第22話 スタンの相談
さて。
スタン達と領地改革を始めて半月ほど。
ミスリルの採掘を即座に軌道に乗せるための鉱山の整備は終わった。
農業改革も行い、今後やるべきことも伝えた。
皆、半信半疑ではあったけど、あとは来年の収穫という結果で証明されるだろう。
『こんなもんでいいかな?』
『はい。あとは極端な天候不良などが起こる場合のフォローさえ怠らなければ、増収は間違いありません』
アカシャのお墨付きも出たので、自然と笑みが溢れる。
税を7割から5割に下げても増収間違いなしというのは、充分な成果と言えるだろう。
道筋は作ったから、あとは任せよう。
ヘニルの人達の頑張り次第だけど、今まで通りくらいに頑張れば、今までよりずっと豊かになるはずだ。
今立ち寄っている村で、新たなに拡張した農地や水路などに喜んでいる村人達を遠くから眺めていると、近付いてきたスタンが真剣な顔でオレに話しかけてきた。
「セイ…。相談がある」
スタンの顔があまりにも真剣で、かつ苦渋を隠そうと必死になっている様子見て、オレはスタンの相談の内容に確信を持った。
アカシャから、スタンがヤニクとカロリナに相談していた内容の報告は受けてるからな。
「分かった。内容は想像がつく。仲間も一緒に聞いた方がいいだろう」
「そうだな。すまない。そうしてくれ」
ちょうど明日、浮遊大陸がヘニルの都に来る。
ネリーとベイラとアレクも乗り込んでくることになってるから、ちょうどいい。
ヘニルの城では、ちょっと話しにくい内容だからな。
翌日。浮遊大陸の領主館で、オレは久々に仲間達と再会した。
アカシャを通して様子は知っていたけど、皆元気そうだ。
「皆、久しぶり! 大活躍だったな!」
オレは応接室に集まった皆に笑いかける。
「当然なの!」
「できることは、やってきたわ!」
「この日程でベルジュとヘニル両方を見たのは、少し忙しかったけどね」
ベイラはドヤ顔で、ネリーは胸を張って、アレクは満足そうではあるけど苦笑いで、それぞれ感想を言った。
スタン達も交えて、しばらくはここ半月ほどの領地経営の話で盛り上がっていると、応接室の扉が開く音がした。
全員の目線がそちらに向く。
「なんじゃ、セイ。相談とは。…む、そこの3人は、確かヘニルの者か…」
入ってきたスルティアが、スタン達を見て思案顔になる。
どこまで喋っていいのかということだろう。
「実は、スタンから相談がある。そして、オレからも。重要な話になると思うから、スルティアも呼んだ」
オレは皆に向けて、そう話した。
スルティアも、ティアと呼ばなかったことで3人に隠す必要がないと理解してくれるだろう。
オレは今回の相談の内容から、スタン達を信頼することにした。
少なくとも、こいつらに話すことでスルティアに害が及ぶことはないだろう。
「スルティア…だと?」
スタン達はスルティアの名前を聞いて驚愕している。
普通、スルティアなんて名前が付けられるはずがないからね。
「オレ達の仲間で、スルトの建国王フィリプの仲間のスルティアだ。スタン達なら、『学園の支配者』って言えば分かるか」
スタン達はスルトの人間ではないけど、他国の重要人物達だから、スルティア学園の特殊性は聞いているはずだ。
「そ、そうか…。彼女が…」
「マジかよ…」
「実在したのね…」
スタン達はスルティアの正体を聞いて唖然としている。
「スルティアのことは口外禁止な。じゃあ、本題に入ろう。まずはスタンの相談からだ」
オレはスタンに発言を促した。
「スタン様、俺から言おうか?」
「いや、いい。私が言うべきだ」
ヤニクがスタンを心配して、代わりに発言することを提案したが、スタンはそれを断った。
「…相談というのは、我が父、ラウル・バウティスタのことだ。世間的には処刑されたことになっているが、実際は生きて幽閉されている。それは知っての通りだ」
スタンはオレ達を見回しながら話す。
「そうだな。処刑しなくていいと言ったのは、オレ達だからね」
オレはスタンの話に頷く。
知っての通りというのは、あくまでここにいるメンバーだけの話。
他に知っているのは世話をしている者だけだ。
戦後、オレ達はラウル・バウティスタをこっそり生かした。
1番の理由は、スタンのことを考えてだ。
仕方がないとはいえ、親を処刑されれば恨みが残るだろう。
世間の納得より、スタンとの良好な関係をオレ達は選んだ。
とはいえ、世間の納得も大事なので、公式には処刑されたことになっているし、処刑されるところを見た者達もいる。
魔法でそれっぽく見せたフェイクだけど。
「うむ。貴様には感謝している…。私は、厚顔にもそれに飛び付いてしまった…」
スタンは目を伏せて、後悔しているように話した。
「まだ誰も、気がついている人はいないんでしょう? いいじゃない、それで」
何となく相談内容を察したのか、ネリーはスタンを説得するようにそう言った。
「…いや。スルトの上層部がセイを疎んでいる今、このことは謀反の疑いをかけられるなど、大きな傷になりかねない」
スタンは顔を上げ、ネリーの目を見て真剣な顔で言った。
「ラウル・バウティスタは、処刑するべきではないのか?」
そしてそう続けたスタンの目は、誰が見ても泣くのを堪えているようにしか見えなかった。




