第18話 ヘニル領地改革
沈没船探索から戻った後、オレ達は残りの夏休みを使って、領地経営に手を付けることにした。
オレとアレクとネリーはそれぞれ別行動することになったが、2人とも上手くいっているようで良かった。
オレの方はというと、ここまでの日程では、スタンにどこをどう改善すれば領地が改善するかという情報を、まるで領地を見て回ってきたかのように伝えることがメインだった。
スタンはその情報を元ヘニル王であるヘニル領主に伝え、相談し、計画を立て、指示を出すことに奔走していた。
ちなみに、似たようなことは戦後にオレがコンサルタントとして領地経営に関わり始めてからすでにやってきた。
その結果の最たるものがミスリル鉱床の発見である。
ゆえに、最初は戦勝国の人間の指示だからと渋々従っていた者達も、今では迷いなく従ってくれる者が多くなった。
もちろん、感情的な問題などもあり、全員ではないけれど。
「なにぃ!? ミスリル鉱床の視察に行くから付き合えだとっ!? セイ・ワトスン、貴様、私を殺す気かっ!」
元は王城である領主の城の会議室で、オレの言葉を聞いたスタンは、唾を飛ばすような勢いでツッコんできた。
スタンは領地改革でメチャクチャ忙しく、目の下にクマができていた。
まぁ、半分はオレのせいだ。
とはいえ、急げとは言ってないし、ゆっくりやっても劇的に改善するので、半分はスタン自身の責任だと思う。
「いやいや。逆だよ。お前が過労なのは知ってるから、視察でもして羽根を伸ばしたらどうかってこと」
オレはスタンをなだめるような調子で話した。
少なくとも、今の状況なら視察に行った方が睡眠時間は多く取れるだろう。
領地経営なんて、商売でもそうだけど、ゴールが決まってないものは、突き詰めれば仕事は無限にある。
できる限り全部やろうって考えると、いくら時間があっても足りないものだ。
思い切って、今日はこれだけと決めてやることも重要なんだろう。たぶん。
要するに、スタンは真面目すぎるってことだ。
どうせ休めって言っても、私には責任がとか言って休まないだろうから、強制的に他の仕事ができなくなるような仕事を振るのが良いだろう。
「なるほど。それは良い提案ね」
元『肆天』、今は『弐天』のカロリナ・アザレンカがオレの提案に相槌を打つ。
わりと切実な声色だ。
四天将は現在は二天将と名称を変え、主に領主かスタンの護衛と仕事の補佐をしている。
つまり、スタンが頑張りすぎている煽りを食っているのだった。
彼女の目にも、化粧では隠しきれないクマがある。
美人が台無しであった。
「俺も俺も! 俺も行くぜ!」
元『弐天』、現『壱天』のヤニク・イスナーも大喜びで手を挙げてアピールする。
修行以外はいいかげんな男である彼からすれば、今までの状況はかなり過酷だったのだろう。
スタンとカロリナに怒られながら、仕方なく真面目に仕事をしていた。
「き、貴様らまで…。領主様、いかがいたしましょう…?」
2人の様子に困ったらしいスタンが、領主様に判断を仰ぐ。
「はぁ。行ってこい。ワシもお前は働きすぎだと思っておった。莫大な利益が見込めるミスリル鉱床は最重要案件でもある。こちらは何とかしておこう」
ヘニル領主はため息をつきながらも許可を出した。
アカシャの試算でも、3人が抜けても問題がない計算だ。
すでにオレが渡した情報は通達され、忙しさのピークは過ぎた。
最悪、結果待ちでもいい状況なのだ。
焦り気味のスタンが次々と新しい仕事を入れているだけで。
領主はその辺りをちゃんと分かっているようだ。
「かしこまりました。セイ、そういうことだ。我らも同行しよう。だが貴様、まさかただ見に行くだけではあるまいな?」
仕事中毒のスタンがオレをギロリと睨んでくる。
「もちろん。せっかく行くんだ。計画を大幅に前倒しにする。協力頼むよ。それから、領主様、今も鉱夫の募集はやっていますよね?」
「うむ。当然だ」
オレの質問にヘニル領主が頷く。
「スルトですでに集まっている分の出資金をお渡しします。給与はもっと上げましょう。また、鉱夫や精錬の職人だけでなく、医者や商人などを始めとしたあらゆる職種で移住者の希望を募って下さい」
オレは領主に要望を伝える。
「まだ集落とも呼べないほどの拠点しかないのだぞ。時期尚早なのではないか?」
領主がオレの意見に対して難色を示す。
「……あ。やはり、アレは貴様の仕業だったのか!」
オレの意見を聞いた後に何かを考えていたスタンが、領主の言葉をきっかけにピンときたのか大きな声を上げた。
あの時、ヘニル王としてスタンと一緒に来ていた領主も、スタンの言葉にピンと来たようで、目を見開いてオレを凝視する。
オレはニヤリと笑った。
「イザヴェリアと似たようなことをする予定です」
ミスリル鉱床も浮遊大陸と同じで、仕事の創出が優先ではない。
時短していいところは時短してしまおう。
オレは領主やスタンと詳細を話し合った。




