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第37話 王となれ

 代官屋敷内の内通者達をすぐに全員捕らえ、何事もなかったように応接室でミロシュ殿下と向かい合って座る。


 3人掛けのソファーの中央にはオレが。両隣にはスルティアとジョアンさんが掛けた。

 ここでもネリーがジョアンさんの場所を奪ってしまうのではと少し警戒してたけど、今回はむしろ早くから後ろに立っていた。



親父殿おやじどのが念のため私に見張りを付けていることは知っていた。逆心などないので放置していたのだけどね」



 ミロシュ殿下は穏やかな表情で、ほがらかに話す。



「排除の許可を出したということは、今はそうではないと?」


「結果的にそうなるかどうかは、君達次第だよ。親父殿に聞かれたくない話を、しにきたのだろう?」



 オレが王に逆らうことを決めたのかどうかをたずねると、ミロシュ殿下は笑って答えた。


 確かにこんな聞き方はずるかったな。



「王が私を排除することに決めました。逆心などないことを百も承知の上でです。黙って処分されるつもりはありません。殿下には後ろ盾となっていただきたいのです」



 オレはミロシュ殿下に協力を求めるついでに、王は逆心なんてなくても邪魔者だと思ったら排除してくるヤツなんだよってことを強調しておいた。


 ミロシュ殿下も似たような立ち位置だからね。



「ノバクのためか…。親父殿も愚かなことを。君を味方にすることがどれほど国益にかなうか分かっていただろうに」



 ミロシュ殿下は目を細めて、残念そうに言った。


 そうだね。オレも残念だよ。



「王は、ノバク殿下の教育に失敗しました。あなたにしたような教育を、ノバク殿下にもすべきだった」



 色々知っているオレは、あえて、まるで見てきたような言い方をした。


 ノバクやペトラ殿下があんな風になったのは、両親である王と第1王妃が悪い。


 子供がどう育つかは、教育環境が全てと言ってもいい。


 皮肉なことに、王が愛さなかったミロシュ殿下は立派に、王が愛したノバクは残念に育った。


 偶然でもなんでもない。

 教育環境で必然的にそうなったんだ。


 誰かが止めようとしても第1王妃は耳を貸さず、王は彼女を容認した。

 そのツケが回ってきたということ。



「ふっ。そうだね。厳しくしつけられたこと、今では感謝しているよ」



 ミロシュ殿下は少し複雑そうに笑った。


 当時の思い出はいいものではないだろうけど、ノバクとミロシュ殿下の()()()()を考えるとね…。



「ミロシュ。お主が王となれ。それがスルトのためじゃ。フィリプも、それを望むじゃろう」


「…ティア? 建国王様が、望む?」



 エレーナ先輩のところでの失敗を教訓として、スルティアには好きに話していいと言ってあった。


 それにしても…、いきなりぶっ込んできたな。


 ティアとしてしか紹介されてないミロシュ殿下は、突然スルティアが偉そうな感じで喋りだした状況に付いていけてない。



「申し訳ありません、ミロシュ殿下。実は、ティアというのは偽名なのです。彼女の本当の名前は、スルティア。建国王様の仲間で、当時から生き続ける『学園の支配者』です」


「な……、」



 オレがスルティアの紹介をすると、ミロシュ殿下は驚きすぎて絶句したようだった。


 オレはニヤリと笑って、さらに追い打ちをかける。



「スルト国というのも、建国王様が彼女の名前を元に付けたのですよ」






 しばらく混乱した様子のミロシュ殿下だったが、ようやく立ち直って改めてスルティアと話し始めていた。



「いや、まさか、あなたが生ける伝説のような存在とは…」


「今まで隠しておってすまぬ。じゃが、今まで通りに接してくれて良いぞ!」



 スルティアは、エレーナ先輩のところで話した時とは打って変わって、元気で楽しそうに話している。


 エレーナ先輩の時は、オレの配慮が足りなかったな。



「いえ、そういわけには…。しかし…、そうですか…。初めてお会いした時、何となくあなたとは会ったことがあるような気がしていたのです。学園時代、私を守ってくれていたのは、あなただったのですね」



 ミロシュ殿下が10歳の時に、ノバクは生まれた。


 1学年の途中で王位継承権を剥奪はくだつされたミロシュ殿下は、心無い者達によっていじめを受け始めた。


 これを影からこっそり守っていたのがスルティアだ。


 こっそりと言いつつ、割と露骨だったので、ミロシュ殿下は誰かに守られていることを感じていたらしい。



「そういうこともあったかのぉ」



 スルティアは昔を思い出しているようだ。

 ニヤニヤしている。



「ミロシュ殿下のお姿は、建国王様にそっくりらしいですよ。ずっと直接お会いしたかったらしいです」



 オレは以前、スルティアが正体を隠してでもミロシュ殿下に挨拶したがった理由をぶっちゃけることにした。



「あっ! セイ、お主、余計なことを言いおって! 違うぞミロシュ、お主がフィリプに似ていなくても、わしはお主に目をかけておった!」



 スルティアは焦りながらオレの言ったことに補足している。


 いや、オレはそういうことが言いたいんじゃないぞ。



「ふふ。そうですか、建国王様に。私は父にも母にも似ていないので、以前のあなたの言葉が気になっていたのですよ」



 そうそう。ミロシュ殿下が気にしてたみたいだからね。



『ご主人様、見張りの交代まで1時間を切りました』


『あら、もうそんな時間か。ありがとう、アカシャ』



 空気を読めるアラーム機能を有している、完璧メイドのアカシャにお礼を言う。


 そろそろ話をまとめて、領主館に戻ってから堂々とギルドに行かないとね。

 早めに着くヤツがいるとして、ここにいられる時間はあと30分くらいかな。



「それで、いかがでしょう? 私を擁護ようごして、一緒に王と戦っていただけますか?」



 オレはミロシュ殿下に結論を求めることにした。



「1つ、条件がある」


「はい」



 どうやら前向きのようだけど、条件があるらしい。

 …そりゃあるか。


 オレは姿勢を正して、言葉を待った。



「私は、スルトをより良い国にしたい。私が王となった後も、そのために協力して欲しい」



 ミロシュ殿下は、聞き届けられることを確信しているように、口角を上げて言った。


 それはオレ達としても願ってもない条件で、オレがうなずく前から、仲間たちの表情が肯定を示していた。



「ええ。こちらとしても望むところです。ねえ、ジョアンさん?」



 オレはニヤリと笑って答え、ジョアンさんに話を振った。



「はい。共にスルトによる大陸統一を成し遂げましょう」


「は?」



 ジョアンさんの野望に満ちた言葉と表情に、ミロシュ殿下が固まる。


 残りの時間はジョアンさんのターンだ。


 ミロシュ殿下に今の言葉の説明と、直近の動き方の指示を出すのは任せたよ。








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