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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第3章 大陸動乱

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第17話 トンプソンたる所以

 次の日。泊めてもらった村長の家で、ネリーは朝早くから起き出し、隣でだらしなく寝ていたベイラをすり始めた。



「ベイラ、ベイラったら! 起きて!」


「う、うぅん…。もう食べられないの…」



 ベイラは目をましたが、まだ半分夢の中らしい。


 前日の宴会でたらふく食っていたのに、夢の中でも食っていたのか。

 相変わらず食い意地が張ってんなぁ。



「もう、寝ぼけてないで起きなさい! 行くわよ!」


「はっ…! え、行くってどこに?」



 ネリーが寝ぼけまなこのベイラを叩き起こすと、ベイラは疑問を口にした。


 どうやらベイラはネリーの意図いとが分かっていなかったようだ。



「決まってるじゃない。領民のお悩み解決よ!」



 ネリーは自信満々に笑い、胸を張って答える。


 やっぱりそうか。

 ネリーは昨日の宴会で聞いた領民達の要望を叶えてあげるつもりのようだ。






 ネリーとベイラは森にやって来ていた。


 まずは村長に聞いた、農地をひろげたいという要望を叶えるつもりらしい。

 ネリーがベイラに道すがら説明していた。



「なるほど。ただ宴会えんかいしただけじゃなかったの」


「当たり前じゃない。私は領主なんだから! まずは魔物退治からよ。ここから左側は私がやるから、ベイラは右側お願い」



 ネリーは村を囲むさくを乗り越えて少し離れた森に踏み入れると、おもむろに落ちていた枝で地面に線を引き始めた。



「なるほど。あたち達に合ってるの」



 ネリーの動作と言葉を見て、何をしようとしているかピンときたらしいベイラが、ニヤリと笑った。


 そして早速、ネリーが引いた線の右側に向かって手を伸ばしている。



「ミニドラちゃんは先にやってるから、索敵に引っかかっても攻撃しちゃダメよ」



 ネリーがベイラに注意をうながす。


 ミニドラは早朝そうちょうからすでに、この森の奥の方で強めの魔物を狙って狩っている。


 ミニドラはそう簡単には死なないけど、フレンドリーファイアは最悪だからね。



「はいはい、任せるの。複合魔法……"一斉掃討いっせいそうとう"」



 ベイラは軽い返事をした後、よく集中して複合魔法を使った。

 オレが教えた複合魔法ではあるけど、ベイラが使ったのは索敵魔法と風魔法と引力魔法で、攻撃魔法の部分がアレンジされていた。



「……"一斉掃討"!」



 ベイラに少し遅れて、ネリーも複合魔法を使った。

 こちらは攻撃魔法が火魔法だ。


 2人とも練習の成果がよく出ている。



「ふっふっふ。一斉掃討は風が至高しこうなの」



 魔法を使って少し経つと、たくさんの魔物の死体が2人めがけて飛んできた。引力魔法の効果だ。


 ただ、2人が狩った魔物の状態には顕著けんちょな差があったので、ベイラはご満悦まんえつである。


 2人がそれぞれ持っているマジックバッグに、次々と飛んできた魔物が吸い込まれていく。


 ベイラが狩った魔物は全て風魔法で首をはねられているので、死体が綺麗きれいに残っている。


 対してネリーが狩った魔物の死体は、頭が焼失しょうしつしていたり全身が黒焦くろこげだったりして、素材としては使い物にならない状態だった。


 ベイラが言うように、明らかに攻撃魔法の性質の差が原因だな。


 オレも普段はターゲットの取りやすさから爆裂魔法を使うけど、素材を回収するときは風にしようかな。



「くっ…。いいじゃない! 今日は素材回収がメインじゃないんだから!」



 そう言いつつも、ネリーはメチャクチャ悔しそうだった。


 回収の間中あいだじゅう、ベイラの勝ち誇った笑いが続いていた。







「あ、しまった…。魔封石まふうせきまってる場所が分からない…」



 魔物退治が終わった後、森の木を伐採ばっさいして、土魔法で畑を作り、簡単にたがやすところまでは順調だった。


 しかし、村を囲む柵のところまで戻ったところで、ネリーは計画に抜けている所があったことに気付いたようだ。



『アカシャ、頼んだ』


『お任せ下さい』



 オレの肩の上からアカシャが消えた。


 オレはオレでスタン達と行動を共にして領地経営の手伝いをしている最中だけど、アカシャにフォローを頼むくらいは問題なくできる。


 アレクの方も病気の人を治す予定らしいから、念のためちゃんと完治かんちしたかどうかだけはアカシャがアレクに伝えることになっていたりする。


 アカシャがオレのそばを離れている間は、向こうの映像を見ることができないけど、それはしょうがない。

 気になるから、アカシャが戻り次第、続きの映像を見せてもらおう。




「げっ。まさかこの下全部掘り返すの?」



 戻ったアカシャに続きを見せてもらうと、ベイラがネリーの言葉を聞いて、いやそうな声を上げたところだった。


 場所が分からなければ、全部掘り返すか、何らかの方法で探知するしかないからね。


 魔封石は村を囲む柵の下に一定間隔いっていかんかくで埋まっている。

 こうすることで、その範囲内に魔物が入ってこなくなるのだ。

 これがこの世界の村や町が魔物におそわれない仕組みだ。


 ちなみに、完全に魔封石に囲まれた空間では魔法すら使えなくなる。

 こっちは王城で魔法が使えない仕組みだ。



「その必要はありません。わたくしが場所を教えましょう」



 ベイラの質問に対してネリーが答える前に、フォローに向かったアカシャが2人のそばに現れ、無表情で言葉をげた。



「「アカシャ!?」」



 ネリーとベイラが驚いてアカシャの名前を口に出したが、聞き耳を立てている者がいないのは知っているので問題ない。



「ご主人様から、情報があれば解決するようなことは手伝ってやれ、と言われておりますので」


「そ、そうだったの…。突然だったから、びっくりしたわ。ありがと」


「おかげで時間も魔力も節約できるの」



 アカシャが現れた理由を告げると、ネリーとベイラは納得の表情でそれぞれお礼を言っていた。


 その後は、アカシャが指示した場所を2人が土魔法で掘り起こして魔封石を取り出していく作業が始まり、短時間で終わった。


 やっぱり、オレのアカシャは最高だね。





「よし。これで完成っと!」



 新たに作った畑の外側に柵を移動し、その下に魔封石を埋め直したところで作業は完了だ。


 ネリーがいい顔でひたいの汗をぬぐう。


 まぁ、ぶっちゃけると、外周が広がったせいで魔封石が数個足りてないんだけどな。


 短期間なら問題ないから、後で魔封石を用意して教えてあげよう。



「ふぅ。いい仕事したの。じゃあ、帰るの!」



 ベイラもいい顔で言ったが、ネリーに肩をつかまれる。



「なに言ってんのよ? 次の仕事よ!」


「ええー? まだあるの?」



 ネリーは張り切った顔で、ベイラはもうきたという顔で声を出す。


 結局ベイラがれて、この後も次々と村人の要望をかなえていくのだった。






「なんですと!?」



 夕方前、ネリーとベイラが村長の家に戻って報告をしたが、村長はその言葉を信じられなかったようだ。

 驚きの表情で聞き返している。



「だから、あなた達の要望の中で、私達にできることはやっておいたわ。農地の拡張とか街道の設置とか色々」


「さ、酒の席で話したことですか!? 昨日の今日ですぞ!?」



 村長は目をむいて、身振り手振りまで使って話す。

 よほど信じられないんだろう。


 まぁ、やることなすこと全て普通の貴族じゃ有り得ないからね。

 普通と思ってるのはネリーだけだ。



「魔法は便利なのよ。それに、私達は今回みたいなことに特化した魔法も知ってるし」



 ネリーは何でもないことのように話す。


 オレはお前がスゲー頑張って土木系の複合魔法とか覚えてたの知ってるけどな。


 全く恩着せがましくないとこがすごいと思う。



「し、信じられない…。普通の貴族様ではないと思っておりましたが…。私共わたくしどものために、ありがとうございます」



 村長も確認したわけではないけど、嘘ではないと感じたんだろう。

 深く頭を下げてお礼を言った。



「ふっふっふ。もっと感謝してもいいの」



 ベイラ、お前はネリーのつめあかせんじて飲んだ方がいいんじゃね?

 オレもだけど。



「もう、ベイラったら。 領主なんだから、領民のために働くのは当然なの! じゃあ村長さん、そういうわけだから、私達は次の村に行って来るわね」



 ネリーはそう言って、嘘でしょ今から?という顔のベイラの腕を引っ張り、風のように村長宅から去っていった。



「と、当然…? はは…。なるほど、あれがトンプソン。死兵になってでも守ろうとするわけですな…」



 村長が去っていくネリーの後ろ姿を見ながらつぶやく。


 村長はネリーのことも、ガエル・トンプソンのことも知っていた。

 というか、ヘニルで『赤鬼』のことを全く知らない人はほぼいない。


 中にはこの村長のように、なぜ兵たちが自らを肉壁にくかべとしてでもガエル・トンプソンを守ろうとしたのか、ということに疑問を持っている人もいるんだろう。


 そうだ。これが答えなんだよ。

 今までの領主とは全く違うだろう?


 ネリーのじいちゃん、見てるか?

 あんたの孫は、あんたの意志をいで、立派に『貴族の中の貴族』をやってるよ。




 その後も、ネリーとベイラはヘニル地方トンプソン領内で大活躍した。

 そして、過去の戦争を知る元ヘニル国民達は、トンプソンがトンプソンたる所以ゆえんを知るのだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ネリーらしく、トンプソンらしく 死兵となるの下り、ほんとかっこよくて好き。 [一言] アレクもいいけどネリーもいい… 作者神か。
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