第30話 権力というもの
『ワトスンレポート』が手に入ったという報告が来た。
想像していたより遥かに早く手に入ったな。
セイ・ワトスンの能力を考えると、かなり難航するかと思われたが…。
王城での会話すら把握されているというのは、さすがに杞憂だったか?
一応、以前に騎士団長からそういう報告が上がってはいた。
私は信じていなかったのだが…。
「こちらが現物でございます」
玉座の間で、宰相から手渡された『ワトスンレポート』に目を通す。
「なんだこれは…。具体的すぎる…。これでは、我々が参考にすることはできんな」
宰相に視線を向け、手にした羊皮紙をひらひらと振る。
期待していただけに落胆を隠しきれない。
羊皮紙に書いてあったのは、ギザール商会の各店舗で今月撤去すべき商品、新たに置くべき商品の羅列だ。
驚くべきは、全ての店舗において内容が異なること。
それはつまり、店舗ごとの最適な商品群を予測しているということであり、他では真似ができないことを示していた。
「はい。しかし彼の能力の一端を垣間見ることはできました」
宰相は頭を下げ、跪いたまま、冷静な声で話した。
確かに、ワトスングループの凄まじい伸びを考えると、この内容が根拠なしに書かれているものでないことや、この通りにすればギザール商会が上手くいくのであろうことが分かる。
セイ・ワトスンの能力で、少なくともこれができるということが分かったのだ。
しかし、こんなことができるのか。
ここまで、できるのであれば…。
「どう思う…?」
私は判断がつかず、宰相に意見を求めた。
「正直、分かりません…。こんなことができるのであれば、これまでできないと予想されていたことが、なぜできないのかという疑問が生まれてきます」
「やはりそうか…。余も同意見だ。奴は全ての情報を得られると思っておくしかない。振り出しに戻りおったわ」
羊皮紙をぞんざいに床に落とす。
くっ。このワトスンレポートを手に入れれば、奴の能力の秘密に近づけると思っておったのに。
「いえ。振り出しではありません。現在の情報では正確には分からないというだけで、少しずつ正体に近づいていることは間違いありません」
宰相はあくまでも冷静に意見を述べる。
優秀な男だ。
だが…。
「それでは、それでは遅すぎるのだ…」
私は弱気が他の者に悟られないよう、限りなく小さい声で呟いた。
目端が利く者は、すでに少しずつ奴に接触し始めている…。
権力というものは、周りを富ませる者に宿るのだ。
逆に、周りを富ませられない者からは去っていく。
それは歴史が証明している。
このままでは…。
このままでは…。
ノバク……。




