第20話 スルトでの立場
「こんなに魔力を使ったのは、あの戦争以来だ…」
スタンはそう言いながら、創ったばかりの炭鉱都市の宿のベッドに倒れ込んだ。
"都市創造"の手伝いで、スタンとヤニクさんからもかなり魔力を使ってもらったからね。
疲れが出るのは仕方がない。
「なぜマジッグバッグにベッドや家具が…」
カロリナさんが不可解そうに呟いている。
あなたの部屋は隣なんですけど…。まぁ、いいか。寝るまで1人ってのも寂しいよね。
「オレのマジッグバッグは容量が多いんですよ」
ダンジョン・アルカトラ踏破報酬のマジッグバッグだからね。メチャクチャ容量が多いんだよ。
手ぶらでいられる空間収納の方が便利ではあるんだけど、出し入れに魔力を使う上に、入れているものの重量に比例して最大魔力量が減ってしまうというデメリットもある。
なので、オレの空間収納には、即座に出し入れをしたいものを除いて、たくさんのマジッグバッグが入っている。
これで空間収納の重量問題が解決するのだ。
かさばらないようにマジッグバッグにマジッグバッグを収納するというのは割と有名なので、オレがベルトポーチからマジッグバッグを取り出しても特に怪しまれることもなかった。
ここに賢者や大賢者の爺さん方がいれば、魔法の気配がーとか言われてたかもしれんけど。
「それにしても、たった1日で街道も町も完成しちまうとはなぁ…。化物なんて言葉じゃ足りねーぜ。戦闘だけじゃなかったんだな、お前はよ」
ヤニクさんが、どっこいしょとベッドに腰掛けた後にそんなことを口にする。その仕草はどう見てもおっさんだ。
「まだまだですけどね。どっちかと言えば戦闘以外の方が得意なんですよ」
そう。まだまだだ。特に戦闘面は。
少なくとも、毎日の修行を欠かすことはできない。
アカシャがいるからこそ分かる。
上には上がいる。
「まだまだねぇ…。お前にそれを言われると立場がねぇな。まいったまいった」
ヤニクさんの言葉は軽かったけど、ガシガシ頭を掻く姿は悔しそうだった。
「……貴様、スルトでの立場は大丈夫なのか?」
多少の沈黙の後、スタンが突然神妙な面持ちで話しかけてきた。
「スルトでの立場?」
いきなり話が変わったな。
スタンの雰囲気からして重要な話なんだろうけど、その言葉では情報が足りなくて、何が言いたいのか分からん。
「噂がある。スルトの上層部はあまり貴様のことを良く思っていないとの噂だ」
オレが話を聞くつもりなのを見て、スタンはベッドから起き上がり、座り直して真剣な顔で語り始めた。
「ああ、それか。どうなるんだろうな? スルトに利益をもたらせば歓迎されるというわけでもないらしいね」
スタンが何を話したいのか分かった。
もちろん知っている。
噂も、その噂の発生源も。
第1王妃とノバク、ペトラ殿下、そして…王だ。
何をしたいのか予想はできるけど、相談して行われていることではないので、どうなるかはまだ知らない。今はまだ彼らの頭の中だ。
謀殺とか、具体的な計画を立てた段階で分かるだろう。
オレも興味深く観察している。
「まるで他人事だな。もはや貴様の存在はヘニルにとっても欠かせぬ。敗戦後、限りなく混乱を抑えらているのは、旧体制を維持しつつ改革を進めているからだ。だが、それも貴様の後ろ盾あってのこと。今貴様に潰れられては困るのだ」
スタンの言葉は切実だった。
ヤニクさんとカロリナさんも頷いている。
確かにオレがいなくなれば、ヘニルの待遇は確実に今より悪くなるだろう。
彼らの心配はよく分かる。
彼らはオレに情報を伝えて注意を促してくれているのだ。
でも、注意はすでにしている。
これ以上の対策はオレにも何かしらのデメリットがある。
そしてオレは、それを望んでいない。
「できるだけの対策はしてるよ。あとは、向こう次第さ」
だからオレは、そう答えた。
向こうに合わせて、対応を決めるだけだ。
用意はしてある。
「ふ。貴様は恐ろしい奴だ。敵でなくなって心から良かったと思う。…む、どこに行くのだ?」
「修行だよ。日課なんだ。一緒に行くか?」
なんかスタンが格好つけた台詞で話を締めたので、オレは笑顔で席を立った。
「ま、まだ魔力に余裕があるというのか!? 化物め!」
スタンは顔芸が上手だなぁ。
魔力は割合回復だからね。
最大魔力量が多ければ多いほど、魔力回復量も多いんだよ。
この辺りの魔物を狩り尽くすくらいなら全然いける。
「俺は行くぜ。まだまだだからな」
ヤニクさんは挑戦的な笑みを浮かべてベッドから立った。
今度はどっこいしょとは言わないんだね。
分かってるよ。あれはわざとだったって。
「歓迎しますよ」
オレはニヤリといたずらっぽく笑って言った。
1人でやるより楽しいし、狩りだけじゃなく対人戦もできる。
「私も行くわよ」
「くっ…! 無論、私も行く!」
スタンは参加すると言ったヤニクさんとカロリナさんを見て嫌そうにしつつも、自らも参加すると言った。
そんなスタンだったが、結局この後の修行では、魔力切れで気絶するまで頑張った。
根性ならお前がナンバーワンだな。




