第41話 新プラン
予定していた貴族達への説得を終えたオレ達は、再び浮遊大陸の代官屋敷に戻ってきていた。
残りの貴族達にはオレ達主要メンバー以外が人海戦術で手紙を配り回っている。
アカシャの情報てんこ盛りの手紙だから、こっちもそれなりの効果があるだろう。
「ジョアンさん、ちょっと事情が変わった。プランを見直したい」
オレはジョアンさんと会うなり、さっそく話を切り出した。
自分なりに考えた新プランを話し、判断と修正をしてもらうためだ。
ジョアンさんに敬語を使わないのは、まだ抵抗があるけれど仕方がない。
本人から、今後は敬語を使わないでほしいと強く釘を刺されたからだ。
彼の中では、オレが主で彼が従者であるということを周りに見せるのは重要なことらしい。
「お聞きしましょう」
ジョアンさんはさして驚くこともなく興味深そうに顎髭を撫で、談話室のソファーに腰掛けた。
やっぱり頼もしいね。
オレはニヤリと笑って、ジョアンさんの対面に腰掛け、具体的な話を始めた。
アレク、ネリー、ベイラ、スルティア、ミロシュ殿下、ダビド公爵といったこの場にいるメンバーも、自然にオレ達の周りに集まって話を聞き始める。
スルト国内の問題も、いよいよ大詰めが近いな。
オレは話しながら、そう感じていた。
----------------------------------------------
玉座の間で指示を出していると、ビクトリアが周りの制止を振り切りながら入室してきた。
怒りで早足になり、足音も大きい。
後ろには、ノバクとペトラも付いてきている。
こちらは少し不安そうであった。
「ファビオ! あなたは何をやっているのです! 平民1人を消すはずが、どうやったらこのような状況になるのですか!」
ビクトリアは誰かから外の状況を聞いたようだ。
私に怒りをぶつけてきた。
「予想を遥かに超えて苦戦していることは認めよう…。が、セイ・ワトスンを相手にするというのは、こういうことなのだ。奴が化け物だと分かっていたから、君を止め、余自ら動くことにした」
ビクトリアが手を出していたとしても、暗殺は確実に失敗していただろう。
それどころか、今後ビクトリアが王城の外に出た時に命を狙われる危険すらあった。
今の私が、まさにそうなっているように。
「あの女の息子が、王座を狙っている! 図々しくも! だから私は、昔から早く始末するように言っていたのです!」
ビクトリアは、他に聞かせると不味いことを感情任せに話してしまった。
玉座の間にいる者達のビクトリアを見る視線が冷たく感じる。
私はため息をついた。
「今、貴族達に号令をかけておる。謀反人達を討伐するために集結せよとな。『大賢者』も呼び出した。戦力が整い次第、イザヴェリアに総攻撃を行い、奴等を一掃する」
もう手段を選んでいる場合ではない。
内戦になろうがなんだろうが、セイ・ワトスンとミロシュは絶対に始末しなければならない。
「父上…」
「父上…」
ノバクとペトラが、不安そうに私を呼ぶ。
「お主らが原因でこのような事態になっておるというのに、未だに自覚がないか。残念じゃな。放置しておったワシも愚かじゃったがな」
私が口を開く前に、ちょうど使者に連れられ玉座の間に入ってきたラファが、ノバクとペトラ、そしてビクトリアに目線を送りながら言葉を放った。
「不敬な! ラファエル・ナドル、あなたこそしっかりしていないから、あのような輩が調子に乗るのです!」
ビクトリアがラファに食ってかかる。
ラファはそれに対し、無言でビクトリアを睨み、目を細めた。
それは何かを言うよりもよほど強くビクトリアを非難しているようで、そのプレッシャーにビクトリアは怯んで一歩下がった。
「王よ、何とかして取り込めと言ったじゃろう? 敵対するなと。…もっと強く言っておくべきじゃったな。そこの宰相のように」
ラファは私にも苦言を呈した。
そして、すでに敗北を悟ったかのように意気消沈した宰相に視線を送った。
ラファに強く言われていれば、私はどうしたか…。
いや、おそらく変わるまい。
ラファもそう思ったから、強くは言わなかったのだろうが、それでも反省の言葉を述べるほど今の状況は悪いということか…。
「もはやセイ・ワトスンとミロシュ殿下を討ったところで、元通りというわけにはいきません…。むしろ…」
宰相は誰とも目線を合わせず、床に向かってボソボソと喋った。
そしてそれも最後まで続かず、途中で途切れた。
いや、途切れさせざるを得なかったのだろう。
きっとその続きは、むしろ討たずにミロシュが王となった方がスルトの未来が明るい、というものだろうからな。
「それでも余は、奴らを討つ。『大賢者』ラファエル・ナドルに命ずる。イザヴェリアごとで構わん、セイ・ワトスンとミロシュ・ティエム・スルトをこの世から消滅させよ」
私はラファにというより、この玉座の間にいる者全てに対して告げた。
これが私の決断であるということを、強く知らしめるために。
「ワシはお主の剣じゃ。好きに使え。しかし、やるならもっと早く言ってほしかったのぉ。言っておくが、ワシでも勝てるか分からんぞ」
ラファは何を考えているのか、少し楽しそうに言った。
私は、数年以内ならお前の方が強いと言っていたではないかと叫びたかったが、思いとどまった。
一刻も早くとか、早ければ早い方がいいと言われてきたことも覚えていたからだ。
「勝ってもらわねば困る」
「負けるつもりはない」
私が真剣な目でラファを見て言うと、ラファは口角を上げて答えた。
私も可笑しいわけではないが、軽く笑った。
ラファはずっと昔からの付き合いだ。
臣下というよりは、友人や家族に近い。
「今、貴族達に号令をかけている。ミロシュに付く者も出てくるだろうが、集まった者達と全魔法師団を連れていけ」
私はラファに、騎士団を除く全戦力を連れて行くように言った。
騎士団だけは王城の守りに残す。
魔法が使えない王城内においては、騎士団こそが王国最強であるからだ。
それは相手がセイ・ワトスンだろうが、ラファだろうが変わらん。
「承った。では、しばし王城内で休ませてもらうぞ。しばらくまともに寝られておらんのでな」
「うむ。誰か、案内しろ」
城の者にラファを案内するように命ずる。
セイ・ワトスン。つくづく恐ろしい奴よ。
あのラファが、王城内でなければ安心して寝られないとは。
去年学園で奴と戦って以来、修行の時間を大幅に増やしたとも聞く。
それだけ、奴を警戒しているということ。
もしラファが負けるようなことがあれば、私達は完全に終わりだ。
万全の態勢で送り出さなければ。
私は第一魔法師団長に、全魔法師団はもちろん、集まってくる貴族達の兵力も含め、万全の態勢を整えるよう命じた。
しばらくして、貴族達の兵力がほとんどと言っていいほど集まらないという報告が上がってきた。
だが、それは最悪の報告ではなかった。
最悪の報告は、ラファが、行方不明になったというものだった…。
 




