第19話 家族
「父ちゃん、みんな。話があるんだ」
家に帰って、全員が集まった昼飯の席で、オレは全てを打ち明けた。
アカシャのこと。魔法のこと。みんなに嫌われたくなくて隠していたこと。
村が豊かになるように、こっそり色々やってたこと。
そして、そのせいで約1週間後に盗賊団がやってきてしまうこと。
盗賊団は残忍で、盗賊の頭が強すぎるので、誰も死なないためには村を捨てて全員で逃げるしかないということ。
打ち明けて、誠心誠意謝った。
「ごめん。ごめんよ。オレがバカだったんだ。みんなにもっと早く打ち明けたり、もっと注意してやってれば…。こんなことにはならなかったんだ」
後悔と悔しさで涙が出て来て、声が震えた。
「セイ…」
母ちゃんが茫然自失といった表情でポツリとオレの名前を呟いた。
申し訳なさで胸が潰れそうだ。
あんなに可愛がってもらっていたのに、返すものがこの仕打ちなんて。
さっきまで以上に、いたたまれない気持ちになる。
それでも、オレは家族全員を見回して言い切った。
「信じられないようなことかもしれないけど、このままじゃ村が危ない。でも、今なら確実に村の全員が安全に逃げられるんだ。オレのせいでこんなことになって、いくら謝っても謝り足りないけど、村の全員で逃げることに協力してほしい」
全部を打ち明け終わると、部屋の中は一時的に静寂に包まれた。
最終的に全てを決める家長である父ちゃんは腕を組んで目を瞑り、難しい顔をしている。
婆ちゃんも同じように腕を組んで目を瞑っているが、こっちは涼しい顔だ。
いつも厳しい婆ちゃんだけに、逆に緊張する。
兄ちゃん達は、大人達とオレの様子を伺っている感じに見えた。
そして最初に静寂を破ったのは、ジル兄ちゃんだった。
「オレはセイを信じるぜ。アカシャにも会ったことあるしな。なぁ、兄ちゃん」
「そうだな。オレもセイを信じる。昔アカシャに会ったときも、彼女が言ってることは正しかった」
ジル兄ちゃんに話を振られたアル兄ちゃんも、真剣な顔で頷いてジル兄ちゃんに続いてくれた。
2人は迷子事件のときにアカシャに会ってるから、話を信じやすかったのかもしれない。
「そういや、アンタら2人がそんな名前の妖精に助けてもらったって騒いだときがあったね」
婆ちゃんは迷子事件の後に兄ちゃん達が言っていたことを思い出したらしい。
「当時はアンタらの説明も下手くそすぎて、何をバカなことをって思ってたけどね。そうかい。何でも知ってる妖精ね。セイは神様に愛されてるとは思ってたけど、そんな力初めて聞いたよ」
「え? 神様に愛されてるって、もしかしてスキル持ちのことなの?」
婆ちゃんの言葉が衝撃的で、思わず聞き返してしまった。
「そうさね。それは教えてもらえなかったのかい? 誰でも知ってることだけどね」
「き、聞かなかったからね…」
そうだったのか…。どおりでみんな結構な頻度で言うわけだ。
神様に会ったことがあるんじゃないかってことかと思って、この世界の人達は勘が鋭すぎるって思ってたよ。
結構な人達にスキル持ちなんじゃないかって思われてたってことなんだな。
それはそれで勘鋭すぎない?
オレが隠すの下手くそすぎただけかな。
「まぁ、そこのところはどうだっていいさ。それよりね。セイ。アンタはさっきから自分のせい自分のせいって言うけど、思い上がるんじゃないよバカ孫が」
「ごめんなさい…」
怒られて反射的に謝ったオレに対して、婆ちゃんは右手で顔を隠すようにして大きなため息をついた。
「はぁ。私もアンタのことを信じるけどね。アンタのせいじゃないって言いたいのさ。村を豊かにしすぎたって、どこが悪いんだい。盗賊なんてアホどもがいるのが悪いんだよ」
「婆ちゃん…」
言葉は悪いけれど、オレの肩を持ってくれるセナ婆ちゃんの言い分に感動した。
だからといって自分のせいじゃないとは思えないけれど、肯定してくれる人がいるっていうのは、ありがたいものだ。
「もちろん…。もちろん私も信じるわ。セイが普通じゃないことは、なんとなく気付いていたし。それより母さん、セイが嫌われたくなくて隠してたっていうのがショックで…」
「えぇ…。母ちゃん。そこかよ…」
アン母ちゃんがオレの話を聞いて茫然自失としていた理由が、想像とかなりズレていて、ちょっと気が抜けてしまった。
「だって、嫌うわけないじゃない」
「そうだぞ。オレ達がセイを嫌うわけがない」
「当然だな」
母ちゃんの言葉に、兄ちゃん達も続く。
婆ちゃんも無言で首を縦に振っている。
父ちゃんも、相変わらず難しい顔で腕を組んで目を瞑っているのに、ゆっくりと2度頷いてくれた。
ありがたい。涙腺がゆるむのが分かる。
オレは、こんなに暖かい家族を信じきれなかったのか。
悔やまれる。バカだった。
守りたい。絶対に死なせたくない。
盗賊団なんかに、この家族を殺されてなるものかと思った。
そして再び部屋の中に静寂が訪れた。
全員の視線が、この場での決定権を持つ者に注がれる。
ずっと難しい顔で考え事をしていた父ちゃんが、目を開き、組んでいた腕をほどいてテーブルの上に乗せた。
「もちろんオレもセイのことを信じるさ。にわかには信じがたいことだけどな。お前がそういうなら、そうなんだろ」
ジード父ちゃんはいつもの、歳に似合わないやんちゃな表情でニヤッと笑った。
オレはほっとして、笑って父ちゃんに話しかけた。
「父ちゃん…」
でも、父ちゃんは急に真剣な顔になって、オレの言葉を遮って低い声で続けた。
「だが、村を捨てて逃げることはできねえ。おそらく村長も同じ考えになるだろう」
思わず衝動的にテーブルを叩いて立ち上がった。
テーブルと椅子と食器が凄い音を立てている。
でも、それを掻き消す声量で叫んでいた。
「バカな! 死ぬ気かよ!!」
父ちゃんの考えは、オレには自殺宣言にしか聞こえなかった。
お読みいただきありがとうございます。




