第24話 既視感
オレが相談内容を話すと、一瞬、応接室内が完全に静まり返った。
全員の顔が、問題の重要さを物語っている。
そんな中、1番最初に口を開いたのは、焦ったような顔をしたネリーだった。
「どうするって…。アンタ、大賢者様が襲ってきた時の準備はもうできてるって言ってたじゃない!」
ネリーは強い口調でオレに文句を言った。
さっきまで難しい顔をしていたスタンとヤニクとカロリナの表情が、ネリーの言葉を聞くなり驚愕へと変わる。
どうやら、オレはネリーに勘違いをさせてしまったようだ。
「ああ、ごめん。そっちの準備は大丈夫なんだけど、その後をどうしようかって話。何もなかったことにして白を切るか、何かしら落とし前をつけるのか。意見を聞きたくてさ」
オレはネリーの勘違いを正しつつ、改めて説明をし直した。
スタン達は驚愕の顔を貼り付けたまま、ブンと音がするほどの勢いでネリーに向けていた顔をオレの方へ向けた。
「なんだ、そういうこと…。アンタの好きにすればいいじゃない。喧嘩売られてるのはアンタなんだから」
ネリーはホッとした様子でそう言った。
そういうわけにはいかないんだよね、今回の場合は。
「相手が相手だからね。特に落とし前つけるんだったら、オレだけの問題じゃなくなるだろ」
「あ、そっか…」
自然と全員の視線がスルティアに集まる。
「学園に危害を与えず、国とフィリプの血脈を残してくれれば、それ以上は望まぬ。正直ワシはノバクやペトラ嫌いじゃしな」
スルティアは最初オレが話を切り出したときとは打って変わって、軽い調子で語った。
もしかして、最初緊張した感じだったのは、オレが国を潰すって言い出すと思ってたんかな。
でもそうか。スルティアは王族全員に強い思い入れがあるわけではないんだな。
「ふうん。そういうことなら、あたちはそろそろアイツらにお仕置きしてもいいと思うの」
ベイラは悪そうな顔で笑って話す。
お前はこういうの好きそうだよね…。
「ネリーとアレクは、立場や家族のこともある。王や次期王のノバクとは敵対しづらいだろ」
オレがそう言うと、ネリーとアレクは不満そうにオレを見た。
「セイ。まさか今まで、そんなことに気を使ってノバク様に反撃してこなかったのかい?」
め、珍しくアレクが怒ってる!?
そんなことって、貴族は何より家を大事にするものじゃないか。
「い、いや。それもないこともないけど、どっちかっていうと反撃した方が面倒なことになりそうと思ったっていうか…」
『ご主人様。嘘ではないのに、会話がしどろもどろになっております』
オレがアレクとネリーの圧に押されて言葉に詰まっていると、アカシャから冷静すぎるツッコミが飛んでくる。
わ、分かってるよ!
「確かに貴族にとって家は大事よ。でもね、セイと王族なら、私はセイを選ぶわ。家のことは、何とかすればいいのよ」
ネリー…。
嬉しいけど、何とかってなんだよ…。
「僕は、セイより優先するものはない…。僕は君に救われたんだ。お祖父様も、きっと分かってくれる…」
「アレク…。お前、やっぱり気付いてたんだな…」
「あんな治療、気付かない方がどうかしてるよ」
「そうか…」
アレクには、以前に打ち明け話をした時にも治療の話だけは黙っていた。
なんとなく気付いていそうな雰囲気はあったけど。
こんな風に、対等な友達の関係じゃなくなるのが嫌だから黙ってたんだけどな。
「セイ。君の性格は分かってる。どうせ、対等でいられなくなるから、なんて理由で隠してたんだろう? そんなことをしなくても、僕たちは対等な友達だ。そして、対等だからこそ、僕は僕の好きにさせてもらう」
「うっ…。分かった……」
マジで全部バレてた…。
全部オレの独り相撲だったのか。
恥ずかしすぎて死ねる。
「で? アンタはどうしたいのよ?」
ネリーが頬杖をついて、ニヤニヤしながら聞いてくる。
そんなに恥ずかしがってるオレが面白いか…。
「降りかかる火の粉は払う。でも、頭の挿げ替えはしなくていいかな。大義もないし。ただ、お前らや家族を害されたら許さない」
オレはゆっくりと考えながら自分の考えを話した。
「じゃあ、王やノバク様達がセイを殺そうとしたら、もう許さない。頭の挿げ替えはしないけど、権力は奪ってしまう。これでいいかな?」
オレの話を聞くと、アレクはいつもの天使の笑顔でそう言った。
完全記憶はどうした!?
オレが話した内容とかなり違うんですけど!?
『素晴らしい。素晴らしい考えですよ、ご主人様』
アカシャがかなり興奮気味の抑揚少なめな声で絶賛している。
感情豊かになったなぁ、おい!
オレは混乱しながら心の中でアカシャにツッコんだ。
「アンタが私達を害したら許さないって思うのと同じように、私達もアンタが害されるのを許さないってこと。いいかげん、頭にきてるのよね」
ネリーがそう言うと、アレクとベイラと、スルティアまでもが頷いた。
そういうことですって言いながら、アカシャも頷いている。
「はは。お前ら。うん。分かった。それでいこう。ありがとな…」
ちょっと感動でボソボソと喋ってしまったけれど、ちゃんと皆に意味は伝わったようだった。
「くく。面白くなってきたのぉ。腐った王族を裏から操るか。フィリプが目指した、国民のための政治をしようぞ」
スルティアはなぜか、すでにオレが命を狙われる前提で話を進めている。
「大義も一応作っておこう。ベルジュの王族直轄領は酷い有様だった。これをミロシュ殿下とエレーナ殿下に報告しておく」
オレの天使アレクは、堕天してしまったかもしれない。
いつの間にか、黒い天使に変わっていた。
「こ、これは…。謀反の企てではないのか…?」
スタンが恐る恐る聞いてくる。
ヤニクとカタリナもブンブンと縦に何度も首を振っている。
…まぁ、そんな感じに聞こえるかもしれないけど。
「いやいや。謀反はしない。したくもない。王族が何もしてこないのが1番いいと思ってる。なぁ、皆?」
オレがそう振ると、皆が口々に、もちろん、当然だと頷く。
これは、あくまでも王族が手を出してきた時の話だ。
だから、謀反の疑いをかけられたとしても、真偽判定ではシロとなる。
嘘ではないからね。
「き、既視感がある…。ヘニルは、手を出してはいけないものに、手を出してしまったのだな…」
そう言ってガックリとうなだれたスタンを、ヤニクとカロリナが同情しながら慰めていた。
…まぁ、アレだ。
情報を制すれば、国を制することすらできるってことだよ。




