第16話 適材適所
夏休みの残りを使って領地経営に着手することにしたオレ達は、ひとまずバラバラに行動することになった。
オレは元ヘニル王都でスタンの補佐。アレクはベルジュに行った後にヘニルの自領へ。
そしてネリーはベイラとヘニルの自領へ行くことになっている。
ネリーとベイラの組み合わせというのは、なんとなくやらかしそうな気もするので少し不安だ。
基本的にはアカシャに、何かあれば教えてと言ってあるけど、オレもちょっとした隙間時間や夜などに様子を見たりしている。
今ちらっと見た感じでは、どうやらミニドラに乗って、スルトからヘニル地方トンプソン領に移動している途中らしい。
「私はアレクみたいに、教えてもらった情報を全部覚えておくなんて無理!」
ネリーは制服のとんがり帽子を片手で抑えながら、ベイラと会話している。
そうだな。ネリーじゃなくても無理だと思うぞ。
「あれはアレクにしか無理なの。で、どうするの?」
ベイラが丁度オレも気になっていたことを聞いてくれた。
ネリーのヤツ、なんか自信満々で、特に相談とかなかったんだよね。
どんなことをしようとしてるんだろ?
「考えがあるわ! 行くわよ、ミニドラちゃん!」
「ガッ!」
何か考えがあるらしく、楽しそうだ。
何をしようとしてるかは、オレも楽しみにしておくか。
自領についたネリー達は、この領唯一の小さな町の中にある領主館を訪れていた。
「というわけで、はいコレ! 書いてあることを参考にするといいわ! 領地経営はあなたにお任せします!」
考えがあるって、コレかよ!
オレは映像の中のネリーの言葉に、心の中でツッコミを入れた。
「はっ! お任せ下さい、ネリー様!」
ネリーの言葉にビシッと敬礼して答える、まだ若い代官。
まぁ、若いって言っても20代で、オレ達の方が若いんだけど。
ネリーの領の代官は、先の戦争でいつの間にかネリー親衛隊の一員となっていた、男爵家の三男である。
ネリーへの忠誠心の高さから採用となった。
基本的に、先の戦争で何らかの理由で領主がいなくなった旧ヘニル領が、スルトで戦功が著しかった者に与えられた土地だ。
戦勝国の者が新たな領主になることにもっと反発があるかと思ったけれど、ほとんどの領地ではそんなことはなかった。
民からすれば、自分達の暮らしが守られていれば、領主が誰であろうとあまり興味はないのかもしれない。
ここもそんな領地の1つだが、現状では代官が前任者を踏襲しているため、経営はあまり上手く行っていない。
確かに、ネリーが渡したあの紙にはこの領地を発展させる情報が詰まっている。
あれを使えばオレ達がいなくても領地経営は上向くだろう。
だけど…。
「えぇ……。まさかの丸投げなの…?」
ベイラの言う通りだよ!
それじゃあ面白くないだろうよ…。
「失礼ね。適材適所ってヤツよ! 私達は別のことをするの!」
ああ。そういうこと…。
ごめんネリー。オレも失礼だった。
適材適所かぁ。何するんだろ。
楽しみだなぁ。
その夜、領内の村に移動したネリー達は。
村民達を集めて、キャンプファイヤーを囲んでバーベキューをしていた。
宴会かよ!
くっ。オレも行きてぇ。
でもさすがに、このためだけにずっと隠してきた転移を使うわけにもいかないよなぁ。
「あっはっは。なるほど! 確かにコレは、あたち達に合ってるの!」
ベイラがダンジョン産リンゴを片手に持ちながら、果実酒を飲んで笑う。
「はっはっは! ネリー様、ベイラ様、この肉は美味いですなぁ! やはり貴族様が食べられる肉はひと味もふた味も違う!」
この村の村長が、ネリーが用意した肉に舌鼓を打つ。
この村の人達は、ネリーがトンプソン家の、『赤鬼』の孫だと分かっても恐れる様子がない。
ネリーのじいちゃんのことは知ってるはずなんだけどね。
ネリーのコミュニケーション能力が凄すぎるのかな?
子供達はミニドラに乗ったりして遊んでるし。
「ん? ああ、それ。この前狩ったリヴァイアサン。いつも食べてるわけじゃないわよ」
「ぶふっ…! リッ、リヴァイアサン!?」
村長は、ネリーがぶっちゃけた肉の正体を聞いて、飲んでいた酒を吹き出しかける。
ネリーがリヴァイアサンの肉を多めに欲しがったのはこれが目的だったんだな。
てっきり、アカシャがリヴァイアサンの肉をとても美味と言ったのを聞いて、欲張ったのかと思ってたよ。
それならそうと言えばいいのに。
「ふふっ。そんなに驚かなくてもいいのに。あ、そうだ! 村長の目から見て、こうだったらもっと村が良くなるのになぁって思うこととかある?」
ネリーは急に思いついたように、村長に質問をした。
でもそれは、いつも一緒にいるオレからすると、わざとらしすぎた。
なるほど。そういうことか。
ただ仲良くなろうとして宴会を開いたわけじゃないんだな。
オレやアレクにはない発想だ。面白い。
というか、こっちの方が面白いよな。
今度、オレもこんな感じでやってみよう。
「え? ううむ、そうですなぁ…。もう少し農地が広く取れれば良いとは思いますな。でも、森を切り開く必要がありますし、そうなると森の魔物もどうにかせんといけませんので」
村長はネリーの質問に対して、酒の席での軽い世間話という感じで話した。
おそらく、ネリーの思惑どおりに。
「なるほど。現実的には厳しいってわけね。ありがと! 私、他の村人達ともお話して来るわね!」
そう言って、ネリーは村人達とも打ち解けつつ、要望を聞いて回った。
なんだ。何も心配する必要なかったな。
ネリーは勉強が苦手なだけで、オレよりずっと優秀だった。
なるほどなぁ。頭で考えてるだけのことはアカシャにも分からないからな。
それを引き出すなんて、まさに適材適所ってヤツだ。




