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第17話 急転

 


 5歳になった。


 レベルも12まで上がり、魔力は以前とは段違いに増えた。


 魔力が満タンのときでないと効果が出ない瞑想を除き、魔力を満タンにしていても勿体もったいないだけというのがオレの考えだ。


 魔力は1時間に5%、睡眠時20%回復するけど、満タン時はそれ以上回復しないからね。


 増えた魔力を使って、今まで実家にしかやっていなかったことを村全体にひろげた。


 畑の収穫を増やしたり、掃除や洗濯代わりに汚れを落とす魔法を使ったりすることなどだ。


 村は3年連続の大豊作で景気も良くなり、衛生面も保たれ、生活環境が整ってきたと思う。


 もちろん、日本とは比ぶべくもないほど不便であることに変わりはないけどね。


 それから、今目の前にいるワトスンさんは食生活を良くしてくれた功労者だ。



「それじゃあ、村長。また3ヶ月後くらいに来ます。セイくんもまたね」



 ワトスンさんは下手くそなウインク付きでオレに挨拶をしてきた。

 ちょっとナルシスト気味の面白い人だ。


 イケメンとまではいかないけれど、金髪碧眼きんぱつへきがん優男やさおとこで、彼のおかげで少量でも胡椒や砂糖が手に入るようになった。


 味付けが塩一択な食事からの解放はとても嬉しい。



「最近では手のひら返したように色んな行商が来よるがの。うちの村はこれからもお主を一番に優遇するぞい」


「面白い話をたくさん聞かせてくれるのはワトスンさんだけだしね」



 両手を頭の後ろで組んでおどけてみせるが、言外に、ワトスンさん以外には情報は渡さないよって意味を込めておく。


 ワトスンさんが来たときは、いつもオレが土産話をねだりに行くというていで村長の家に泊まり、ワトスンさんに情報を渡している。


 ワトスンさんはオレの情報で順調に稼いでいて、もうすぐ王都に店を構えることもできそうだ。


 王都での後ろ楯(うしろだて)を得る計画も順調である。


 ワトスンさんはオレの言外の意味に気付いたのか、村長の言葉が嬉しかったのだろう。

 笑いながら深くうなづいた。



「村長、お気遣いありがとうございます。セイくんには、また面白い土産話を聞かせられるように頑張るよ」



 おっ、伝わってたかな。

 たぶん今のは、情報を上手く使って稼いでくるよって返してくれたんだと思う。


 そうしてワトスンさんはいつも通り、オレと村長が見送る中、日が出て間もない早朝に馬車を走らせて帰っていった。



「ワトスンくんも立派になったもんじゃな。行商を始めて間もない頃とは見違えるようじゃ」


「オレが初めて会った時と比べても自信が付いたように見えるよ。昨日も、最近はかなり稼げるようになったって喜んでた」


「うちの村もここ数年で大きく変わった。3年も連続してこれまで見たこともない大豊作など、誰が想像したじゃろうか」


「うん。普通じゃないよね」


「良いことずくめではあるが、ワトスンくんもわしらも、急激な変化に対応できるといいんじゃが」



 そんな話をしながら、村長を家に送っていった。


 前はオレが送ってもらっていたけど、オレももう5歳だし、村長はこの世界じゃ有数の高齢者だ。

 いたわらないとね。



『さて、村長も送ったし、帰ろうかアカシャ』


『かしこまりました。起きたばかりで魔力も満タンです。帰ったらまずは瞑想から始めましょう』


『オッケー。今日も張り切って訓練といきますか!』



 今日も平和だ。


 ここまでは、そう思ってた。







 オレは家に帰って瞑想をして、朝飯を食べ、一人で散歩してくると言って家を出た。


 最近では、日中に家で瞑想や魔法の練習をすることは難しい。


 赤ちゃんの時とは違って、ベッドで寝てるのが普通とはならないからな。


 収穫期が終わって、今日は誰も来る予定がない家の畑の近くの木陰で瞑想をすることにした。


 アカシャに昼飯の時間になったら教えてくれとお願いし、木陰に座って瞑想を始める。


 12個に増えた淡い緑色の光の玉から、核魔力の玉を見つけ出し、じっと見つめる。


 季節は夏なので、木陰が気持ちいい。

 気を抜くと眠ってしまいそうだ。




 しばらくすると、アカシャが声をかけてきた。


 瞑想中は時間の感覚がよく分からなくなるけど、それでも昼飯の時間にはまだ早い気がした。



「ご主人様、困ったことになりました」


「困ったこと?」



 アカシャが困ったなんて言うのは初めてだ。


 昔、といっても数年前だけど、迷子事件があった時でさえ困ったとは言ってなかったと思う。


 オレは瞑想を解いて目を開け、定位置の肩の上に座っている銀髪メイド服の妖精を見つめた。


 見た目はいつも通りだ。

 でも、アカシャはいつも通りの冷めた目をしながら、いつも通りの平坦な声で、とんでもないことを言ってきた。



「ある有名な盗賊団が、次の標的をこの村に決めました。約1週間後に、この村は襲われます」


「えっ!?」



 盗賊団!? なぜ、そんなことに?

 思いもよらないことを聞いて、頭が真っ白になる。



「普通の盗賊であれば、今のご主人様ならば蹴散らすことも容易たやすかったでしょう。しかし、この盗賊団のかしらにはまだ勝てません」


「つまり、どうすればいいんだ? どう対策すればいい?」



 アカシャの情報が頼りだ。

 アカシャさえいれば、きっと何とかなる。



「この村を捨て、逃げる。それ以外に確実に村の者全てが生き残る方法はありません」



 オレはこのとき言葉を発しただろうか。

 発していたとしても、え…とか、は…とか、そんな間抜けな言葉だっただろう。


 足元が急に全て崩れさったら、きっとこんな風になるに違いない。


 アカシャが絶対だと思っていただけに、オレの絶望は果てしなかった…。




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