。

 そのせいで、迂闊うかつに領土を広げすぎることをしない国だった。


 しかし、もし戦力が増えたことで領土を増やしても守りきれると判断しているならば。

 ヘニルが支配されたのが、その結果なのだとすれば。


 我が国がヘニルの二の舞になることは十分にあり得る。

 いや、セイ・ワトスンの言葉が正しければ、ヘニルより酷いことになる可能性が高い。



「なら、せめてオレも!」


「分かるだろ!? 誰かが報告しなきゃいけないんだ! スルトは内戦で疲弊して弱くなるどころか、オレ達が考えていたより遥かに強大だった! 戦争を仕掛けても返り討ちだ!」



 食い下がるホルガーに強く言って聞かせる。



「カルロス…。お前、死ぬ気か?」


「俺の能力スキルは知ってるだろう? 運が良ければ生き残れるさ」



 言いにくそうに聞いてきたホルガーに、軽く笑って返す。



「さすがに当てた後には気付かれるだろうがよ…」



 その通りだ。しかし。



「頼む…。俺も本国に大切な人がいるんだ。『鑑定』持ちのお前が帰るべきだろう? 戦争を止めてくれ…」



『大賢者』を殺せばスルトは怒るだろうが、戦力が減ればスルトが戦争を仕掛けることはないだろう。

 ヘニルとの戦争の際に『大賢者』と『賢者』が出ていないという話の裏はとっている。


 それに、そもそも『大賢者』を殺したのがどこの誰かを知る材料を俺は残さない。



「オレなんて役に立たねぇよ…。セイ・ワトスンってガキも、『大賢者』も、何一つ鑑定できなかった。レベルが違いすぎる」



 ホルガーは震えながら、そう言った。


 ホルガーの鑑定スキルは、ある程度レベルが上の相手でも鑑定できる。

 ホルガー自身、能力を活かすために普段は冒険者として、日々レベル上げにいそしんでいた。


 にも関わらず全く鑑定できないという結果は、以前からホルガーの自信を奪い続けていた。



「大丈夫。()()を報告すればいいんだ。ニブル王はさとい方。きっと分かってくださる」



 俺はホルガーを励まし、何とか送り出した。


 あいつもああ見えて結構な手練てだれだ。

 国外脱出くらいどうとでもなるだろう。


 俺はホルガーを送り出してすぐに移動を始めた。


 もうあまり時間は残されていないはずだ。

 早く最適な場所を見つけなければ。


 俺が会場を出るとき、奴等は『大賢者』を魔法で作った簡易ベッドに優しく寝かせ移動を始めるところだった。


 ナドル家の屋敷に入る直前、油断したところをつ。


 俺の神に愛された能力『狙撃』は、狙撃に関するあらゆることに補正がつく。


 その力によって素早く狙撃に最適な場所を見つけた俺は、ナドル家の屋敷から2番目に近い貴族の屋敷の屋根に上がり、腹這はらばいになって身を隠した。




 緊張の中どれほど待ったか。

 ナドル家の連中が、今なお気絶している様子の『大賢者』を連れて帰ってきた。


 すでに十分に魔力は練り、詠唱待機状態で待ち受けている。


 腹這いのまま、伸ばした右手の人差し指をわずかに動かし最後の微調整をする。

 手のブレを防ぐため、右手首は左手で握り固定している。


 "宣誓"は念のため使わないが、"限定"は完璧だ。


 …ホルガーにはああ言ったが、俺は生きては帰れないだろう。


 だが、奴の命と引換えならば、惜しくはない。


 あの子供、セイ・ワトスンとやらに破られてはいたが、奴が最後に使った魔法は手に負えん。


 広大な荒野を全て焼き尽くす炎。

 例えばあの荒野に我が国の全軍がいたとしたら。

 たった1撃で全滅していただろう。


 それほどの範囲、それほどの威力。


 我が国の王都に使われることなど、想像もしたくない。


 屋敷の敷地に近づいていく『大賢者』に照準を合わせる。


 あそこにいるナドル家の連中に魔法の気配を読み取れる者がいれば、撃った瞬間に気付かれ失敗する。


 が、いなければ必中だ。

 確実にれる。



不可視風弾(ふかしふうだん)!』



 俺は心の中で"宣誓"を行い、生涯最高の、最後の風魔法を放つ。


 頭を撃ち抜いて殺すことにのみ特化した風魔法。

 無駄に範囲を広げずに、威力と速さを限界まで高めた弾丸は、その特性ゆえに周りの者達には微風そよかぜが吹いたくらいにしか感じられない。

 魔法の気配を感じられる者がいなければ、着弾して初めて気づく魔法だ。


 撃った瞬間にこちらを向いた者はいない!



 殺った!!



 そう思った瞬間、『大賢者』と俺を結ぶ直線上に大量の防御魔法が展開された。



『バカな!!!』



 俺は心の中で叫ぶ。


 風の弾丸は防御魔法を砕きながら突き進んだが、最後のたった1枚を砕き切れずに力尽きた。


 ナドル家の連中が揃って驚愕の表情で、こちらに視線を向けていた。


 なんだと!?

 一体、誰が!?



「1発目は特大の補正がかかるってか。オレの防御魔法30枚はヤベーな」


「セイ!?」


「腕のいい狙撃手に狙われてたんだよ。お前の曾祖父じいさん」



 言葉そのままに、どこからか()()()()()()セイ・ワトスンが、驚くミカエル・ナドルに言葉をかけている。



 なぜ、奴が、ここに!?


 いつから気付かれていた!?



 パニックになっている俺をあざ笑うかのように、セイ・ワトスンがこちらを見て笑う。


 目が合った瞬間、鳥肌が立ち怖気おぞけが走る。


 終わった…!

 俺は一瞬で己の運命を悟った。


 だが、おかげで冷静になれた。

 捕まるわけにはいかない。真偽判定があるから。


 俺はすぐさま奥歯に仕込んでいた毒袋を噛み砕く。

 同時に俺の前にセイ・ワトスンが突然現れ、何かの液体を振りかけてきた。


 水魔法?

 何だか分からんが、俺はすぐに死ぬ。

 もはや手遅れだ。



 ……すぐに死ぬ?

 なぜ苦しくない?


 接種後すぐにでも喉を掻きむしるような毒のはずなのに。



「何で死なないのかって顔だね。超級解毒薬をかけたからだよ。あ、別の方法で死のうとしても無理だから」



 は?

 セイ・ワトスンの言葉に耳を疑う。


 いや、現象からすると事実なのだろう。

 よく見ると、俺の体が光っている。


 しかし、()()がいくらすると思っているのだ…。



「…俺の持っている情報に、そこまでの価値はない」


「知ってるよ」


「…??」



 セイ・ワトスンは俺の言葉に即答したが、いよいよ意味が分からん。



「あなたは運がいい。ニブルなら可能性がありそうだからね。実験に付き合ってくれないかな?」



 俺が、ニブルのスパイだとバレている!?


 いや、返事をしてはダメだ。

 カマをかけれられている可能性もある…!



「……」


「ん? ああ、カマをかけられてると思ってるのか。…そうだな。信じてもらうために、少し情報を開示しようか」



 言葉を発しない俺を見て、セイ・ワトスンは1人で納得して語り始めた。


 その内容はあまりに衝撃的で、荒唐無稽こうとうむけいな話だった。


 確かにそういう話ならば、俺を生かした理由も分からなくもない。

 超級解毒薬を使ってまで生かすのは理解できないが。


 しかし、それくらいぶっ飛んだ奴であることは分かった。


 そしておそらく、奴が本気であることも分かった。


 俺はこの後、むしろセイ・ワトスンに守られる形で本国に帰ることになったからだ。


 我が国にも『真偽判定』持ちがいて良かった。

 少なくとも、俺が嘘を言っていないことだけは分かってもらえるだろう。


 ニブル王はこの話を聞いて、どのような決断をくだされるだろうか?


 できれば、セイ・ワトスンと敵対する決断だけは止めていただきたい。


 奴の話が本当だとすれば、我が国はすでに詰んでいるのだから。


 俺は、もう二度と奴を敵に回したくない…。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] > 風の弾丸は防御魔法を砕きながら突き進んだが、最後のたった1枚を砕き切れずに力尽きた。 一見、最後の一枚でぎりぎり止まった、危なかったという状況ですが、止めるのに必要な枚数が分かっていた…
[気になる点] >戦力が減ればスルトが戦争を仕掛けることはないだろう。 ……? なに言ってんだか、この馬鹿。 大賢者1人居るだけで脅威に感じてた弱小国のくせに、それ以上の脅威が残るって分かってる国にち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ