第23話 友達
スタンは本気だ。
本気で自分の親を処刑すべきだと言っている。
ただし、身を切るような思いでだろう。
「スタン。無理はしなくていい。お前の父親が生きているという情報は、絶対に外に出ないようにしてる」
オレとしては、スタン達の相談内容をアカシャから聞いた上で、それでも処刑の必要はないと思っている。
だから、スタンに無理をする必要がないことを伝えた。
言い出しっぺは、ヤニクでもカロリナでもなく、スタンだったから。
「貴様は、情報の取り扱いに絶対の自信があるのだろう? 半月行動を共にしたことで、貴様の能力に当たりは付いている。しかし、それだけでは足りないのだ…」
スタンは眼の前の机に目を落としながら、苦渋に満ちた表情で言った。
「どういうこと? 情報が外に出なければ、バレることもないんじゃないの?」
ネリーはスタンが言ったことの意味が分からなかったようだ。
オレも相談内容を事前に聞いてなければ分からなかったかもしれない。
「例えば、セイ・ワトスンに謀反の疑いがかけられたとするじゃない?」
カロリナが出した例に対して、ネリーが頷く。
「隠し事はないか? ヘニルについて報告してないことがあるのではないか? こんな感じの質問は全て否定できなくなってしまうわ。真偽判定があるから」
「あ…」
カロリナの説明が終わるとネリーは、それはマズいと言わんばかりに手で口を押さえた。
「実はラウル・バウティスタは生きてます。でも、謀反を起こすつもりはありません、と本当のことを言えばいいの!」
ベイラがいいアイデアを思いついたという調子で発言する。
なるほどね。
「真偽判定官に嘘をつかせることは不可能じゃねぇ。お前らがこないだの戦争でやったみたいにな」
すぐにヤニクが反論したことで、ベイラはシュンとして黙り込んだ。
ヤニクが言うことはその通りなんだけど、個人的にはベイラの案は結構いい。
他の隠し事に比べれば、これを言うのはかなりマシだ。
「そういうことだ…。ここ半月で私達は改めて確信した。今のヘニルにはセイ・ワトスンが必要なのだ。父上を生かしておくことは、リスクにしかならん」
スタンはそう言い切ったが、誰とも目は合っていなかった。
「…聞いてて思ったんじゃが。ファビオの奴が本気でセイを排除するつもりなら、お主の父親が生きていようがいまいが、セイは謀反人に仕立て上げられてしまうのではないか?」
スルティアするどい!
うん。たぶんね。そうなる気がするんだ。
『私達の結論と同じですね』
肩の上に座るアカシャがボソっと言った。
先日、3人が相談した内容を聞いたときにオレとアカシャで話し合った結論もスルティアと同じだった。
おそらくではあるけど、ラウル・バウティスタが生きていることは、オレを排除するかどうかの決め手にはならない。
オレを排除するかどうかは、王の家族への感情によって決められるだろう。
合理性だけを考えるならば、オレを排除せず取り込むというのが王家の最善だ。
ノバク、ペトラ、ビクトリアの3人が少し感情を抑えれば、オレを取り込めることは真偽判定でもはっきりしている。
王家のオレへの対応がことごとくアカシャの予測どおりにならないのは、王家が合理性よりも非合理性、つまり感情を優先しているからに違いない。
排除が決まれば、何かしら理由をでっち上げてくるだろう。
それが真実であるかどうかは、王家としてはどうでもよいのだ。
「そ、そうか! 聞いたか、スタン坊っちゃん! 本当に情報が絶対に外に出ないなら、あのオッサンが生きてることが切っ掛けでセイに謀反の疑いがかかることはない。であれば、確かにそういうことだ!」
ヤニクが嬉しそうに席から立ち上がって、興奮気味に大きな声で話しながらスタンの背中をバンバンと叩いた。
いい人だ。
やっぱこの3人は仲間にしたいね。
「痛いぞヤニク、止めろ! ……良いのか? 父上を処刑しなくても」
スタンはヤニクに背中を叩くのを止めさせながら、ちらっとこちらを見てきた。
やっと目が合ったな。
「ああ。でも、悪いけど、生きてる間は幽閉になるぞ」
オレはスタンに笑いかけながら言った。
ラウル・バウティスタは魔封石で作った部屋に幽閉している。
一応、普通に暮らす分には快適な部屋にしてある。
「やったことを思えば、過分すぎる」
スタンが目を細めると、涙が溜まっているのがよく分かった。
「よかったですね…」
カロリナも自身の涙を拭っている。
この人はずっとスタンのことを心配してたからな。
スタンが喜んでいることが嬉しいんだろう。
「国を滅ぼした貴様らに、感謝はせん。しかし、ヘニルに住まう民が幸福でいる限り、貴様らに協力することを誓おう」
なんか突然、スタンがキリッとした顔でカッコつけたことを言ったので、オレはため息をついた。
「そんなんいいよ。友達だろ?」
「な、なにっ!?」
スタンがオレの言葉に狼狽える。
「つんでれってヤツじゃな」
「民を幸福にと言うなら、ヘニルの旧体制はもっと早く見直すべきだったわね」
「いいかげん、仲良しを認めるの」
「ただの照れ隠しだよね」
皆も散々にスタンをいじった。
「ぶふっ。スタン様、せっかくカッコつけたのに…」
カロリナもそれを見て堪えきれないように笑い出す。
ヤニクは腹を抱えて笑っていた。
「くっ。貴様ら、覚えていろよ…」
悔し恥ずかしといった感じでそう言ったスタンは、どことなく楽しそうにも見えた。
スタンいじりを終えた後、少し休憩を挟んでオレ達は再び応接室の席についた。
「じゃあ、次はオレの相談だな。さっきの話にも出てたことだけど、王家が、スルト国が何かしら理由を付けてオレの排除を決めた場合、どうする?」
オレは逃げないで立ち向かうとは決めてる。
でも、どこまでやるかは、皆がどうするか次第にしようと思っていた。
特にスルティアの意向は大事にしてやりたい。




